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by nicoxz

デンソーがロームに1.3兆円の買収提案、株価ストップ高に

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はじめに

2026年3月6日、自動車部品最大手のデンソーが半導体メーカーのローム(ROHM)に対し、買収を提案していることが明らかになりました。買収額は約1兆3000億円規模と報じられており、実現すれば日本の半導体業界における大型再編となります。

この報道を受け、ロームの株価は後場に入って急騰しました。制限値幅いっぱいのストップ高水準となる前日比500円(18%)高の3243円で比例配分により値が付き、なお大量の買い注文が残る展開となりました。株価の上昇率は2000年以来、実に26年ぶりの大きさです。

デンソーによる買収提案の全容

買収の規模と手法

デンソーはTOB(株式公開買い付け)によりロームの全株式の取得を目指しているとみられます。買収額は約1兆3000億円規模と報じられており、ロームの報道前の時価総額が約1兆1000億円であったことから、約18%のプレミアムが上乗せされている計算になります。

デンソーは2024年9月時点でロームの株式約5%をすでに保有しています。今回のTOBでは残りの全株式を取得し、ロームを完全子会社化する方針とみられています。これは日本の自動車部品業界における過去最大級のM&A案件の一つとなります。

両社の公式コメント

ロームは6日、「本件を含む株式取得の提案を受領したのは事実」と発表しました。ただし「現時点で具体的に決定した事実はない」とし、「新たに開示すべき事項が発生した場合には、速やかに公表する」としています。

一方のデンソーも声明を発表し、2025年5月に締結したロームとの戦略的パートナーシップの基本合意に基づき、「ローム株式の取得を含むさまざまな戦略的な選択肢を検討している」と認めました。ただし、こちらも「現時点で具体的に決定した事実はない」としています。

提携から買収への段階的プロセス

今回の買収提案は突然のものではありません。デンソーとロームの関係は、約18か月をかけて段階的に深化してきました。

2024年9月、デンソーはロームとの提携検討に合意し、ロームの株式の一部(約5%)を取得しました。続く2025年5月には、半導体分野における戦略的パートナーシップ構築に向けた基本合意を発表しています。この基本合意では、デンソーが持つ自動車分野でのシステム構築力と、ロームが培ってきた最先端の半導体技術を融合させる方針が示されました。さらに「資本関係の強化も引き続き検討する」と明記されており、今回の買収提案はその延長線上に位置付けられます。

パワー半導体を巡る戦略的背景

なぜデンソーはロームを買収するのか

デンソーがロームの買収に動いた最大の理由は、電気自動車(EV)市場の拡大に伴うパワー半導体の安定調達にあります。パワー半導体は電流や電圧を制御する重要な部品であり、EVやハイブリッド車の動力制御に不可欠です。

デンソーはトヨタ自動車グループの中核部品メーカーとして、売上高約7兆1618億円(2025年3月期)を誇る巨大企業です。トヨタをはじめとする日本の自動車メーカー各社がEVシフトを加速させる中、車載向けパワー半導体の需要は急速に拡大しています。ロームを傘下に収めることで、パワー半導体を内製に近い形で安定調達できる体制を構築する狙いがあります。

ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリストは、ロームを取り込めばEV向けパワー半導体の内製化に近い形での確保が可能になり、半導体から電動化コンポーネントに至る「垂直統合戦略」を推進しやすくなると指摘しています。

ロームのSiCパワー半導体における強み

ローム(本社:京都市)は、売上高約4485億円(2025年3月期)、従業員数約4400名の電子部品メーカーです。LSIやトランジスタ、ダイオードなど幅広い製品を手がけていますが、特に注目されるのがSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体の分野です。

SiCパワー半導体は、従来のシリコン製に比べてエネルギー損失が少なく、高温環境でも安定して動作するため、EV向けに需要が急拡大しています。ロームはSiCパワー半導体で国内トップのシェアを持ち、世界でも第5位のポジションにあります。

ロームはSiCウエハーの内製化にも取り組んでおり、2025年1月から宮崎県の工場で自社半導体用基板の量産を開始しました。SiCパワー半導体の生産能力を2021年度比で約6倍に引き上げる計画を掲げ、大規模な設備投資を進めてきました。

世界市場における競争環境

SiCパワー半導体の世界市場は急拡大しており、2020年の約7億ドルから2030年には約64億5000万ドルに成長すると予測されています。しかし、この成長市場における競争は激しさを増しています。

2023年時点の世界シェアでは、STマイクロエレクトロニクス(スイス)が32.6%で首位、onsemi(米国)が23.6%で2位、インフィニオン(ドイツ)が3位、ウルフスピード(米国)が4位と、欧米勢が上位を占めています。ロームは第5位であり、日本勢としてはトップですが、欧米や中国メーカーとの競争で規模の拡大が課題となっていました。

デンソーがロームを傘下に収めれば、需要家と供給者が一体となった強力な事業基盤が生まれます。トヨタグループという巨大な需要先を持つデンソーと、SiC技術で世界トップクラスのロームが統合することで、欧米勢に対抗し得る体制が整うと期待されています。

今後の注目点と課題

業界再編の加速

デンソーによるローム買収構想の表面化は、日本のパワー半導体業界全体に波及する可能性があります。パワー半導体の分野では、ロームが東芝と、デンソーが富士電機とそれぞれ連携関係を築いてきました。三菱電機も業界再編に意欲を示しており、今回の動きがきっかけとなって、企業間の合従連衡がさらに加速する可能性があります。

ロームの経営課題

一方で、ロームの足元の経営状況には課題もあります。2025年3月期の連結業績は最終損益が500億円の赤字となり、過剰な設備投資や在庫の増加が経営を圧迫していました。SiCパワー半導体市場の成長を見込んで積極的に投資を進めてきましたが、市場の成長ペースが想定を下回ったことで調整を迫られています。

こうした経営環境の中でのデンソーからの買収提案は、ロームにとって事業の安定化と成長の両立につながる選択肢となる可能性があります。ただし、TOB価格や経営の独立性など、交渉にはまだ多くの論点が残されているとみられます。

株価と市場の反応

デンソー株は報道を受けて3.3%下落しました。大型買収に伴う資金負担への懸念が売り材料となった形です。一方、ローム株はストップ高となったものの、TOB価格次第ではさらなる株価上昇の余地があるとの見方もあります。今後のTOB価格の正式発表が、市場の次の注目ポイントとなります。

まとめ

デンソーによるロームへの1兆3000億円規模の買収提案は、EV時代のパワー半導体戦略をめぐる大きな転換点といえます。約18か月にわたる段階的な関係深化を経て、ついに全面的な統合の可能性が浮上しました。

実現すれば、トヨタグループの部品調達力が飛躍的に向上するだけでなく、日本のパワー半導体産業全体の国際競争力強化にもつながる可能性があります。両社の正式な意思決定と、業界全体への波及効果に引き続き注目が集まります。

参考資料

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