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by nicoxz

パワーカップルでも苦しい首都圏住宅高騰と教育費膨張の現実構図

by nicoxz
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はじめに

都市部で「パワーカップル」と呼ばれる共働き高所得世帯が目立つ一方で、当事者の生活実感は必ずしも豊かさ一色ではありません。住まいと教育にかかる固定費が膨らみ、手取りの増加を上回る速度で家計の自由度を削っているためです。見かけの世帯年収だけを見れば余裕がありそうでも、実際には住宅ローン、保育・学童、習い事、通勤、時短のための外部サービスが積み重なり、可処分時間と可処分所得の両方が圧迫されます。

この構図は感覚論ではなく、複数の調査からも裏づけられます。SUUMOリサーチセンターの2025年調査を紹介したSUUMO Journalによると、首都圏で新築マンションを購入した人の平均購入価格は7324万円、東京23区では9598万円でした。さらに不動産経済研究所の2025年まとめでは、首都圏新築分譲マンションの平均価格は9182万円、東京23区は1億3613万円とされています。本記事では、なぜ高所得共働き世帯が住宅市場を支えるのか、なぜそれでも教育費の重みで「余裕がない」と感じやすいのかを整理します。

住宅高騰が家計を固定化する構図

価格上昇と購入層の偏り

首都圏の新築マンション市場は、もはや平均的な賃金世帯を前提にした価格帯ではありません。SUUMO Journalが紹介した2025年調査では、既婚世帯の共働き比率は78.2%で過去最高、購入者全体の平均世帯年収は1213万円、1200万円以上の層が32.7%を占めました。さらに世帯年収1200万円以上のうち43.7%を既婚・共働き世帯が占めたとされ、住宅取得の中心に高所得の共働き世帯がいることが分かります。

ここで重要なのは、「パワーカップルが勝っている」のではなく、「その層でなければ都心近接の新築住宅に手が届きにくい」市場へ変質していることです。購入価格が上がれば、必要な自己資金も借入額も増えます。実際に同調査ではローン借入総額の平均が5956万円、既婚・共働き世帯では6354万円でした。住宅価格の上昇は、単に毎月返済額を押し上げるだけでなく、家計全体を長期ローンへ固定し、転職、出産、介護、片働き移行といったライフイベントへの耐性を下げます。

しかも共働き世帯ではペアローンの利用が広がっています。既婚・共働き世帯の54.1%がペアローンを利用しているという数字は、二人分の収入を前提にしないと希望する住宅に届きにくい現実を示します。裏返せば、どちらか一方の収入が一時的に落ちただけで、住宅コストの重みが急に増す構造でもあります。

価格の問題が時間の問題へ広がる連鎖

住宅価格の上昇が厳しいのは、家計簿上の負担だけで終わらないからです。都心部に住めなければ通勤時間が伸び、保育園や学童の送迎調整が難しくなります。逆に職住近接を確保しようとすれば、さらに高い住居費を受け入れる必要があります。結果として、家計は「お金」だけでなく「時間」も買うことになり、外食、家事代行、宅配、ベビーシッターなどの支出が増えやすくなります。

統計局のFAQでも、共働き世帯の生活費や教育費は家計調査で継続的に把握される対象として整理されています。つまり、共働き世帯は単に収入が多い世帯ではなく、支出構造も独特な世帯として見なされているわけです。住宅費が高い都市部では、その特徴がより強く表れます。「二人で稼いでいるのに余らない」という感覚は、ぜいたくの結果というより、住まいの確保と働き続ける条件整備に先に費用が消えていくことの帰結です。

教育費が可処分所得を削る構図

学校選択と学校外活動費の重み

文部科学省の令和5年度子供の学習費調査では、年間の学習費総額は公立小学校で33万6265円、私立小学校で182万8112円でした。公立中学校は54万2475円、私立中学校は156万359円、高校でも公立59万7752円、私立103万283円と差が大きく、学校段階が上がるほど費用の絶対額も重くなります。

注目すべきなのは、教育費が授業料だけではない点です。統計局のFAQでは、家計調査の「教育費」は授業料や学級費、補習教育月謝などの直接費を指し、通学服や交通費、給食などの間接費は別費目で計上されると整理されています。つまり、保護者の実感としての「教育にかかるお金」は、公表数字よりさらに広い範囲に及びます。特に都市部の共働き世帯では、放課後の居場所確保と学力投資が重なり、学童、塾、習い事、送迎の外注が一つのパッケージになりやすいのが特徴です。

公立を選んでも負担が軽いとは言い切れません。文科省統計が示すように、公立小学校でも学校外活動費が大きな比重を占めます。受験の有無にかかわらず、英語、プログラミング、スポーツ、音楽などに投資する家庭が増えれば、「公立だから家計に優しい」という従来の感覚は弱まります。教育費の問題は、私立進学の是非より、親が子どもの将来不安をどこまで支出で埋めようとするかという競争の問題でもあります。

子ども数と働き方を左右する境界線

住宅費と教育費が同時に重くなると、影響は家計の赤字黒字だけにとどまりません。第2子を持つか、どちらかが時短を続けるか、勤務地の近い会社へ移るか、親の支援を頼れる場所へ住み替えるかといった、中長期の意思決定そのものが変わります。共働き世帯では収入が高い分、税・社会保険負担も重くなりやすく、名目年収ほどの余裕を感じにくい面もあります。

このため、いわゆるパワーカップルの生活は「贅沢な二馬力」より、「高い固定費を維持するために二人とも働き続けるモデル」と捉えた方が実態に近いと言えます。住宅ローンの審査に通ることと、長期にわたって無理なく返し続けられることは別問題です。教育費も同様で、現時点で払えるかではなく、子どもが成長する十数年先まで支えられるかが本当の論点になります。

注意点・展望

このテーマで避けたい誤解は、「高収入だから自己責任で吸収できる」という単純化です。確かに平均より高い所得を得ている世帯が多いのは事実ですが、住宅市場そのものが高所得二馬力を前提に再編されているなら、当事者の負担増は個人の選択だけでは説明できません。市場構造の変化と教育不安の拡大が、家計を押しつぶしている面があります。

今後は、都心居住を諦めて郊外へ移る動き、子どもの人数を絞る動き、私立志向よりも学校外活動を選ぶ動きなど、支出の再配分が進む可能性があります。一方で、金利上昇が続けば、既に高額ローンを抱える世帯の脆弱さも増します。住宅と教育の両方で「早く決めないともっと高くなる」という心理が働くほど、家計は短期判断に追い込まれやすくなります。

まとめ

パワーカップルの家計が苦しいのは、収入が不足しているからではなく、住宅と教育という大型固定費が都市部で同時に膨らんでいるからです。首都圏の住宅価格は高所得共働き世帯を購入主体にしつつあり、その結果としてペアローン依存も強まっています。そこへ教育費と学校外活動費が積み上がることで、世帯年収の高さが生活の余裕に直結しにくくなっています。

この問題を見るときは、年収の大小だけでなく、何が固定費になっているかを追うことが重要です。今後の注目点は、住宅価格と金利の動向に加え、子育て世帯がどこでコストを削れず、どこで行動を変え始めるかです。パワーカップルの風景は、日本の都市生活の限界を映す鏡でもあります。

参考資料:

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