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by nicoxz

ロームと東芝がパワー半導体統合交渉へ、3年越しの布石

by nicoxz
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はじめに

ロームと東芝がパワー半導体事業の統合に向けた交渉に入ったことが明らかになりました。パワー半導体は電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの電力制御に不可欠な部品であり、世界的に需要が拡大しています。

今回の統合交渉の背景には、2023年にロームが東芝の非公開化に際して3000億円を出資したという経緯があります。当時から「将来の事業統合への布石」との見方がありましたが、3年を経てその構想が現実味を帯びてきました。

本記事では、両社の統合交渉の背景、経済産業省の再編政策、そしてデンソーのローム買収提案が絡む複雑な業界再編の全体像を解説します。

ロームの3000億円出資と東芝非公開化の経緯

JIP主導の非公開化とロームの参画

2023年、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が主導し、東芝の株式非公開化が実現しました。この買収にロームは総額3000億円を出資して参画しています。

ロームは当時、「出資条件として東芝との協業や経営参画を求めるものではない」と説明していました。しかし、半導体業界では「将来的に東芝のパワー半導体事業を取り込むための手付金」との見方が広がっていました。東芝側も市況変動の激しい事業を切り離す方針を示しており、両社の思惑は一致していたと考えられます。

製造連携から事業統合へ

2023年12月、ロームと東芝デバイス&ストレージは、パワー半導体の製造連携で合意しました。具体的には、ロームが炭化ケイ素(SiC)パワー半導体に、東芝がシリコン(Si)パワー半導体にそれぞれ重点投資し、製造面で相互に補完する枠組みです。

この計画は経済産業省の「半導体の安定供給確保のための取組に関する計画(供給確保計画)」として認定を受け、両社合わせて約3883億円の投資規模に対し、最大1294億円の助成が見込まれています。東芝の石川県能美市の新工場ではSiパワー半導体の供給が2025年3月に開始され、ロームの宮崎県国富町の新工場ではSiCパワー半導体の供給が2026年4月に予定されています。

製造連携の段階から、今回の事業統合交渉へと踏み込んだことは、当初からの計画が順調に進展していることを示唆しています。

統合交渉の具体像と業界再編の構図

共同出資会社の設立案

報道によれば、今回の統合交渉では、両社が共同出資する新会社に双方のパワー半導体事業を移管する案が検討されています。ロームのSiC技術と東芝のSi技術を一つの事業体に集約することで、製品ラインナップの拡充とスケールメリットの獲得を狙う構想です。

統合が実現すれば、パワー半導体の事業規模で国内最大級のプレーヤーが誕生することになります。現在、世界のパワー半導体市場はドイツのインフィニオン・テクノロジーズが首位を占めており、日本勢は個別企業では規模で後れを取っています。事業統合によりグローバル競争力を強化する狙いがあります。

経産省の再編圧力

この動きの背景には、経済産業省の明確な政策的意図があります。経産省は2025年12月にまとめた「半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性」で、パワー半導体領域における「規模の確保」を重要課題に位置付けました。

特に注目すべきは、SiCパワー半導体工場への補助金交付条件として「原則、事業規模2000億円以上」という基準を設けた点です。この条件は事実上、単独企業では満たしにくい水準であり、業界再編を促す強力なインセンティブとして機能しています。国内パワー半導体メーカー7社(ローム、東芝、三菱電機、富士電機、ルネサスエレクトロニクス、サンケン電気、新電元工業)の結集を促す政策的なメッセージとも受け取れます。

デンソーの買収提案が波紋

さらに業界再編を複雑にしているのが、2026年3月6日に明らかになったデンソーによるロームへの買収提案です。買収額は1兆3000億円規模とされ、TOB(株式公開買い付け)で全株取得を目指す内容と報じられています。

デンソーは2025年5月にロームとの戦略的パートナーシップ構築で基本合意しており、同年9月末時点でローム株の4.98%を保有していました。EV向けインバータの中核部品であるパワー半導体を内製化し、設計から生産までの垂直統合を実現する狙いがあるとされています。

報道を受けてロームの株価はストップ高(前日比18%上昇の3243円)を記録し、過去26年間で最大の上昇率となりました。一方、デンソーの株価は3〜5%下落しています。

注意点・展望

パワー半導体市場の成長性と競争環境

SiCパワー半導体市場は2030年に向けて年平均成長率約24%で成長すると予測されています。インフィニオン、STマイクロエレクトロニクス、ウルフスピード、オンセミ、そしてロームの上位5社で世界収益の90%以上を占める寡占市場です。

日本勢がこの成長市場で存在感を維持するには、規模の拡大が不可欠です。ローム・東芝の統合はその第一歩となり得ますが、交渉の行方はデンソーの買収提案との兼ね合いで流動的な状況にあります。

今後のシナリオ

考えられるシナリオは複数あります。ローム・東芝の統合が先行して進む場合、デンソーは統合後の新会社との提携を模索する可能性があります。逆にデンソーのTOBが成立すれば、デンソー・ローム・東芝の3社を軸とした、より大規模な再編に発展する可能性もあります。

いずれにしても、経産省の補助金政策と相まって、2026年は日本のパワー半導体業界にとって大きな転換点となりそうです。

まとめ

ロームと東芝のパワー半導体事業統合交渉は、2023年の3000億円出資という布石から3年越しで動き出しました。経産省の再編圧力やデンソーの買収提案も絡み、日本のパワー半導体業界は大きな変革期を迎えています。

EV市場の拡大に伴いパワー半導体の重要性は増す一方であり、今回の再編がグローバル競争における日本勢の競争力強化につながるかが注目されます。投資家や関連業界の方は、今後の統合交渉の進展とデンソーの動向を併せて注視していく必要があるでしょう。

参考資料:

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