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by nicoxz

トランプ氏が英国名指し「石油は自分で取りに行け」発言の背景

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はじめに

2026年3月31日、トランプ米大統領はSNS「Truth Social」に投稿し、ホルムズ海峡の事実上の封鎖で燃料不足に苦しむ英国を名指しして「自分の石油は自分で取りに行け(Go get your own oil)」と発言しました。この投稿は、米国とイスラエルによるイラン攻撃に協力しなかった同盟国への強い不満を示すものです。トランプ氏は「米国はもう助けない。自分たちで戦うことを学べ」とも述べ、英国に対して米国から燃料を購入するか、ホルムズ海峡に自ら赴いて石油を確保するよう迫りました。この発言の背景には、2月末から続くイラン戦争とホルムズ海峡危機、そして深刻化するエネルギー供給問題があります。

ホルムズ海峡危機の経緯と現状

米国・イスラエルによるイラン攻撃と海峡封鎖

2026年2月28日、米国とイスラエルは「オペレーション・エピック・フューリー」と名付けた共同軍事作戦を開始し、イランの軍事施設や核関連施設に対する大規模な空爆を実施しました。この作戦はイランの核・弾道ミサイル計画の無力化と体制転換を目的としたものとされています。

これに対しイランは報復として、米軍基地やイスラエル領土、湾岸諸国にミサイルおよびドローン攻撃を展開しました。さらにイラン革命防衛隊(IRGC)はホルムズ海峡の通行を禁止する警告を発し、同海峡は事実上の封鎖状態に陥りました。通過船舶は1日あたり約120隻から5隻程度にまで激減したと報じられています。

世界の原油供給への打撃

ホルムズ海峡は世界の海上原油貿易のおよそ20%が通過する戦略的要衝です。日量約2,000万バレルの原油が行き来しており、封鎖による影響は甚大です。ブレント原油価格は危機発生前の60ドル台後半から急騰し、3月8日には4年ぶりに100ドルを突破しました。一時は126ドルにまで達し、3月31日時点でも105ドル前後で推移しています。

米国内でもガソリン価格が平均で1ガロン4ドルを超え、2022年以来の高水準を記録しました。専門家の間では、封鎖が6〜8週間続いた場合、原油価格が150〜200ドルにまで急騰する可能性があるとの見方も出ています。

トランプ氏のSNS投稿と米英関係の亀裂

「勇気を奮い起こして取りに行け」

トランプ大統領は3月31日の投稿で、ホルムズ海峡封鎖の影響でジェット燃料を入手できなくなっている英国などの国々に対し、「いくらかの遅れた勇気を奮い起こして海峡に行き、ただ取れ(build up some delayed courage, go to the Strait, and just TAKE IT)」と挑発的な言葉を使いました。

さらに「自分たちで戦うことを学ばなければならない。あなたたちが我々のそばにいなかったように、米国はもうあなたたちを助けに行かない(You’ll have to start learning how to fight for yourself, the U.S.A. won’t be there to help you anymore, just like you weren’t there for us)」と続けています。米国から石油を購入するか、自力で海峡を確保するかの二者択一を突きつけた格好です。

ヘグセス国防長官も英国を挑発

トランプ氏の投稿に呼応する形で、ヘグセス国防長官(正式名称は「戦争長官」)も記者会見で英国を名指ししました。「これは米海軍だけの問題ではない。私の知る限り、そうしたことができるはずの大きく強力な英国海軍(Royal Navy)があったはずだ」と述べ、英国の軍事的関与の不足を痛烈に批判しました。ヘグセス氏はホルムズ海峡が「米国よりも他国が多く利用する国際水路」であると指摘し、同盟国に責任分担を求めています。

背景にある英国の対イラン戦争への姿勢

この対立の根底には、英国のスターマー首相がイラン攻撃への参加を一貫して拒否してきた経緯があります。スターマー氏は当初、米国が要請した英国軍事基地の先制攻撃への使用を拒否しました。その後、「限定的かつ防衛的な」作戦に限り米軍による英国基地の使用を許可したものの、直接的な軍事参加には消極的な姿勢を保ってきました。スターマー首相は紛争のエスカレーション回避と外交的解決を繰り返し訴えており、この姿勢がトランプ氏の不満の的となっています。

英国と欧州の対応、そして日本への波及

英国の軍事的対応

トランプ氏の投稿を受け、英国のヒーリー国防相は中東への追加派兵を発表しました。具体的には、スカイセーバー防空ミサイルシステムを搭載した王立砲兵隊をサウジアラビアに派遣するほか、カタールに展開するRAFタイフーン戦闘機の配備期間を延長する方針です。ヒーリー氏は「イランがホルムズ海峡を人質にしようとしている」と認めつつも、「紛争の縮小と航行の自由の回復につながる計画を策定することが我々全員への課題だ」と外交的解決を重視する姿勢を示しました。

欧州全体への影響

欧州連合(EU)は、この危機によってガス価格が70%、原油価格が50%上昇し、化石燃料の輸入に追加で130億ユーロのコストが発生していると試算しています。特に深刻なのはジェット燃料とディーゼル燃料で、欧州はホルムズ海峡経由のジェット燃料にその供給量の約40%を依存しているとされています。また、カタールからのLNG供給が途絶えたことで、ロシアからのガス離れを進めてきた欧州のエネルギー戦略にも大きな打撃となっています。

日本への影響も深刻

日本は原油輸入の約94%を中東地域に依存しており、そのほとんどがホルムズ海峡を通過しています。2025年末時点で国内需要の254日分に相当する石油備蓄がありますが、封鎖の長期化に備え、政府は民間備蓄の保有義務を70日分から55日分に引き下げて市場に供給するとともに、国家備蓄1カ月分の放出を決定しました。プラスチック製造企業では原材料価格が約4割上昇するなど、産業全体への影響が広がっています。一部の分析では、封鎖が長期化した場合、石油備蓄が8月にも枯渇する可能性が指摘されています。

注意点・展望

トランプ氏の発言は、ホルムズ海峡危機を同盟国への圧力カードとして活用する意図が明確です。「米国から石油を買うか、自力で確保しろ」という二択は、結果的に米国産エネルギーの輸出拡大という経済的利益にもつながります。

一方で、3月31日には地域大国と国際仲介者による暫定的な海上安全保障合意が発表され、原油価格は一時105ドル台まで後退しました。紛争の出口が見え始めた兆候もあります。しかし、イランの軍事的報復が続く限り、海峡の完全な再開には相当な時間がかかるとみられます。

日本を含むアジア諸国にとって、中東依存からの脱却とエネルギー調達先の多角化は、もはや「将来の課題」ではなく「今そこにある危機」への対応として急務です。今回の事態は、エネルギー安全保障のあり方を根本から問い直す契機となるでしょう。

まとめ

トランプ大統領の「石油は自分で取りに行け」という発言は、単なる挑発にとどまらず、米国の外交・安全保障方針の転換を象徴しています。同盟国に対して軍事的負担の共有を強く求めるトランプ政権の姿勢は、ホルムズ海峡危機を通じて一層鮮明になりました。原油価格は100ドル超の高止まりが続き、欧州や日本など中東産エネルギーへの依存度が高い国々は、短期的な供給確保と中長期的なエネルギー戦略の再構築という二重の課題に直面しています。今後の停戦交渉の行方とともに、米国と同盟国の関係がどう再定義されるかが国際社会の焦点となります。

参考資料:

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