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by nicoxz

GMから消えた3000人が映す米EV政策の逆回転

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はじめに

2026年1月5日、米ミシガン州デトロイト。「車の街」として知られるこの街にあるゼネラル・モーターズ(GM)の電気自動車(EV)専用工場「ファクトリー・ゼロ」から、約1,100人の従業員が去りました。これはGMのEV事業縮小の一端にすぎません。

バッテリー工場を含めると、GMのEV関連で職を失った労働者は合計3,000人規模に達します。かつて「最大の投資」と称されたEV事業が、いまや60億ドルの特別損失を計上する事態に。米国のEV政策が逆回転する中、「電池砂漠」とも呼ばれる厳しい現実が広がっています。

ファクトリー・ゼロの栄光と転落

未来を託したEV専用工場

GMは2021年、デトロイト市中心部から車で10分の場所にある工場を全面改修し、EV専用の「ファクトリー・ゼロ」として稼働を開始しました。ゼロエミッション(排出ガスゼロ)を意味するこの名称には、自動車産業の脱炭素化を先導するというGMの決意が込められていました。

この工場ではシボレー・シルバラードEV、GMCシエラ・デナリ、キャデラック・エスカレードIQ、ハマーEVのSUVとピックアップトラックが生産されてきました。GMの電動化戦略の中核を担う存在でした。

大量解雇と生産半減

しかしEV需要の低迷を受け、GMは2026年1月にファクトリー・ゼロの生産能力を半減させる決断を下しました。約1,140人が恒久的に解雇され、生産は1シフト体制に縮小されています。

FOX 2デトロイトの報道によれば、解雇された従業員の多くは再就職先を見つけられず、深刻な生活困難に直面しています。GMは記録的な利益を上げている一方で、EV部門の大幅な人員削減を進めるという矛盾した状況にあります。

「電池砂漠」の広がり

バッテリー工場も操業停止

影響はファクトリー・ゼロだけにとどまりません。GMとLGエナジーソリューションの合弁会社「Ultium Cells」が運営するバッテリー工場でも、大規模な人員削減が進行しています。

オハイオ州ウォーレンの工場では850人、テネシー州スプリングヒルの工場では700人が一時帰休となり、両工場は2026年1月から6カ月間の操業停止に入りました。GMは2026年半ばまでに生産を再開する方針を示していますが、確実な見通しは立っていません。

さらにオハイオ州ローズタウンのUltium Cells工場でも600人以上が恒久的な解雇に直面しています。合計すると、GMのEV関連施設全体で3,000人以上が職を失った計算です。

テネシー州・カンザスシティでも縮小

テネシー州スプリングヒルの工場ではキャデラック・リリックとビスティックの生産が2026年前半の5カ月間にわたって削減されます。また、カンザスシティ郊外のフェアファックス組立工場では、新型シボレー・ボルトEVの生産開始のための第2シフト導入が「無期限延期」となりました。

米国EV政策の逆回転

税制優遇の撤廃が直撃

この事態の背景にあるのが、米国のEV政策の急転換です。EV購入時の7,500ドルの連邦税額控除が2025年9月末に撤廃され、消費者のEV購入意欲が大幅に低下しました。

GMの公式発表によれば、「消費者向けEV購入税制優遇の撤廃と排出規制の緩和を受け、EVの普及ペースは鈍化すると予想される」としています。実際に、連邦税額控除の廃止後の2025年第4四半期には、バッテリーEVの販売台数が前年同期比43%も減少しました。

60億ドルの特別損失

GMは2025年第4四半期に、EV事業計画の見直しに伴い約60億ドル(約9,000億円)の特別損失を計上しました。この金額は、GMが過去数年にわたってEVに投じてきた巨額投資の価値が大幅に棄損されたことを意味します。

ハガティメディアの報道によれば、この損失はGMの大型EVラインナップの生産縮小と、バッテリー工場への投資の減損が主な要因です。「史上最大の投資」と称されたEV戦略が、巨額の損失に変わった形です。

自動車業界全体への波及

他メーカーも軌道修正

EV戦略の見直しはGMだけの問題ではありません。フォードもEV部門で数十億ドルの損失を計上しており、米国の自動車メーカー全体でEV投資の縮小が進んでいます。

IER(エネルギー研究所)の分析によれば、連邦政府のEV支援策が後退したことで、メーカー各社はハイブリッド車へのシフトを加速させています。「全面EV化」から「段階的な電動化」へと、業界の戦略が大きく転換しつつあります。

サプライチェーンへの影響

バッテリー工場の操業停止は、部品サプライヤーにも連鎖的な影響を及ぼしています。ファクトリー・ゼロの部品供給を担っていたAvancez社も大量解雇を発表しており、EV関連のサプライチェーン全体が縮小しています。

ミシガン州やオハイオ州などの「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)と呼ばれる地域では、かつての製造業衰退の記憶が蘇りつつあります。EV産業が新たな雇用の受け皿になるという期待は、大きく揺らいでいます。

注意点・展望

GMのEV戦略の縮小は、EV市場そのものの終焉を意味するわけではありません。テスラは依然として販売を伸ばしており、中国メーカーのBYDは世界市場で急成長しています。問題の本質は、政策の不安定さがメーカーの長期投資を阻害している点にあります。

2026年半ばに予定されるバッテリー工場の再開が実現するかどうかが、GMのEV戦略の今後を占う試金石となります。また、2026年11月の米中間選挙の結果次第では、EV関連の政策が再び転換する可能性もあり、不確実性は依然として高い状況です。

まとめ

GMの「ファクトリー・ゼロ」から消えた3,000人は、米国のEV政策の逆回転がもたらした具体的な犠牲者です。税制優遇の撤廃と排出規制の緩和により、EV需要は急減速し、「電池砂漠」とも呼ばれる状況が広がっています。

自動車産業の電動化という大きな流れ自体は変わらないものの、政策の安定性が確保されなければ、メーカーも労働者も長期的な計画を立てることができません。日本の自動車メーカーにとっても、米国市場のEV政策の行方は経営戦略に直結する重要な要素です。

参考資料:

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