アフリカのレアアース開発で中国依存は崩せるか
はじめに
レアアース(希土類)は、電気自動車(EV)のモーター、風力発電機、医療機器(MRI)、スマートフォンなど、現代の産業に不可欠な素材です。しかしその供給は中国に大きく偏っており、2025年4月には中国が中・重希土類7種の輸出規制を発動し、価格が3倍に急騰する事態が発生しました。
こうした中、豊富な鉱物資源を持つアフリカ諸国が新たな資源外交に乗り出しています。単純な原料輸出ではなく、海外投資を呼び込んで現地で加工し、付加価値を高めるという戦略です。日本もアフリカとの連携を強化しており、中国の市場支配に風穴を開ける可能性が注目されています。本記事では、アフリカのレアアース開発の最新動向と日本の取り組みを詳しく解説します。
中国によるレアアース支配の現状と脅威
世界市場における中国の圧倒的シェア
中国は世界のレアアース生産量の約6割を占め、精錬・加工に至っては9割近くのシェアを握っています。この圧倒的な支配力は、採掘だけでなく中間加工から最終製品の材料供給まで、サプライチェーン全体に及んでいます。
2025年4月、中国商務部と海関総署(税関)は、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7種のレアアース関連品目について輸出管理を発表し、即日実施しました。これにより、所管当局の許可なしには輸出できなくなりました。
日本経済への深刻な影響
この輸出規制の影響は甚大です。2025年5月時点で欧州における取引価格は、ジスプロシウムが1キログラム850ドル、テルビウムが3,000ドルと、いずれも規制前の3倍に高騰しました。
野村総合研究所の試算によると、レアアース輸出規制が3か月続いた場合の生産減少額は約6,600億円で、年間の名目GDPを0.11%押し下げます。規制が1年間続けば損失額は約2.6兆円に達し、GDPの押し下げ効果は0.43%に上ります。特に打撃を受けるのは自動車産業、電子部品、風力発電、医療機器、航空宇宙の5分野です。
さらに2026年1月には、中国がデュアルユース品(軍民両用品)について日本への輸出管理をさらに厳格化すると発表しており、経済安全保障上のリスクは高まり続けています。
目覚めるアフリカ――資源外交の新戦略
資源ナショナリズムから付加価値戦略へ
アフリカ大陸は、レアアースをはじめとする重要鉱物の宝庫です。コバルト、白金族、マンガン、グラファイトなど、カーボンニュートラル社会の実現に不可欠な鉱物が豊富に埋蔵されています。
近年、アフリカ諸国では従来の「資源ナショナリズム」から一歩進んだ動きが広がっています。かつては外国資本による採掘に対して税率引き上げや輸出規制で対抗する姿勢が主でしたが、現在は海外からの投資と技術を積極的に受け入れ、自国内で鉱物を加工することで付加価値を高める戦略へと転換しつつあります。
ナミビアの先進的な取り組み
アフリカ南西部に位置するナミビアは、この新戦略の先駆者です。ナミブ砂漠の地下には、EVモーターの永久磁石に不可欠なジスプロシウムやテルビウムといった重希土類がまとまった量で埋蔵されています。
ナミビア政府は未加工の鉱物輸出を禁止する政策を打ち出し、国内での加工・精錬を条件とする方針を明確にしました。これは単なる輸出規制ではなく、「自国の資源を自国で価値に変える」という明確な産業政策です。2023年8月には、日本の西村経済産業大臣(当時)がナミビアを訪問し、鉱業分野の協力、投資環境整備、経済協力に関する共同声明に署名しています。
コンゴ民主共和国やタンザニアの動き
コンゴ民主共和国では、世界のコバルト生産量の7割以上を占める鉱山があり、近年の鉱業法改正で税額が大幅に引き上げられました。日本とはリチウムの新たな探査協力に合意しています。タンザニアでも鉱山企業に対する税制や輸出規制の強化が進んでおり、アフリカ全体で資源の自国管理と付加価値化の潮流が加速しています。
日本の対アフリカ戦略と具体的な連携
JOGMECを中心とした資源開発支援
日本のアフリカ資源戦略の中核を担うのが、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)です。JOGMECは日本企業がアフリカの鉱物資源開発に参入しやすくなるよう、複数の支援策を展開しています。
具体的には、外国企業と共同で鉱物資源を探すジョイントベンチャー(JV)調査が柱の一つです。ナミビアではレアアース鉱床、ザンビアではコバルトや銅の鉱床を対象としたJV調査が進行中です。特に注目されるのは、2020年1月からカナダのNamibia Critical Metals社と連携して進めているナミビアのLofdal Projectで、重希土類の商業生産を視野に入れた探鉱事業が進んでいます。
TICADを通じた多層的な協力関係
日本はTICAD(アフリカ開発会議)を通じて、アフリカとの包括的な協力関係を構築してきました。2022年のTICAD 8では、レアアース開発促進に向けたサプライチェーン調査や、衛星画像・地理情報システムを活用した金属鉱物資源の探査技術研修に関するMOU(覚書)がナミビアと締結されています。
また、総合商社の双日とJOGMECは、オーストラリアのレアアース企業レイナス社がマレーシアで精錬する重希土類(ジスプロシウム・テルビウム)の最大65%を日本向けに供給する契約を結んでおり、アフリカだけでなく多角的な調達体制の構築を進めています。
米国との協調と国際的なサプライチェーン構築
アフリカの重要鉱物をめぐる競争は日本だけの課題ではありません。2023年にはアメリカの対アフリカ直接投資額が78億ドル(約1兆2,000億円)に達し、中国の40億ドルを上回りました。米国がアフリカで中国を投資額で抜いたのは2012年以来のことです。
日米欧が連携して「責任あるサプライチェーン」を構築する動きが加速しており、アフリカ諸国にとっても投資国の選択肢が広がっています。中国一辺倒だった資源開発の構図が変わりつつあります。
注意点・展望
脱中国依存の難しさ
楽観は禁物です。中国のレアアース支配を崩すには、採掘だけでなく精錬・加工の能力を中国以外に構築する必要があります。新たな鉱山の開発から商業生産までには通常5年から10年かかり、精錬技術でも中国は数十年の蓄積があります。
過去にはアフリカのレアアース鉱山開発プロジェクトが最終的に中国企業の手に渡ったケースもあり、資金力で勝る中国の動きには常に警戒が必要です。日本のレアアースの中国依存度は、2010年の尖閣問題時の90%から現在は60%程度に低下したものの、依然として高い水準にあります。
アフリカ側のリスクと機会
アフリカ諸国にとって、資源の付加価値化は経済発展の大きなチャンスですが、政情不安やインフラ不足、法制度の未整備といった課題も残ります。2050年にはアフリカの人口が世界の4分の1に達すると予測されており、長期的な市場としての魅力は増す一方です。日本としては、単なる資源確保にとどまらず、技術移転やインフラ整備を含む包括的なパートナーシップを築くことが、持続可能な関係構築の鍵となります。
まとめ
中国のレアアース輸出規制の強化を受け、代替供給源の確保は日本にとって喫緊の課題です。アフリカ諸国が付加価値型の資源戦略に転換しつつある今、日本にとっては大きなチャンスが開かれています。
JOGMECを中心とした探鉱事業、TICADを通じた多層的な協力関係、米国との国際連携など、日本は着実に布石を打っています。しかし、新たなサプライチェーンの構築には長い時間と継続的な投資が不可欠です。中国依存の構造を本気で変えるには、官民一体となった戦略的かつ粘り強い取り組みが求められます。
参考資料:
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