オランダ史上最年少38歳イェッテン首相が就任
はじめに
2026年2月23日、オランダで38歳のロブ・イェッテン氏が首相に就任しました。史上最年少での就任であり、同性愛を公言する初のオランダ首相でもあります。
イェッテン氏が率いる中道リベラル政党「民主66(D66)」は2025年10月の下院選で第1党に躍進しました。しかし中道右派のVVD、CDAとの3党連立でも議席数は66にとどまり、下院150議席の過半数(76)に達していません。戦後初の本格的な少数政権として、政権運営には大きな課題が待ち構えています。
ロブ・イェッテン氏とは何者か
「ロボット」から首相へ
イェッテン氏は1987年3月25日、北ブラバント州フェーヘルに生まれました。ラドバウド大学で行政学の学士号と修士号を取得し、オランダ鉄道機関ProRailで管理研修生として働いた後、政界に転身しました。
政治家としてのキャリア初期には「ロボット・イェッテン」というあだ名がつけられていました。暗記した回答や真面目すぎる態度、眼鏡をかけた書生的な風貌が理由です。しかしレーシック手術で眼鏡をやめ、コミュニケーションスタイルを変えたことで、より親しみやすい政治家へと変貌を遂げました。
2017年に下院議員に初当選し、翌年には31歳でD66の下院会派代表に就任。2022年には第4次ルッテ内閣で気候・エネルギー政策担当大臣を務め、気候政策のスペシャリストとしての評価を確立しました。
初のオープンリー・ゲイの首相
イェッテン氏はアルゼンチン出身のフィールドホッケー選手ニコラス・キーナン氏と交際しており、2024年11月に婚約を発表しています。2026年夏に挙式予定です。
オランダは2001年に世界で初めて同性婚を合法化した国ですが、首相としては初めてのケースとなります。
2025年10月選挙と連立政権の成立
D66が第1党に躍進
2025年10月の前倒し総選挙は、ショーフ内閣の崩壊を受けて実施されました。極右のPVV(自由党、ウィルダース党首)が連立から離脱したことが崩壊の原因です。
選挙結果ではD66が得票率16.9%で26議席を獲得し、PVVと同数ながら得票率でわずかに上回って第1党の地位を得ました。VVDが22議席、CDAが18議席と続き、左派のGroenLinks-PvdA(緑の党・労働党連合)は20議席でした。
4か月の組閣交渉
選挙後約4か月にわたる組閣交渉が行われました。イェッテン氏は当初、左派のGroenLinks-PvdAを含む幅広い連立を希望しましたが、VVD党首のイェシルギョズ氏が強く反対しました。
2026年1月27日にD66・VVD・CDAの3党で連立合意に至り、2月23日にウィレム・アレクサンダー国王の前で宣誓して正式に就任しました。
戦後初の少数政権が直面する課題
過半数に10議席不足
3党合計66議席は過半数の76議席に10議席足りません。議会が極度に分裂しているため、過半数を構成できる安定した連立の組み合わせが限られていた結果です。GroenLinks-PvdAは連立参加や信任供給を拒否しています。
戦後のオランダで真の少数政権が発足するのは初めてのことであり、すべての法案について野党との個別交渉が必要になります。
案件型連立という新しい試み
イェッテン氏は「協力の内閣」と銘打ち、法案ごとに異なる野党の支持を取り付ける「案件型連立」を目指しています。最大野党のGroenLinks-PvdA(20議席)は医療・福祉費削減に強い反対を表明する一方、PVV(26議席)は反移民・反EU路線で協力は困難です。
政権を安定的に運営するには、テーマごとに異なる野党と柔軟に合意を形成する高度な政治手腕が求められます。
主要政策の方向性
住宅と気候が最優先
住宅不足の解消が最優先課題の一つに掲げられています。新規開発の30%を社会住宅、25%を低価格持ち家住宅に振り向け、2029年から年間10億ユーロを手頃な住宅建設に投資する計画です。
気候・エネルギー政策はイェッテン氏の専門分野であり、D66の中核テーマでもあります。前職の気候・エネルギー大臣としての経験を活かした政策が期待されています。
防衛と教育にも注力
防衛費はNATO目標に従いGDP比5%への引き上げを目指します。教育・研究分野では15億ユーロの投資が計画されています。財源は増税と医療・失業給付の削減で賄う方針で、この点が野党との摩擦を生む可能性があります。
欧州政治における意味
極右台頭への対抗
イェッテン政権の誕生は、欧州で台頭する極右勢力に対する中道リベラルの巻き返しとして注目されています。2024年にはPVVのウィルダース氏が組閣を主導し極右政権が短命に終わった直後だけに、有権者が再び中道路線を選択した意味は大きいです。
一方でPVVは依然26議席を持っており、極右勢力が一掃されたわけではありません。少数政権の不安定さが露呈すれば、再び極右への揺り戻しが起きる可能性もあります。
親EU路線と通商課題
D66は伝統的にEU統合推進の立場であり、イェッテン政権は親EU路線を取ることが予想されます。ただしブルームバーグの報道によると、米国との貿易摩擦への対応が外交上の重要課題となっています。
まとめ
38歳のイェッテン首相が率いるオランダの少数政権は、欧州政治の新たな実験として注目を集めています。法案ごとに野党と交渉する「案件型連立」が機能するかどうかが、政権の成否を左右します。
住宅・気候・防衛という重要課題に取り組みながら、過半数のない議会をいかに運営するか。若き首相の手腕が試される日々が始まりました。
参考資料:
- New Dutch minority government sworn in - Euronews
- Netherlands’ coalition government takes office - Washington Post
- From ‘Robot Jetten’ to prime minister - Washington Post
- Dutch centrist Jetten claims victory - Al Jazeera
- Rob Jetten’s New Centrist Dutch Government Faces Complex Trade Challenges - Bloomberg
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