2026年施行の法改正まとめ、TOB・通報者保護・EU規制に注目
はじめに
2026年は企業活動に影響する様々な法令・ルールが変わる重要な年となります。中でも注目されるのが、5月1日から施行される金融商品取引法改正によるTOB(株式公開買い付け)義務の閾値引き下げ、12月1日施行の公益通報者保護法の強化、そして9月から適用開始となるEUサイバーレジリエンス法の報告義務です。これらの制度変更は、M&A実務、内部統制、製品セキュリティなど企業経営の多岐にわたる分野に影響を及ぼします。
本記事では、2026年に施行される主要な法改正の内容と、企業が取るべき対応策について詳しく解説します。
金融商品取引法改正:TOB義務「30%超」へ(5月1日施行)
閾値引き下げの詳細
2026年5月1日から、金融商品取引法の改正により、公開買付け(TOB)が義務付けられる閾値が従来の3分の1(約33.3%)から30%に引き下げられます。この変更により、企業の株式を30%超保有する場合にTOB実施が義務化されることになります。
この改正の背景には、諸外国では30%を閾値とする例が多いことや、30%の議決権を有していれば、多くの上場会社において株主総会の特別決議を阻止することができるという実態があります。特にアクティビスト(物言う株主)による企業への圧力が増す中で、株主保護と市場の透明性向上が求められていました。
市場内取引の適用対象化
今回の改正で重要なのは、市場内取引(立会内)も公開買付規制の対象に追加されることです。これまで市場内取引は一定の条件下で規制対象外でしたが、今後は市場内で株式を買い集める場合もTOB規制の対象となります。それに伴って特別関係者の範囲も変更され、一部の関係者が形式的特別関係者の範囲から除外されます。
また、市場内取引が公開買付規制の適用対象に含まれたことで、「急速な買付け等」が「30%ルール」の適用対象から除外されることとなりました。これにより、規制の適用範囲が明確化され、実務上の混乱が減少することが期待されています。
企業への実務的影響
この改正は、M&A実務に大きな影響を与えることが予想されています。特に、段階的な株式取得を計画している企業は、30%という新しい閾値を意識した戦略の見直しが必要です。また、既に25%〜33%の株式を保有している株主は、追加取得のタイミングと方法について慎重な検討が求められます。
2024年はアクティビストによる保有目的に「重要提案行為」と記載した大量保有報告書が133件にのぼり、23年比で55%増えました。このような環境下で、TOB規制の強化は市場の透明性向上に寄与すると期待されています。
大量保有報告制度の見直し(5月1日施行)
制度改正の背景
TOB規制と同時に、大量保有報告制度も2026年5月1日から改正内容が適用されます。改正後の大量保有報告制度は、2026年5月1日以後に大量保有報告書等の報告義務が発生する場合から適用されます。
日本でも金商法上の大量保有報告制度の見直しが始まった背景には、米国と同様に、アクティビスト株主の活動が活発化し、上場会社に対する敵対的買収の試みが増加しているという環境変化があります。
ウルフ・パック戦術への対応
現在の課題として、複数の投資家が協調的に行動し、水面下で株式を買い集め、対象会社に圧力をかける「ウルフ・パック戦術」への対応があります。我が国の大量保有報告制度には、欧州の一部の国にあるように大量保有報告違反があった場合に違反者の議決権を停止させる制度や、「協調して行動する」者について明確な合意が認定できなくとも「共同保有者」に含む制度は採用されていません。
今回の改正により、市場の透明性と情報の対称性を向上させることを目的として、報告義務の範囲や内容が見直されました。
公益通報者保護法の強化(12月1日施行)
保護対象の拡大
2025年6月11日に公益通報者保護法の改正法が公布され、2026年12月1日に施行されます。この改正の最も重要なポイントは、保護対象が業務委託関係にあるフリーランスなどにまで拡大されることです。
具体的には、業務委託契約のフリーランス(個人事業主や従業員がゼロの法人)と、契約完了後1年以内のフリーランスも保護対象に追加されます。これにより、雇用関係にない働き手も安心して企業の不正を通報できる環境が整います。
不利益取扱いへの罰則導入
改正法では、公益通報を理由に通報者を解雇・懲戒した会社に対して罰則が設けられます。これまで不利益取扱いの禁止は規定されていましたが、罰則がなかったため実効性に課題がありました。今回の改正により、通報者保護が一層強化されることになります。
体制整備の徹底
事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上も求められます。企業は内部通報制度の見直しや社内規程の整備、従業員・フリーランスへの教育など、具体的な準備が必要となります。
EUサイバーレジリエンス法(9月11日から報告義務適用)
2026年9月11日からの報告義務
欧州サイバーレジリエンス法(EU Cyber Resilience Act:CRA)は、デジタル要素を含む製品の消費者を保護し、製品のサイバーセキュリティ確保を製造者に義務付ける欧州の規則です。CRAは2024年12月10日から発効しましたが、2026年9月11日から脆弱性、インシデント報告義務に関する部分が適用開始となります。
製造業者は、①製品に含まれる、現在悪用されている脆弱性または②製品のセキュリティに影響を及ぼす重大なインシデントを認識した場合、EU当局(ENISA)が設置する単一報告プラットフォームを通じて報告しなければなりません。早期警告通知は、製造業者が脆弱性または重大なインシデントを認識してから遅滞なく、いかなる場合でも24時間以内に行う必要があります。
日本企業への影響
EU市場に供給している対象製品に関して、2026年9月11日以降から、当局やユーザへの脆弱性・インシデントの報告・通知を実施する必要があることに留意する必要があります。製造業者の報告義務の適用開始は2026年9月11日と時期が迫っており、時間的猶予が限られています。
CRAはデジタル要素を持つ製品そのものに焦点を当て、サプライヤーの責任を明確化することで、欧州全体のサイバーレジリエンスを高めようとしています。設計・開発段階のようなより早い段階でのセキュリティ組み込み(Secure by Design)を義務化し、製品販売後でもメーカーに脆弱性対応の責任を持たせることで、問題を根本的に解決しようとしています。
脆弱性管理とSBOM
デジタル要素を含む製品に含まれる脆弱性とコンポーネントを特定し、文書化する必要があります。これには、少なくともデジタル要素を含む製品のトップレベルの依存関係を網羅する、一般的に使用され機械で読み取り可能な形式のソフトウェア部品表(SBOM)を作成することを含みます。
CRAに違反した場合、1500万ユーロ(27.3億円)または全会計年度の全世界の年間総売上高の2.5%のいずれか高い方の罰則(罰金)が適用されます。また、CRAは対象製品の準拠状況をCEマークに統合して管理し、CEマークを取得できない製品は欧州市場で販売できなくなります。
会社法改正の議論も進行中
株主総会のあり方見直し
2026年は法改正の施行だけでなく、将来の制度変更に向けた議論も本格化します。法務省の法制審議会では、株主総会のあり方など会社法改正に向けた審議が進んでいます。国会への法案提出の時期は未定ですが、「26年度中を目指して検討している」(法務省担当者)とのことです。
書面決議制度の緩和
特に注目されるのが、株主総会の議案を書面のみで決議しやすくする改正です。現在、株主全員の賛同を求める要件を緩和し、議決権の10分の9を持つ株主が賛成すれば総会を開かずに議案を可決できるようにする方針です。スタートアップを念頭に、非上場企業の意思決定のスピードを速め、成長を後押しすることが狙いです。
バーチャルオンリー株主総会
バーチャルオンリー株主総会についても、非上場会社についてニーズがあるとの指摘や、産業競争力強化法において求められている確認を受けない場合にも、広く開催を認め、遠隔地からの株主総会への出席をしやすくすべきとの指摘があります。
企業が取るべき対応策
TOB・大量保有報告制度への対応
2026年5月1日の施行に向けて、企業は以下の対応が必要です。
- 既存株主の保有比率の確認:25%〜33%を保有する株主がいる場合、追加取得計画の見直しが必要
- M&A戦略の再検討:段階的取得を計画している場合、30%の閾値を考慮したスケジュール調整
- 社内規程の整備:TOB実施手続きや大量保有報告に関する社内ルールの更新
- 法務・財務チームの体制強化:新制度に対応できる専門知識の習得
公益通報者保護法への対応
2026年12月1日の施行に向けて、以下の準備が求められます。
- 内部通報制度の見直し:フリーランスを含む通報受付体制の構築
- 社内規程の整備:通報者保護に関する規定の更新、罰則の明確化
- 従業員・業務委託先への教育:改正内容の周知と通報制度の説明
- 通報窓口の強化:独立性・秘密保持体制の確保
EUサイバーレジリエンス法への対応
2026年9月11日の報告義務適用に向けて、製造業者は以下の対応が急務です。
- 脆弱性・インシデント報告フローの構築:24時間以内の報告体制の整備
- SBOM作成体制の確立:ソフトウェア部品表の作成・管理プロセスの構築
- 製品セキュリティマネジメント体制の構築:Secure by Designの実装
- サプライチェーンの把握:デジタル要素を含む製品の洗い出しと対応優先順位の決定
まとめ
2026年は企業活動に大きな影響を与える法改正が相次ぐ重要な年となります。5月のTOB・大量保有報告制度改正、9月のEUサイバーレジリエンス法報告義務適用、12月の公益通報者保護法強化と、年間を通じて対応が必要な制度変更が続きます。
これらの改正は、市場の透明性向上、内部統制の強化、製品セキュリティの確保という、それぞれ異なる目的を持っていますが、いずれも企業のガバナンス体制全体の強化につながるものです。早期に準備を開始し、社内体制を整備することで、制度変更を企業価値向上の機会として活用することができるでしょう。
特に、EUサイバーレジリエンス法の報告義務は2026年9月11日と適用まで時間が限られているため、EU市場で製品を販売する企業は最優先で対応体制を構築する必要があります。各法改正の施行日を意識しながら、計画的に準備を進めることが重要です。
参考資料:
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