ソフトバンクG急落、アーム決算が招いた半導体株安
はじめに
2026年2月5日の東京株式市場で、ソフトバンクグループ(SBG)の株価が一時7%安まで下落しました。きっかけは、子会社である英アーム・ホールディングス(ARM)が米国市場の時間外取引で急落したことです。
同日の日経平均株価も前日比475円安の5万3818円で取引を終え、半導体関連株への売りが市場全体の重荷となりました。この記事では、アームの決算内容と自社チップ開発という戦略転換の意味、そして半導体株全体への波及効果を解説します。
アーム決算の何が嫌気されたのか
ライセンス収入が市場予想を下回る
アームは2026年2月4日(米国時間)、2026年度第3四半期(2025年10月〜12月)の決算を発表しました。ライセンス収入は前年同期比25%増の5億500万ドルとなりましたが、市場予想の5億1,990万ドルを約2.9%下回りました。
ロイヤリティ収入や売上高全体は堅調だったにもかかわらず、投資家の視線はライセンス収入の未達に集中しました。アームの収益構造においてライセンス収入は将来の成長を先取りする指標と見なされており、わずかな下振れでも株価に大きく影響します。
営業費用の急増が利益を圧迫
四半期の調整後営業費用は7億1,600万ドルに達し、前年同期比で37%も増加しました。AI関連の研究開発投資や、後述する自社チップ開発への先行投資がコスト増の主因です。
売上成長率を上回るペースで費用が膨らんだことで、利益成長の持続性に対する懸念が浮上しました。時間外取引でアーム株は約8%下落し、翌日のアジア市場にも波及しました。
スマートフォン向けロイヤリティへの懸念
決算説明会では、メモリチップの供給不足がスマートフォン向けロイヤリティを制約する可能性が示唆されました。スマートフォン向けプロセッサの設計で圧倒的なシェアを持つアームにとって、この市場の減速は中期的なリスク要因です。
AI向けデータセンターでの需要拡大は追い風ですが、スマートフォン市場の成熟化という構造的課題は簡単には解消されません。
自社チップ開発という「禁断の一手」
ビジネスモデルの大転換
アームのレネ・ハースCEOは決算と合わせて、自社ブランドのチップ開発に乗り出す計画を明らかにしました。これまでアームは半導体の設計図(IP)をライセンス供与するビジネスモデルに徹しており、自らチップを製造・販売することはありませんでした。
新たに開発するのは、大規模データセンター向けのサーバー用CPUです。製造はTSMCなどのファウンドリに委託する計画で、メタ(Meta)が最初の大口顧客になるとの報道もあります。
業界秩序を揺るがす可能性
この戦略転換は、半導体業界に大きな波紋を広げています。アームがチップを自社開発するということは、従来のライセンス先であるクアルコム、メディアテック、さらにはAI半導体の雄であるNVIDIAとも競合する可能性があることを意味します。
先端AIチップの開発にはシリコン設計だけで5億ドル以上の投資が必要とされ、短期的には利益を圧迫します。投資家が株価下落で反応したのは、この巨額投資と既存顧客との関係悪化リスクを懸念したためです。
日経平均と半導体株への波及
日経平均は475円安、一時600円超の下げ
2月5日の東京市場では、前日の米国ハイテク株安を引き継ぎ、値がさの半導体関連銘柄に売りが集中しました。日経平均は一時600円を超える下落となり、終値は前日比475円32銭(0.88%)安の5万3818円04銭でした。
前日の米国市場では、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)が4.35%安と大幅に下落。AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイス)の決算が市場の期待を下回り、NVIDIAなど他の半導体株にも売りが波及していました。
ソフトバンクGへの影響
ソフトバンクグループの株価は一時252円(5.99%)安の3,955円まで下落しました。SBGはアーム株の約90%を保有しており、アームの株価変動がSBGの企業価値に直結します。
ただし、市場全体では上昇した銘柄の方が多く、半導体セクターに売りが集中した一方で、内需関連や好決算銘柄には買いが入るなど、二極化した展開も見られました。
注意点・今後の展望
アーム株の反発と市場の再評価
注目すべきは、アーム株が翌日の米国市場で5%反発したことです。ナスダック総合指数が1.2%下落するなかでの逆行高であり、市場が「売られすぎ」と判断した可能性があります。
AI向けチップ設計でのアームの優位性は依然として健在であり、自社チップ開発も中長期的にはAI市場での存在感を高める戦略と評価する見方もあります。
半導体セクターは選別の局面
半導体市場全体としては、AI需要の拡大という大きな追い風が続いています。しかし、個別企業レベルでは、決算内容による選別が厳しくなっています。市場が期待する成長率のハードルが高いため、わずかな未達でも大きな株価調整を招くリスクがあります。
投資家にとっては、半導体セクター全体への楽観ではなく、企業ごとの収益構造や戦略転換のリスクを見極める銘柄選別が重要な局面に入っています。
まとめ
アームの決算を受けたソフトバンクグループの急落は、AI・半導体セクターが高い期待値を背負っていることの裏返しです。ライセンス収入のわずかな未達や自社チップ開発という戦略転換が株価に大きく影響する状況は、市場がこのセクターに高い成長を織り込んでいることを示しています。
短期的な株価変動に一喜一憂するのではなく、AI需要の構造的な拡大トレンドと、各企業の競争優位性の持続性を冷静に評価することが求められます。アームの自社チップ開発が成功すれば、半導体業界の勢力図を塗り替える可能性もあり、今後の動向から目が離せません。
参考資料:
- Shares of Arm plunge in after hours trading amid concerns over smartphone chips - CNBC
- ソフトバンクグループ株、Armの期待外れの決算を受け7%下落 - Investing.com
- Arm、禁断のAIチップ自社開発へ - XenoSpectrum
- Why Is Arm Stock Falling 8% After Hours? - Stocktwits
- On Second Thought, Arm Holdings’ Earnings Now Look Pretty Good - Money Morning
- 日経平均株価続落、終値は475円安の5万3818円 - 日本経済新聞
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