円高でも日本株が上がる条件とは?内需と産業力がカギ
はじめに
日本の株式市場では長年、「円安=株高」「円高=株安」という関係が定番とされてきました。輸出企業が多い日本の上場企業にとって、円安は海外収益の円換算額を押し上げるため、為替と株価の関係は単純明快に見えます。
しかし2026年に入り、この相関関係にうっすらと変化の兆しが現れています。米バンク・オブ・アメリカが発表したチャートでは、日本株と円相場の関係が「円高・株高」に転じつつある可能性が示され、市場で大きな話題となりました。歴史的な円安の是正が進む中で株価上昇を維持するには何が必要なのか、過去の景気循環の教訓をもとに考察します。
崩れ始めた「円安・株高」の定番
相関関係の「サインフリップ」
2025年以降、日本株と円相場の相関関係に構造的な変化が起きています。ドル円レートと日米金利差の相関係数は、2025年2月時点でプラス0.94と非常に強い正の相関を示していました。ところが、2025年4月のいわゆる「解放の日」(トランプ政権による24%関税発表)を境に、この相関はマイナス0.70へと急反転しました。
この「サインフリップ」(符号の反転)は、ウォール街のクオンツモデルを大きく揺るがす事態です。従来の「金利が上がれば通貨が強くなる」という金利平価理論の前提が、日本では崩れつつあります。バンク・オブ・アメリカは2026年末のTOPIX目標を3,700、日経平均を55,500と設定しており、円高局面でも日本株の上昇を見込んでいます。
過去50年のデータが示す事実
実は、円高と株高は歴史的に見て両立不可能ではありません。1975年から2025年までの50年間で、円高で終わった年は27回ありますが、そのうち15回は株高も実現しています。円高=株安という思い込みは、必ずしもデータに裏付けられたものではないのです。
重要なのは、円高局面で株高を実現できた年には共通の条件があるという点です。それは、内需の強さと、為替に左右されにくい付加価値の高い産業の存在です。
いざなみ景気の教訓:外需依存の限界
73カ月の景気拡大が残した課題
2002年2月から2008年2月まで続いた「いざなみ景気」は、73カ月という戦後最長の景気拡大期間を記録しました。しかし、その実態は決して力強いものではありませんでした。
実質経済成長率は年平均2%弱にとどまり、1960年代の「いざなぎ景気」の年平均10%超とは比較になりません。最大の問題は、景気拡大の恩恵が偏っていた点です。2004年の大規模為替介入による円安を追い風に、輸出関連産業は過去最高益を更新しました。一方で、雇用者報酬は2002年の262.5兆円から2007年の262.1兆円へとむしろ減少しています。
内需不在の「実感なき好景気」
いざなみ景気の致命的な弱点は、内需の力不足でした。輸出産業の集積地では好況に沸く一方、賃金は下落を続け、大手小売や建設を筆頭とした内需・既存産業は停滞が続きました。円安と外需に依存した景気拡大は、為替が反転した瞬間に脆くも崩れ去ります。
この教訓は現在にも直結します。円安頼みの収益構造のままでは、円高局面で株価を維持することは困難です。円高でも株高を実現するには、国内経済そのものの強さと、為替変動に左右されにくい高付加価値産業の育成が不可欠なのです。
2026年、円高・株高の条件は整いつつあるのか
賃上げの定着と内需の回復
2026年の春闘では、連合が3年連続で「5%以上」の賃上げ目標を掲げています。中小労組に対しては「6%以上」を目安とし、実質賃金1%アップを明記した点が注目されます。
複数の機関による予測では、2026年の春闘賃上げ率は5.20%と見込まれています。2025年の5.52%からはやや鈍化するものの、3年連続で5%台の高い賃上げが実現する見通しです。人手不足の深刻化と歴史的な物価高への対応、そして高水準の企業収益が高い賃上げを支えています。
三菱総合研究所は、2026年以降の日本経済について「内需主導で1%近傍のプラス成長が続く」と予測しています。実質賃金が前年比プラス基調に転じれば、消費の回復を通じて内需の好循環が生まれる可能性があります。
半導体・AI投資による産業構造の転換
もう一つの重要な条件が、付加価値の高い産業の成長です。経済産業省の2026年度予算は前年度比約5割増の3兆693億円となり、半導体・AI関連に1兆2,390億円が計上されました。前年度の3.7倍という大幅な増額です。
「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、2030年度までの7年間に10兆円以上の公的支援を投じ、50兆円超の官民投資と約160兆円の経済波及効果を目指しています。国産AIの基盤モデル開発やフィジカルAI分野には3,873億円が充てられています。
世界半導体市場は2026年に9,754億ドル規模に達する見通しで、前年比約26.3%の大幅成長が見込まれます。日本がこの成長市場で存在感を発揮できれば、円高局面でも企業収益を支える力となります。
日銀の金融政策正常化
日銀は2024年3月のマイナス金利解除以降、段階的に利上げを進めてきました。2025年12月には政策金利を0.75%まで引き上げ、約30年ぶりの高水準に達しています。野村證券は2026年に2回、2027年に1回の追加利上げを予想し、ターミナルレート(最終到達金利)を1.50%と見込んでいます。
金融政策の正常化は円高要因となりますが、それは同時に日本経済が利上げに耐えられるだけの強さを持っていることの証でもあります。日米金利差の縮小により、2026年のドル円相場は140円近辺まで円高が進むとの見方もあります。
注意点・展望
リスク要因を見逃さない
円高・株高の実現にはいくつかのリスクが存在します。まず、賃上げが大企業中心にとどまり、中小企業や非正規雇用に十分波及しなければ、内需の本格回復は難しくなります。また、半導体・AI投資も成果が出るまでに時間がかかり、短期的には効果が限定的です。
政治面では、高市政権の経済政策と日銀の金融政策の間に緊張関係が生じる可能性もあります。高市首相は金融緩和志向とされ、中立金利を超える利上げには慎重な姿勢を示す可能性が指摘されています。
「いざなみの轍」を踏まないために
いざなみ景気の反省を活かすなら、外需依存から脱却し、賃金上昇→消費拡大→企業収益向上という内需の好循環を確立することが最優先です。同時に、半導体やAIなど為替変動に左右されにくいグローバルな付加価値産業を育成することで、円高耐性のある経済構造を構築する必要があります。
まとめ
円高でも株価が上がるためには、いざなみ景気が欠いていた2つの要素、すなわち「堅調な内需」と「高い付加価値を持つ産業力」が不可欠です。2026年の日本は、3年連続の高い賃上げ率、過去最大規模の半導体・AI投資、そして日銀の金融政策正常化という3つの追い風を受けています。
投資家にとって重要なのは、単純な「円安=買い、円高=売り」という判断から脱却し、内需の強さや産業構造の変化を見極めることです。円高・株高という新たな相関が定着するかどうかは、日本経済が真に「稼ぐ力」を身につけられるかにかかっています。
参考資料:
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