安藤忠雄が語るがん克服と不屈の建築人生
はじめに
世界的建築家・安藤忠雄氏は、2009年に68歳でがんの宣告を受けました。9時間に及ぶ大手術を経験し、その後も2度目のがんと闘いながら、現在も精力的に建築活動を続けています。5つの臓器を摘出するという壮絶な体験を経てなお、「人生はこれからだ」と語るその姿勢は、多くの人に勇気を与えています。
本記事では、安藤氏のがん闘病の経緯と、病を乗り越えて活躍し続ける原動力について、独自の調査をもとに詳しく解説します。
独学から世界的建築家へ――安藤忠雄の異色の経歴
プロボクサーから建築の道へ
安藤忠雄氏は1941年、大阪市に生まれました。高校在学中の17歳でプロボクサーのライセンスを取得し、リングネーム「グレート安藤」としてフェザー級でデビューしています。しかし、当時世界チャンピオンだったファイティング原田の練習を間近で見て、身体能力の差を痛感し、約1年半でボクシングを引退しました。
その後、経済的な理由から大学には進学できませんでしたが、独学で建築を学び始めます。毎日15時間以上の猛勉強を続け、建築科の学生が4年かけて学ぶ内容を1年で習得したといいます。24歳のときには約7カ月にわたって欧米やアフリカ、アジアを放浪し、各地の建築を自分の目で見て回りました。
コンクリートの詩人と呼ばれるまで
1969年に大阪で安藤忠雄建築研究所を設立します。1976年に完成した「住吉の長屋」が高く評価され、1979年に日本建築学会賞を受賞しました。打ち放しコンクリートを特徴とする独自の作風は、世界中の建築関係者から注目を集めます。
1995年には建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞しました。「光の教会」「水の教会」「風の教会」からなる教会三部作や、直島の地中美術館など、数々の名作を生み出しています。2010年には文化勲章も受章しました。
68歳での衝撃的ながん宣告と大手術
人間ドックで発覚した異変
安藤氏は子ども時代から大きな病気をしたことがなく、プロボクサーのトレーニングで鍛えた頑丈な身体が自慢でした。しかし2009年、定期的に受けていた人間ドックで腹部に異変が見つかります。精密検査の結果、十二指腸乳頭部に悪性腫瘍が確認されました。
主治医からは「胆のうと胆管から十二指腸までを全摘しなければならない」と告げられます。当時68歳の安藤氏にとって、人生で初めての大病でした。
9時間に及ぶ手術と驚異的な回復
手術は約9時間に及ぶ大がかりなものとなりました。胆のう、胆管、十二指腸の3つの臓器が摘出されています。これだけの大手術でありながら、安藤氏の回復は驚異的でした。約20日間の入院期間中、吐き気や下痢、強い痛みがほとんどなかったといいます。担当医が「ギネスブックものだ」と驚くほどの回復力でした。
退院後も、安藤氏は建築の仕事を止めることはありませんでした。むしろ、病を経験したことで「残された時間を全力で生きる」という意識がより強くなったといいます。
2度目のがん――膵臓と脾臓の全摘出
5年後に再び訪れた試練
最初の手術から5年後の2014年、安藤氏に再びがんが見つかります。今度は膵臓の中央部に悪性腫瘍が発見されました。医師からは膵臓と脾臓の全摘出が必要だと告げられます。
注目すべきは、安藤氏の手術に臨む姿勢です。2014年7月1日に予定されていたiPS細胞研究の山中伸弥教授との対談に、手術前日であるにもかかわらず出席しています。そして翌日、約12時間にも及ぶ大手術に臨みました。
合計5つの臓器を失っても
2度の手術で、安藤氏は合計5つの臓器を失いました。胆のう、胆管、十二指腸、膵臓、脾臓です。通常であれば日常生活にも大きな支障が出る状態ですが、安藤氏は再び驚異的な回復を見せます。
術後の生活では、毎朝6時45分に起床して40分間のウォーキングを行い、1日1万歩を目標に歩く習慣を確立しました。食事にも時間をかけてゆっくり摂るようになり、仕事の合間に適切な休息を取り入れるなど、身体と向き合う生活スタイルを築いています。
病を超えて広がる活動の幅
世界を舞台にした建築活動
5つの臓器を摘出した後も、安藤氏の建築活動はむしろ加速しています。パリの歴史的建造物「ブルス・ドゥ・コメルス」を現代美術館に改修するプロジェクトを手がけ、世界的な注目を集めました。
現在は台湾、韓国、中国、ベトナム、モナコ、モロッコ、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカなど、世界各地でプロジェクトを展開しています。特に中国では、以前はコンペで負けることもありましたが、近年は連戦連勝を続けているといいます。
子どもたちへの贈り物「こども本の森」
安藤氏が近年力を入れているのが、子ども向け図書施設「こども本の森」プロジェクトです。2020年に大阪・中之島にオープンした第1号施設は、安藤氏が自費で設計・建設し、大阪市に寄贈したものです。
幼少期に文化的な環境に恵まれなかった自身の経験から、「子どもたちが本と出会い、豊かな創造力を育む場所をつくりたい」という思いで始めたこのプロジェクトは、神戸など各地に広がっています。運営費も企業や個人からの寄付で賄われており、2022年3月時点で約8億8,000万円が集まりました。
注意点・展望
がん闘病における個人差
安藤氏の驚異的な回復は、多くの人に希望を与えるものです。しかし、がんの治療や回復には個人差が大きく、安藤氏のケースがすべての患者に当てはまるわけではありません。同じ臓器の摘出でも、年齢や体力、がんの進行度によって予後は大きく異なります。
重要なのは、安藤氏が定期的な人間ドックを受けていたことで、がんの早期発見につながった点です。定期健診の重要性は、安藤氏の経験からも改めて確認できます。
84歳の挑戦は続く
2025年には大阪・梅北の「VS.」で展覧会「青春」を開催するなど、84歳を迎えた現在も精力的に活動を続けています。「臓器を5つ摘出しても、落ちこまない。人生はこれからだ」という安藤氏の言葉には、年齢や病気を理由に夢をあきらめない強い意志が込められています。
「あと20年は仕事をする」と語る安藤氏の挑戦は、建築の世界にとどまらず、多くの人々の生き方にも影響を与え続けるでしょう。
まとめ
安藤忠雄氏は、プロボクサーから独学で建築を学び、世界的な建築家へと上り詰めた異色の経歴の持ち主です。68歳でがんを宣告され、2度の大手術で5つの臓器を摘出するという壮絶な経験をしながらも、建築活動を止めることはありませんでした。
毎日1万歩を歩き、世界中でプロジェクトを手がけ、「こども本の森」を通じて次世代への貢献も続けています。安藤氏の生き方は、困難に直面したとき、いかに前を向いて歩み続けるかという普遍的な問いへの一つの答えを示しています。定期健診を怠らず、病気と上手に付き合いながら自分の使命を全うする姿勢は、年齢を問わず多くの人の指針となるでしょう。
参考資料:
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