韓国・尹錫悦前大統領に内乱罪で死刑求刑の衝撃
はじめに
2026年1月13日、韓国の特別検察官(特検)は尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領に対し、内乱罪で死刑を求刑しました。2024年12月の戒厳令宣言に端を発した政治危機は、現職大統領の弾劾、逮捕、そして死刑求刑という前例のない展開を見せています。
本記事では、尹前大統領への死刑求刑の背景と、韓国政治への影響について解説します。
死刑求刑に至る経緯
戒厳令宣言と弾劾
2024年12月3日、尹錫悦大統領(当時)は突如として非常戒厳を宣言しました。野党の予算案審議への対抗措置とされましたが、国会は6時間後に戒厳令解除を決議。尹大統領は宣言を撤回しました。
この戒厳令宣言は「内乱」に当たるとして、野党は弾劾訴追案を提出。12月14日に国会で可決され、尹大統領は職務停止となりました。その後、憲法裁判所による審理を経て、弾劾が確定しています。
逮捕と拘束
尹前大統領は当初、高等公職者犯罪捜査処(公捜処)からの出頭要請を拒否していましたが、2025年1月19日に逮捕されました。現職・元職を問わず、韓国大統領が逮捕されたのは史上初めてのことでした。
その後、ソウル西部地裁は拘束令状を発付。尹前大統領は拘置所に収監され、取り調べを受けることになりました。
特検による捜査と起訴
特別検察官は尹前大統領を内乱首謀罪で起訴しました。内乱罪は国家の基本秩序を転覆させる重大犯罪として位置づけられており、韓国刑法では首謀者に死刑、無期懲役、または無期禁錮が科されると規定されています。
死刑求刑の内容
検察の主張
特検は、尹前大統領が戒厳令を宣言し、軍を動員して国会を封鎖しようとした行為は「憲政秩序の破壊を目的とした内乱」に該当すると主張しています。
具体的には、戒厳軍が国会議事堂に侵入を試みたこと、国会議員の議場入りを妨害しようとしたこと、報道機関への統制を図ったことなどが、内乱の構成要件を満たすと指摘されています。
関係者への求刑
尹前大統領だけでなく、戒厳令宣言に関与した関係者も起訴されています。金龍顕(キム・ヨンヒョン)元国防長官をはじめとする軍・政府高官にも、内乱に加担した罪で厳しい処分が求刑されています。
韓国政治への影響
前例のない事態
韓国では過去に複数の大統領が退任後に逮捕・起訴されていますが、死刑を求刑されるのは初めてです。朴槿恵元大統領は収賄罪などで懲役刑を言い渡されましたが、内乱罪での訴追はありませんでした。
今回の死刑求刑は、韓国の民主主義と法の支配の観点から、重大な意味を持つと受け止められています。
世論の反応
韓国国内の世論は二分されています。尹前大統領の支持者は「政治的迫害」だと反発し、抗議活動を展開しています。一方、野党支持者や民主化運動関係者は「法に基づく当然の処罰」として求刑を支持しています。
政治的分断が深まる中、裁判の行方が韓国社会に与える影響は計り知れません。
日韓関係への影響
尹前大統領は在任中、日韓関係の改善に積極的に取り組んできました。元徴用工問題では韓国側が解決策を提示し、日韓シャトル外交が再開されるなど、両国関係は好転していました。
尹政権の崩壊後、後任の李在明大統領のもとでも日韓関係は維持されていますが、韓国政治の不安定化が長期化すれば、外交にも影響が及ぶ可能性があります。
裁判の見通し
判決時期
尹前大統領の裁判は、2026年2月中にも一審判決が言い渡される見通しです。内乱罪という重大事案であるため、迅速な審理が進められています。
ただし、判決後は控訴審、大法院(最高裁)への上告が予想され、最終的な判決確定までには相当の時間がかかる可能性があります。
死刑執行の可能性
仮に死刑判決が確定したとしても、実際に執行されるかどうかは不透明です。韓国では1997年以降、死刑執行が行われておらず、事実上の死刑執行停止状態にあります。
国際的にも死刑廃止の流れが強まる中、元大統領に対する死刑執行は国際社会からの強い反発を招く可能性があり、政治的判断が求められる局面です。
韓国民主主義の試練
歴史的文脈
韓国は1980年代の民主化以降、軍事政権から民主主義体制への移行を果たしてきました。しかし、大統領の権限集中や政治的分極化といった課題は残されています。
今回の戒厳令事件と死刑求刑は、韓国民主主義の強靭さと脆弱さの両面を浮き彫りにしました。戒厳令がわずか6時間で解除されたことは民主主義の抵抗力を示しましたが、そもそも大統領が戒厳令を宣言できた事実は制度的課題を示しています。
制度改革の議論
尹前大統領の事件を受け、韓国では大統領の権限や戒厳令の発動要件について、制度改革の議論が始まっています。大統領への権力集中を緩和し、チェック・アンド・バランスを強化する方向での憲法改正も検討課題となっています。
まとめ
韓国の特別検察官が尹錫悦前大統領に死刑を求刑したことは、韓国政治史上前例のない事態です。2024年12月の戒厳令宣言から始まった政治危機は、弾劾、逮捕、そして死刑求刑という展開を見せています。
2026年2月にも予想される一審判決が、韓国の民主主義と法の支配にとってどのような意味を持つのか。韓国社会と国際社会が注視する中、裁判の行方が注目されます。
参考資料:
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