高市首相が直面する国会冒頭解散の選択
はじめに
2026年1月10日、高市早苗首相が1月23日召集の通常国会冒頭での衆議院解散を「選択肢のひとつ」として検討していることが明らかになりました。首相就任から約3ヶ月、内閣支持率が77.7%という高水準を維持する中で浮上したこの解散案は、日本政治の2026年を占う最大の焦点となっています。高い支持率を背景にした議席増への期待と、国民生活に直結する予算成立の遅れというジレンマの中で、高市首相がどのような判断を下すのか、その背景と影響を詳しく見ていきます。
高市内閣の高支持率という追い風
77%台を維持する異例の支持率
高市内閣の支持率は発足以来、驚異的な高水準を維持しています。2026年1月第1週の世論調査では支持率77.7%、不支持率17.1%という結果が出ており、直近4週間では73.6%→76.2%→77.2%→77.7%と一貫して上昇基調にあります。
主要メディア各社の12月調査でも、産経新聞・FNNが75.9%、日本経済新聞・テレビ東京が75%、読売新聞が73%など、軒並み70%前後の支持率を記録しています。これは小泉政権や安倍政権の発足時に匹敵する水準で、2025年10月の首相就任以来、6〜7割台の高支持率を一貫して維持している点が特筆されます。
早期解散を後押しする政治的計算
この高支持率が、自民党内の早期解散論を後押ししています。政府・自民党内には「高い内閣支持率を追い風に早期に衆院選を戦うのが得策」との意見が強まっており、特に2026年度予算案の審議で野党の追及にさらされる前に選挙を実施すべきとの声が上がっています。
前回の総選挙で自民党は191議席にとどまり、衆議院で自公が過半数を持たない「少数与党」の状態が続いています。もし衆院選で過半数の233議席に届かなくても、191議席を大きく上回れば政権基盤は安定し、2027年秋の自民党総裁選での再選・続投の可能性が高まるという計算があります。
国会冒頭解散の実務的課題
予算成立の遅れという重大なリスク
国会冒頭解散案の最大の障害となっているのが、2026年度予算案の成立遅延です。政府は2025年12月26日に過去最大の122兆3092億円となる予算案を閣議決定しており、年明けの通常国会での審議・成立を予定していました。
もし1月23日の国会召集直後に解散が実施されれば、予算審議は総選挙後に先送りされることになります。想定される選挙日程は「1月27日公示―2月8日投開票」または「2月3日公示―15日投開票」で、その後30日以内に特別国会を召集しなければならないため、予算成立は早くても3月以降にずれ込みます。
2026年度予算の重要性
今回の予算案は、医療従事者の人件費に回る診療報酬本体部分が30年ぶりの3.09%引き上げとなるなど、国民生活に直結する重要な内容を含んでいます。社会保障関係費は39兆559億円と過去最大規模で、予算成立の遅れは医療・介護サービスの提供体制にも影響を及ぼす可能性があります。
このため、高市首相は「国民生活に直結する予算案の成立」を重視し、解散のタイミングについて慎重に判断する姿勢を示しています。首相は繰り返し「国民に約束した政策を実現することが最優先」と述べており、予算遅延のリスクと選挙のタイミングのバランスをどう取るかが焦点となっています。
冒頭解散の歴史的precedentと成功率
過去4例の冒頭解散
現行憲法下で冒頭解散は4例しかなく、いずれも自民党が善戦または勝利しています。首相の所信表明演説さえ行わずに解散詔書を読み上げるという異例の形式は、強い政治的意図を示すものとして注目を集めます。
1966年の「黒い霧解散」や1986年の「寝たふり解散」など、冒頭解散は政権側にとって有利な結果をもたらしてきた実績があります。この歴史的precedentが、自民党内の解散論を支える根拠の一つとなっています。
首相就任1年以内の解散という選択
過去のデータを見ると、衆議院解散は「首相就任1年以内」が6割を占めており、首相が高い支持率を維持している早期のタイミングで解散に踏み切るケースが多いことがわかります。高市首相の場合、2025年10月21日の首相指名から約3ヶ月という短期間での解散判断となるため、この傾向に沿った動きとも言えます。
一方で、日本国憲法下において任期満了での総選挙が行われたのは1976年の1度だけという事実は、首相が解散時期を戦略的に選択する日本政治の特徴を示しています。
政治状況の複雑な要因
参議院の少数状態という制約
解散論に対する慎重論の根拠の一つが、「衆院選に勝利しても参院の少数状態は変わらない」という指摘です。現在、自民党は参議院でも過半数を持たず、日本維新の会との連立でようやく政権を維持している状況です。
衆議院で議席を増やしても、参議院での法案審議では引き続き野党の協力が必要となるため、解散のメリットが限定的だとする見方があります。この「ねじれ」状態をどう評価するかも、解散判断の重要な要素となっています。
野党の動向と選挙準備
早期解散論が浮上する中、野党各党は解散に備えた準備を進めています。立憲民主党や国民民主党などは、高市内閣の政策を批判しつつ、選挙体制の整備を急いでいます。
ただし、野党側も準備期間が短いため、冒頭解散は与党にとって有利に働く可能性が高いとの分析もあります。特に、高市首相の高い支持率が「個人の人柄」や「政策への期待」に支えられているという世論調査結果を見ると、首相の顔が前面に出る選挙戦では自民党に追い風となる可能性があります。
今後の展望と注意点
3つの解散シナリオ
永田町では、高市首相の解散判断について3つのシナリオが囁かれています。第一が今回報じられた「国会冒頭解散」、第二が「春の予算成立後解散」、第三が「夏以降の解散」です。
春の予算成立後であれば、予算遅延のリスクを回避しつつ、まだ高い支持率を維持している段階で選挙を実施できます。一方、夏以降に先送りすれば、政策実績をアピールできる一方で、支持率低下のリスクも高まります。
財政リスクへの配慮
予算案の規模拡大に伴う財政リスクも無視できません。国債発行残高は2026年度末時点で1145兆円に達する見通しで、利払い費は13兆円に急増します。円安・債券安が進めば経済や国民生活への悪影響が懸念されるため、早期の予算成立による財政規律の確保も重要な論点となっています。
まとめ
高市首相が直面する国会冒頭解散の判断は、高支持率という追い風と、予算成立遅延という国民生活への影響というトレードオフの中で行われます。過去の冒頭解散が与党に有利に働いてきた実績がある一方で、122兆円を超える過去最大の予算案を先送りするリスクは無視できません。
首相は「選択肢のひとつ」と述べるにとどめており、最終判断はまだ下されていません。1月23日の国会召集まで残り2週間を切る中、高市首相がどのような決断を下すのか、日本政治の今後を大きく左右する重要な局面を迎えています。
政策実現を重視する姿勢と、政治的なタイミングの見極めという二つの要素をどうバランスさせるか。高市首相の判断は、日本の議会制民主主義における首相の解散権のあり方についても、改めて考える機会を提供しています。
参考資料:
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