対米投融資5.5兆円始動で日経平均続伸、電線株に買い集中
はじめに
2026年2月19日の東京株式市場で、日経平均株価は続伸し、午前の取引終了時点で前日比454円高の5万7598円をつけました。上げ幅は一時500円を超える場面もありました。
この上昇の大きな要因となったのが、日本政府による対米投融資「第1弾」の具体的な案件決定です。ガス火力発電を中心とする3案件、総額約360億ドル(約5兆5000億円)規模の投資計画が明らかになり、関連銘柄に幅広い買いが入りました。
特に注目されたのは電線大手の住友電気工業(住友電工)で、一時7%を超える上昇を記録しました。フジクラなど他の電線銘柄にも買いが波及しています。3月に予定される日米首脳会談を控え、今後さらなる案件発表への期待が市場を押し上げています。
対米投融資「第1弾」の全容
3案件で5.5兆円規模の投資
日本政府は2月18日、昨年の日米貿易・経済合意に基づく対米投融資の第1弾として、3つのプロジェクトを正式に発表しました。トランプ米大統領自身がこの決定を公表し、日米経済連携の象徴的な動きとして注目を集めています。
最大の案件は、米中西部オハイオ州でのガス火力発電プロジェクトです。発電容量は9.2ギガワットと米国内最大規模で、総事業費は約333億ドル(約5兆1000億円)に達します。AI向けデータセンターなどへの電力供給を主な目的としています。
このプロジェクトには、ソフトバンクグループ(SBG)を中心に、パナソニックホールディングス、村田製作所など約20社が日米企業連合を形成しています。金融面ではみずほ銀行や米ゴールドマン・サックスなど日米の大手金融機関が参加しています。
原油輸出インフラと人工ダイヤモンド
2つ目の案件は、テキサス州における原油積み出し港の整備です。事業費は約21億ドル(約3200億円)で、米国産原油の輸出拠点として機能します。商船三井や日本製鉄、JFEスチール、三井海洋開発といった企業が関連機器の供給に関心を示しています。
3つ目は、ジョージア州での工業用人工ダイヤモンド製造施設の新設です。旭ダイヤモンド工業やノリタケが人工ダイヤの購入に関心を示しており、経済安全保障の観点からも注目されています。人工ダイヤモンドは半導体製造の研磨工程などに不可欠な素材であり、「第2のレアアース」と位置づける声もあります。
電線株急騰の背景
住友電工が7%高、フジクラは最高値圏
対米投融資の具体的な案件が明らかになったことで、電力インフラ関連の銘柄に強い買いが入りました。住友電気工業は一時7%を超える上昇を記録し、フジクラも大幅高となりました。
電線株が特に注目される理由は、AI需要の急拡大に伴うデータセンター向け電力ケーブルや光ファイバーケーブルの需要増加にあります。住友電工、フジクラ、古河電工のいわゆる「電線御三家」は、世界的にも光ファイバーで高いシェアを誇っており、米国でのインフラ投資の恩恵を直接的に受ける立場にあります。
AIデータセンターが電力需要を牽引
オハイオ州のガス火力発電プロジェクトが象徴するように、AI向けデータセンターの電力需要は急速に拡大しています。大規模言語モデルの学習や推論処理には膨大な電力が必要であり、米国ではデータセンター向けの電力インフラ整備が急務となっています。
電線大手各社はこの潮流を成長機会と捉えています。フジクラは売上の約4割を米国市場が占め、データセンター向け光ケーブルの需要増を追い風に業績を拡大中です。古河電工もデータセンター関連分野で2030年度の売上高を2023年度比3倍に引き上げる計画を掲げています。
住友電工は直近の決算で2026年3月期の純利益見通しを3200億円に上方修正し、市場予想を大幅に上回る好業績を示しました。これも電線株全体の買い材料となっています。
3月の日米首脳会談と市場の期待
物色の裾野が広がる展開
市場が注目しているのは、3月19日に調整が進む日米首脳会談です。高市首相がトランプ大統領から招待を受けたとされ、この会談に向けて新たな対米投融資案件が発表される可能性があります。
日本政府が約束した対米投融資の総額は5500億ドル(約84兆円)規模とされており、今回の第1弾は360億ドルとその一部にすぎません。首脳会談を控えて第2弾、第3弾の案件が明らかになることへの期待が、投資家の物色意欲を広げています。
東芝や日立製作所など、ソフトバンクグループ以外の企業もガス火力発電事業への関心を表明しており、関連銘柄の裾野は今後さらに広がる可能性があります。
為替と米国株高も追い風
2月19日の市場では、前日の米ハイテク株高も追い風となりました。S&P500種株価指数が堅調に推移し、リスクオンの流れが東京市場にも波及しています。円相場が1ドル155円台で推移していることも、輸出関連株の支援材料となっています。
注意点・展望
対米投融資は日米関係の強化という点で市場にポジティブな材料ですが、投資家はいくつかのリスクにも注意が必要です。
まず、5500億ドルという投融資総額の実現可能性です。野村総合研究所の分析では、日本企業にとってのメリットが不透明な面もあると指摘されています。巨額投資が採算に合うかどうかは、個別案件ごとに精査する必要があります。
また、3月の日米首脳会談では関税問題も議題になる可能性があります。対米投融資は貿易摩擦の緩和策としての側面もあり、交渉の行方次第では市場の見方が変わることもあり得ます。
電線株については、AI需要の成長期待が株価に織り込まれつつある点にも留意が必要です。短期的な過熱感が出た場合は、利益確定の売りが出る場面もあるでしょう。
まとめ
日本政府による対米投融資第1弾が、ガス火力発電を中心に5.5兆円規模で始動しました。AIデータセンター向け電力需要の拡大を背景に、住友電工やフジクラなどの電線株が急騰し、日経平均を押し上げています。
3月の日米首脳会談に向けて、第2弾以降の案件発表や参加企業の拡大が期待されます。対米投融資の総額は84兆円規模とされ、今後も関連銘柄への注目は続く見通しです。投資家は個別案件の採算性や日米交渉の行方を注視しつつ、中長期的な視点での銘柄選定が求められます。
参考資料:
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