ベネッセ「進研ゼミ」完全デジタル化へ、AI活用で教育変革
はじめに
通信教育の代名詞「進研ゼミ」を展開するベネッセが、大きな変革に乗り出しています。2025年2月、ベネッセホールディングスは高校生向けの進研ゼミを完全デジタル化すると発表しました。AIを活用して対話を通じて理解を深める新サービスを開始し、2027年3月までに従来の紙教材併用型から完全移行します。
少子化と会員数減少に苦しむ中、2024年にMBOで非上場化したベネッセは、意思決定のスピードを上げて事業変革を進めています。教育のデジタルトランスフォーメーション(DX)に挑む老舗企業の戦略を解説します。
進研ゼミのデジタル化戦略
AI活用の新サービス開始
2025年3月3日、ベネッセは「難関合格 進研ゼミ √Route(ルート)」を開講しました。この新サービスはAIを活用し、対話形式で学習を進める仕組みを採用しています。
従来の「教材を読んで問題を解く」形式から、AIとの対話を通じて理解を深める形式へと転換。一人ひとりの理解度に合わせた個別最適化された学習が可能になります。
2027年までに完全移行
現在の「進研ゼミ高校講座」は、紙の教材とデジタル教材を併用する形式です。この従来型サービスは2027年3月号まで継続されますが、それ以降は新サービスに完全移行します。
約60年の歴史を持つ「赤ペン先生」に象徴される紙の添削指導から、AI時代の新しい学習スタイルへ。進研ゼミの大転換です。
大学受験に特化
新サービスは大学受験に特化した設計となっています。難関大学合格を目指す高校生向けに、AIによる学習分析と最適な学習プランの提示を行います。
志望校や現在の学力に応じて、必要な学習内容と量を自動的に調整。効率的な受験勉強をサポートします。
会員数減少の課題
止まらない減少傾向
進研ゼミは、会員数の減少に歯止めがかからない状況が続いています。少子化の影響に加え、2014年7月に発生した大規模な個人情報流出事件が会員数減少に拍車をかけました。
2016年4月時点でゼミ会員数は243万人にまで減少。その後も厳しい状況が続いています。
競合との戦い
通信教育市場では、スタディサプリなどの低価格動画学習サービスや、個別指導塾、オンライン家庭教師など、競合サービスが増加しています。「月額数百円で有名講師の授業が見放題」というサービスに対し、従来型の通信教育は価格面で不利な状況です。
また、学習アプリやYouTubeの教育コンテンツなど、無料で学べる選択肢も増えており、有料の通信教育の価値が問われています。
希望退職と組織改革
ベネッセは450人規模の希望退職を実施しました。事業環境の厳しさを反映した施策ですが、社内からは「強硬なリストラ」との指摘もあったと報じられています。
非上場化により、こうした大胆な組織改革が進めやすくなった面があります。
MBOと経営変革
2024年に非上場化
ベネッセホールディングスは、創業家と欧州系ファンドのEQTが組み、MBO(経営陣が参加する買収)を通じて2024年5月に非上場化しました。
上場廃止により、四半期ごとの業績開示プレッシャーから解放され、中長期的な視点での事業変革に取り組める体制を整えました。
意思決定のスピード向上
非上場化の最大のメリットは、意思決定のスピード向上です。株主への説明責任から解放され、大胆な投資や事業転換を迅速に行えるようになりました。
進研ゼミの完全デジタル化という大きな決断も、こうした環境変化が後押ししていると考えられます。
事業ポートフォリオの見直し
ベネッセは事業ポートフォリオの見直しも進めています。2025年3月には、生活情報メディア「サンキュ!」事業を売却しました。コア事業である教育に経営資源を集中する方針です。
教育事業の新展開
中学生向けフリースクール開校
2025年10月には、中学生向けフリースクール「ベネッセ高等学院 中等部」を開校予定です。不登校の中学生などを対象に、通学とオンラインを組み合わせた学びの場を提供します。
少子化が進む中、従来の通信教育だけでなく、多様な学びのニーズに応える事業展開を模索しています。
学校向け事業の継続
大学入試模擬試験「進研模試」や英語4技能検定「GTEC」など、学校向けの教育支援事業は引き続き強みです。全国の高校で広く採用されており、安定した収益基盤となっています。
進研模試のデータは、進研ゼミのAI学習にも活用され、シナジー効果を生み出しています。
まとめ
ベネッセは高校生向け「進研ゼミ」を2027年3月までに完全デジタル化します。AIを活用した新サービス「√Route」を開始し、対話形式で一人ひとりに最適化された学習を提供します。
少子化と会員数減少に苦しむ中、2024年のMBOによる非上場化を経て、事業変革を加速させています。約60年続いた紙の添削指導から、AI時代の新しい学習スタイルへ—老舗教育企業の大きな挑戦が始まっています。
教育のデジタルトランスフォーメーションが進む中、ベネッセがどのような価値を提供できるのか。今後の展開に注目が集まります。
参考資料:
関連記事
エヌビディアが描く100兆ドル市場:フィジカルAIの衝撃
CES 2026でジェンスン・ファンCEOが語った「100兆ドルのコンピューティング産業の再発明」とは。フィジカルAI時代の到来と、エヌビディアが仕掛ける産業変革を徹底解説します。
アルファベットが時価総額4兆ドル突破で世界2位に
Googleの持ち株会社アルファベットが時価総額4兆ドル(約630兆円)を達成し、「4兆ドルクラブ」入りを果たしました。AppleがGemini採用を発表したことで株価が上昇。AI投資への期待が高まっています。
TOEIC不正受験で早稲田大が入学取消、52人に処分
組織的なTOEIC不正受験事件を受け、早稲田大学が大学院生5人の入学取消を発表。替え玉受験やスパイ機器を使った手口、約800人のスコア無効化に至った経緯と対策を解説します。
NVIDIAファンCEOが創る新時代のAI資本主義とは
AI時代を牽引するNVIDIAのジェンスン・ファンCEOの経営哲学と慈善活動を分析。120億ドル規模の財団や独自の経営スタイルから見える、テック経営者が描く新しい資本主義の形を解説します。
アルファベットが時価総額4兆ドル到達、AI競争で存在感
グーグル親会社アルファベットが時価総額4兆ドルに到達し、4社目の「4兆ドルクラブ」入り。アップルとのAI提携が株価を押し上げた背景と、AI競争における各社の動向を解説します。
最新ニュース
南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦
探査船「ちきゅう」が南鳥島沖でレアアース泥の試掘を開始。水深6000メートルからの世界初の採掘試験と、日本の経済安全保障における意義を解説します。
1年4カ月で国政選挙3回、頻繁な選挙が招く政策停滞
高市首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討。国政選挙が短期間に3回目となり、社会保障改革など長期的視点の政策が後回しになる懸念が高まっています。
第174回芥川賞・直木賞が決定、3氏が受賞の栄誉
第174回芥川賞に鳥山まこと氏「時の家」と畠山丑雄氏「叫び」、直木賞に嶋津輝氏「カフェーの帰り道」が決定。前回の両賞該当なしから一転、充実の受賞作が揃いました。受賞作の魅力と作家の経歴を詳しく解説します。
日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
証券取引APIを提供するフィンテック企業アルパカが企業価値10億ドルを突破。日本人だけで創業した新興企業として米国初のユニコーン達成の背景を解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。