ドコモが830億円下方修正、販促費増と競争激化の全貌
はじめに
NTTドコモグループの業績に暗雲が立ち込めています。2025年4〜12月期の連結業績は営業収益が前年同期比2.0%増の4兆6,597億円と売上は伸びたものの、営業利益は同10.6%減の7,454億円と大幅な減益となりました。
さらに、2026年3月期の通期業績予想を下方修正し、営業利益は従来の9,660億円から830億円減の8,830億円に引き下げています。「独り負け」とも評されるドコモの業績悪化の背景には、携帯電話市場における激しいシェア争いと、それに伴う販促費用の急増があります。
NTTの島田明社長が「戦いには勝たないといけない」と語る中、ドコモはどのような戦略で巻き返しを図ろうとしているのでしょうか。
業績悪化の構造的要因
MNP競争の激化と販促費の急増
ドコモの業績悪化の最大の要因は、MNP(番号ポータビリティ)競争の激化に伴う販促費用の増加です。下方修正830億円のうち、MNP関連の販促強化費用だけで約1,130億円の減益要因となっています。
2025年9月末時点の携帯電話キャリアシェアを見ると、ドコモは39.7%でトップを維持しているものの、前期比で0.2ポイントの低下が続いています。一方、KDDI(au)は31.3%、ソフトバンクは24.8%、楽天モバイルは4.2%と、いずれもシェアを拡大しています。
純増数(契約者数の増減)では、2025年9月末時点でau(KDDI)が77万3,000件でトップ、ソフトバンクが69万5,400件で2位、楽天モバイルが36万件で3位となり、ドコモは32万400件で最下位に沈んでいます。契約者を奪われ続ける状況を打開するため、ドコモは販促費を積み増す「やられたらやり返す」戦略をとりましたが、それが業績を直撃する結果となりました。
端末購入プログラムの「想定外」
もう一つの大きな減益要因が、端末購入プログラム「いつでもカエドキプログラム」の収支悪化です。この影響で約300億円の減益要因が発生しました。
このプログラムは、端末代金の一部を「残価」として設定し、一定期間後に端末を返却すれば残価の支払いが免除される仕組みです。ドコモの想定を超えて、ユーザーが23カ月目のタイミングで着実に端末を返却する傾向が強まり、ドコモは想定以上の損失を被ることになりました。
この問題に対処するため、ドコモは2026年3月5日から「いつでもカエドキプログラム」に「プログラム利用料」を新設します。返却のみの場合は最大22,000円の手数料がかかりますが、ドコモで新しい対象端末に買い替える場合は無料となる仕組みです。auが先行して導入した類似の手数料に追随した形です。
ドコモの反転戦略と業界の行方
「今年が底」という見通し
ドコモはこうした苦境の中でも、2026年3月期が「業績の底」になるとの見方を示しています。減益要因に対しては、住信SBIネット銀行の連結化による約100億円の効果や、アセット売却による約500億円の収支改善を織り込んでいます。ただし、これらでは全額を賄いきれず、下方修正に至りました。
NTTの島田社長は「ドコモの顧客基盤の減少はそろそろ限界」との認識を示し、新料金プランやネットワーク品質の改善による反転を目指しています。ドコモの前田義晃社長も、通信品質の改善ペースを「3倍に維持する」と約束し、通信品質での差別化を図る方針を掲げています。
競合各社も楽観できない状況
ドコモの業績悪化は競合他社にとっても安心できる材料ではありません。MNP競争の過熱はキャリア全体の利益率を押し下げるリスクをはらんでおり、各社が販促費を積み増し合う「消耗戦」の様相を呈しています。
端末購入プログラムの条件変更も、au、ソフトバンク、ドコモの3社が相次いで手数料を導入する流れとなっており、業界全体で端末返却モデルの採算性が問い直されています。これは消費者にとっては実質的な値上げとなり、端末購入の負担が増える可能性があります。
注意点・展望
消費者への影響
ドコモの戦略転換は、消費者にも直接的な影響を及ぼします。端末購入プログラムの手数料新設により、2年後に端末を返却して他社へ乗り換えるユーザーや、機種変更をせずに返却のみを行うユーザーにとっては、これまで不要だったコストが発生します。
2026年3月4日までにプログラムを利用すれば従来の条件が適用されるため、端末返却を検討しているユーザーは早めの対応が求められます。
今後の業界動向
通信業界の競争環境は、単なる料金の安さだけでなく、通信品質、金融サービスとの連携、ポイント経済圏の拡大など、多角的な要素で争われる時代に入っています。ドコモが掲げる「成長への変革の年」が実現するかどうかは、2026年度の業績で明確になるでしょう。
まとめ
NTTドコモの830億円下方修正は、MNP競争の激化による販促費の急増と、端末購入プログラムの想定外のコスト増という二つの構造的問題が重なった結果です。「やられたらやり返す」姿勢で販促費を投入してきましたが、シェア防衛のコストが利益を大きく圧迫する事態となっています。
ドコモは通信品質の改善と新料金プランで巻き返しを図りつつ、今期を「底」として来期以降の回復を目指しています。消費者としては、端末購入プログラムの条件変更や料金プランの動向を注視し、最適な選択を検討することが重要です。
参考資料:
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