立憲民主党が国民会議に参加、社会保障改革へ与野党協議

by nicoxz

はじめに

立憲民主党は、高市早苗首相が2026年1月に発足させる社会保障改革を議論する「国民会議」に参加する方針を固めました。政府と与野党が共同で開催・運営するこの会議では、まず減税と給付を組み合わせて中低所得者の負担を軽減する「給付付き税額控除」の制度設計に着手します。野党第1党が参加することで本格的な与野党協議の構図が整い、社会保障制度に対する共同責任の枠組みが構築されることになります。本記事では、国民会議の設置背景、給付付き税額控除の仕組み、そして消費税減税競争への影響について詳しく解説します。

国民会議設置の背景と狙い

高市政権の社会保障改革戦略

高市首相は2026年1月5日、社会保障改革を議論する超党派の「国民会議」を1月中に立ち上げると表明しました。国民会議は「社会保障と税の一体改革」を扱い、政府と与野党が共同で開催・運営する形式をとります。

首相は2025年12月17日の記者会見で、「社会保障の将来像について、政府・与野党で責任を持って話し合う『国民会議』を早期に立ち上げます」と述べており、与野党で責任を共有する姿勢を明確にしています。

消費税減税競争への歯止め

国民会議設置の重要な狙いの一つが、与野党間で激化する消費税減税競争に歯止めをかけることです。2025年夏の参議院選挙を控え、国民民主党や日本維新の会などが消費税減税を前面に打ち出しており、立憲民主党も対抗上、減税論議に巻き込まれる懸念がありました。

立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の3野党は参議院選挙に向けて、消費税減税や「年収の壁」見直しといった似通った目玉公約を掲げています。特に国民民主党は「実質賃金が持続的にプラスになるまで一律5%の消費税」を一貫して主張しており、野党間の政策競争が過熱していました。

国民会議で与野党が社会保障制度に共同で責任を負うことで、財源の裏付けがない減税の主張を抑制し、建設的な政策議論に導く効果が期待されています。

立憲民主党の参加決定

複数の党幹部によると、立憲民主党は国民会議への参加を決定しました。野党第1党の参加により、本格的な与野党協議の枠組みが整うことになります。

ただし、立憲民主党の本庄知史政調会長は1月9日、自身のX(旧ツイッター)に「社会保障改革全体、ましてや消費税の問題を議論することにはなっていない」と投稿しており、議論の範囲をめぐって曲折が予想されます。

給付付き税額控除とは何か

制度の基本的な仕組み

給付付き税額控除は、減税と給付を組み合わせて中低所得層を支援する制度です。所得税額から一定額を控除し、控除しきれない分を現金で給付することで、非課税世帯でも恩恵を受けられる設計になっています。

具体的には、以下の3つのパターンで支援が行われます。

高所得者:税額控除のみ(税金が減る) 中所得者:税額控除+現金給付(税金が減り、さらに現金が支給される) 非課税世帯:全額現金給付(税金を払っていなくても現金が支給される)

この仕組みにより、所得の低い世帯ほど手厚い支援を受けられる累進的な効果が生まれます。

立憲民主党の4万円給付案

立憲民主党は、1人当たり4万円の給付付き税額控除を提案しています。この案では、総額で約5兆円の予算が必要と試算されており、国民会議での議論の焦点になると見られています。

日本経済研究センターが実施した世論調査では、給付付き税額控除制度の導入について「強く賛成」または「賛成」との回答が74%(ウェイト付きでは77%)に達しており、国民の支持も高いことが示されています。

米国のEITC(勤労所得税額控除)を参考に

給付付き税額控除は、米国のEITC(Earned Income Tax Credit: 勤労所得税額控除)を参考にした制度です。EITCは1975年にフォード政権下で導入され、主に中低所得者の重い社会保険料負担を軽減する目的で創設されました。

EITCは、低所得から中所得者層の納税者に対する税額控除で、家族の規模、申告状況、収入などのさまざまな要因に基づいて決定されます。Earned Income Tax Credit適用後、税額を上回った額は還付金対象となります。

アメリカで勤労所得税額控除が導入されてから30年以上が経過し、諸外国の経験も蓄積されてきており、日本でも重要な参考事例となっています。

給付付き税額控除の利点と課題

中期的な物価高対策として

給付付き税額控除は、中期的な物価高対策として位置づけられています。一時的な給付金と異なり、制度として定着すれば継続的に中低所得層の可処分所得を増やす効果があります。

また、消費税減税と比べて、以下のような利点があります。

  • ターゲティングの精度:中低所得層に支援を集中できる
  • 財政への影響:消費税減税より財政負担が小さい
  • 逆進性の緩和:所得が低いほど手厚い支援が受けられる

消費税を一律に減税すると、高所得者も低所得者も同じ恩恵を受けますが、給付付き税額控除は累進的な設計により、真に支援が必要な層に効果的に届けることができます。

執行上の課題:不正受給のリスク

米国のEITCでは、支給額全体の2-3割にも及ぶ過誤・不正受給が大きな問題となっています。この背景には、制度の複雑さに起因する過誤申請や、不正申請(代行業者による組織的なものを含む)等があります。

対策として、以下のような措置が取られています。

  • 給与所得情報の捕捉強化
  • 保健福祉省を通じた子どもの数の確認
  • ペナルティの導入(過誤申請の場合は2年、不正申請の場合は10年間、EITCの申請を認めない)

日本で給付付き税額控除を導入する際にも、マイナンバー制度を活用した所得把握の精度向上や、不正受給を防ぐ仕組みづくりが重要になります。

制度設計の複雑さ

給付付き税額控除の制度設計には、以下のような論点があります。

  • 控除額(給付額)の水準:どの程度の支援が適切か
  • 所得制限の設定:どこまでの所得層を対象にするか
  • 家族構成の考慮:世帯人数や子どもの数をどう反映するか
  • 申請方法:確定申告ベースか、自動的に給付するか
  • 給付のタイミング:年1回か、月次か

これらの論点について、与野党で合意を形成していく必要があり、国民会議での議論は容易ではありません。

与野党協議のスケジュールと展望

2026年のスケジュール

政府と与野党は、1月中に国民会議の初会合を開催する予定です。以下のようなスケジュールが想定されています。

1月:国民会議の初会合、給付付き税額控除の論点整理 2月~6月:制度設計の詳細協議、国会での議論 6月:通常国会会期末までに中間取りまとめ 年末:具体的な制度案の策定

2026年中に制度設計を完了させ、早ければ2027年度からの導入を目指すことになります。

参加政党と協議の枠組み

国民会議には、立憲民主党、国民民主党、公明党などの参加が想定されています。日本維新の会や共産党、れいわ新選組などの参加については、今後の調整次第となります。

立憲民主党の参加により、衆参両院で過半数を持たない高市政権にとって、野党の協力を得て社会保障改革を進める道筋がつくことになります。

曲折が予想される論点

国民会議での議論には、以下のような曲折が予想されます。

社会保障改革全体の議論

立憲民主党の本庄政調会長が指摘するように、給付付き税額控除だけでなく、社会保障制度全体の議論をどこまで広げるかが論点になります。年金、医療、介護などの制度改革も含めるのか、まずは給付付き税額控除に絞るのか、意見が分かれる可能性があります。

消費税の扱い

国民民主党などは消費税減税を主張しており、給付付き税額控除で満足するかは不透明です。国民会議で消費税の問題をどこまで議論するかも、大きな争点になります。

財源問題

給付付き税額控除に必要な数兆円規模の財源をどう確保するかも重要な論点です。新たな増税を行うのか、既存の予算の見直しで対応するのか、国債発行に頼るのか、財源論議は避けられません。

社会保障改革の歴史的意義

2012年の社会保障・税一体改革との比較

今回の国民会議は、2012年の民主党政権時代に設置された「社会保障制度改革国民会議」を想起させます。当時は民主、自民、公明の3党合意により、消費税率の引き上げと社会保障制度改革が一体的に進められました。

しかし、2012年の改革では消費税増税が実現した一方で、社会保障制度の抜本的改革は十分に進まなかったという批判があります。今回の国民会議では、増税よりも中低所得層への支援を先行させる方針であり、当時とは逆のアプローチとなっています。

与野党協調の新たなモデル

衆参両院で過半数を持たない政権が、社会保障という重要政策で与野党協議の枠組みを作ることは、新たな政治運営のモデルとなる可能性があります。

従来、野党は政府・与党の政策を批判する役割が中心でしたが、国民会議では政策立案に共同で責任を持つことになります。この経験が、日本政治における建設的な野党の役割モデルを確立する契機になるかもしれません。

参議院選挙への影響

2025年夏の参議院選挙を控え、各党は経済政策で有権者にアピールする必要があります。国民会議での議論が前進すれば、与野党が協力して国民生活を守る姿勢を示すことができ、選挙でもプラスに働く可能性があります。

逆に、議論が紛糾して成果が出なければ、「結局何も決められない政治」との批判を受けるリスクもあります。各党にとって、国民会議は政治的に重要な試金石となります。

まとめ

立憲民主党が高市政権の「国民会議」に参加することで、社会保障改革をめぐる本格的な与野党協議がスタートします。給付付き税額控除という具体的なテーマから着手することで、消費税減税競争に歯止めをかけ、中低所得層への実効的な支援策を実現する道筋がつきました。

給付付き税額控除は、米国のEITCを参考にした制度で、累進的な支援により真に必要な層に効果的に届けることができます。一方で、不正受給のリスクや制度設計の複雑さといった課題もあり、丁寧な議論が必要です。

2026年中に制度設計を完了させ、2027年度からの導入を目指すスケジュールは野心的ですが、与野党が協力すれば実現可能です。国民会議が成功すれば、衆参両院で過半数を持たない政権下での新たな政治運営モデルを確立し、日本の社会保障制度を持続可能なものにする重要な一歩となるでしょう。

消費税減税か給付付き税額控除か、財源をどう確保するか、社会保障制度全体をどう改革するか——国民会議での議論は国民生活に直結する重要なテーマを扱います。各党が党派を超えて建設的な議論を行い、国民のための実効的な政策を実現することが期待されます。

参考資料:

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