サウジ、紅海経由の原油輸出を3倍に拡大 ホルムズ封鎖の対応
はじめに
ホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、世界最大の原油輸出国サウジアラビアが紅海経由の迂回ルートによる原油輸出を急拡大しています。3月の最初の4日間で、紅海沿岸のヤンブー港からの原油積み出しは日量250万バレルに達し、2月の日量約79万バレルから約3倍に増加しました。
しかし、サウジの2月の原油輸出量は日量720万バレル前後であり、そのうち638万バレルがホルムズ海峡経由でした。紅海ルートだけでは全量を代替できず、世界のエネルギー供給は綱渡りの状態にあります。本記事では、サウジの対応策とエネルギー市場への影響を解説します。
ホルムズ海峡封鎖の衝撃
世界の原油輸送の要衝が止まった
ホルムズ海峡は世界の原油海上輸送量の約20%が通過する、エネルギー供給の最重要チョークポイントです。2026年2月28日、米国とイスラエルがイランに軍事攻撃を実施した直後、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡を通航する船舶に対して「いかなる船舶の通過も許されない」と通告しました。
複数のタンカーが攻撃を受け、事実上の封鎖状態に陥っています。ペルシャ湾内には多数の船舶が身動きできずに滞留しており、日本関係の船舶だけでも40隻を超えています。ホルムズ海峡の完全封鎖は過去に前例がなく、世界のエネルギー市場に前例のない衝撃を与えています。
原油価格への影響
ホルムズ海峡の封鎖を受け、原油価格は急騰しました。日本にとって特に深刻なのは、原油輸入の約9割を中東に依存しているという構造です。ホルムズ海峡が使えなくなれば、日本のエネルギー安全保障に直結する事態となります。原油高はインフレの加速を通じて、日本経済全体にも影響を及ぼす懸念があります。
サウジアラビアの紅海ルート戦略
ヤンブー港からの積み出し急拡大
サウジアラムコは複数の原油買い手に対して、ヤンブー港での積み込みへの切り替えを通知しました。タンカー追跡データによると、3月の最初の4日間で超大型原油タンカー(VLCC)5隻がヤンブーで積み荷を行い、約1,000万バレルの原油が出荷されています。
これにより紅海からの平均出荷量は日量250万バレルに達し、2月の日量約79万バレルから大幅に増加しました。過去にヤンブーから最も多くの原油が積み込まれた2020年4月でも日量150万バレルに届かなかったことを考えると、現在の規模は前例のない水準です。
東西パイプラインの重要性
この迂回輸出を可能にしているのが、サウジアラビアが保有する「東西石油パイプライン」です。東部の油田地帯アブカイクから西部の紅海沿いのヤンブーまでを結ぶ全長約1,200キロメートルのパイプラインで、輸送能力は日量500万バレルに達します。
このインフラは、ホルムズ海峡が使用不能になった場合の代替ルートとして長年整備されてきたものです。サウジアラビアの先見性が、危機の際に機能を発揮している形です。パキスタンも3月4日にサウジに対して、ヤンブー経由での原油供給を公式に要請し、サウジ側は少なくとも1隻の原油タンカーの手配に応じています。
迂回ルートの限界とリスク
供給力のギャップ
しかし、紅海ルートだけではサウジの原油輸出需要を完全にはまかなえません。2月のホルムズ海峡経由の輸出量は日量638万バレルでしたが、東西パイプラインの最大能力は日量500万バレルです。しかもこれはフル稼働時の理論値であり、実際の運用では余裕を持った水準で稼働させる必要があります。
さらに、ペルシャ湾岸の貯蔵施設が急速に満杯に近づいているという問題もあります。ホルムズ海峡が封鎖された状態でペルシャ湾側で生産された原油を保管しきれなくなれば、サウジ自体が減産を余儀なくされる可能性もあります。
バブ・エル・マンデブ海峡のリスク
ヤンブーから出港した船舶は、紅海を南下してバブ・エル・マンデブ海峡を通過する必要があります。この海峡沿いのイエメンでは、イラン支援のフーシ派が過去2年にわたりドローンやミサイルによる船舶攻撃を繰り返してきました。
フーシ派はイラン攻撃以降、攻撃を一時停止していますが、再開されれば紅海ルートも危険にさらされます。ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の両方が使えなくなれば、中東からの原油輸出は壊滅的な打撃を受けます。
注意点・展望
サウジアラビアの迂回輸出は、世界のエネルギー供給を支える緊急措置として機能しています。しかしその限界は明らかであり、ホルムズ海峡の早期再開が不可欠です。
日本にとっての教訓は、エネルギー供給源の多角化の重要性です。中東依存度の高い現状では、ホルムズ海峡のリスクから逃れることはできません。原油の調達先をアフリカや南米、北米にも分散させるとともに、再生可能エネルギーの活用を加速させることが、長期的なエネルギー安全保障の強化につながるでしょう。
まとめ
サウジアラビアは東西パイプラインとヤンブー港を活用し、紅海経由の原油輸出を前例のない規模に拡大しています。しかし日量250万バレルでは、ホルムズ海峡経由の日量638万バレルを代替するには不十分であり、供給不足のリスクは解消されていません。
バブ・エル・マンデブ海峡のフーシ派リスクや、ペルシャ湾側の貯蔵能力の限界など、課題は山積しています。世界のエネルギー供給を安定させるためには、軍事衝突の早期収束とホルムズ海峡の航行再開が不可欠です。
参考資料:
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