キャットフード5年で6割高、ペット市場のインフレ加速
はじめに
ペットを飼う家庭にとって、見過ごせない物価上昇が続いています。総務省が発表した2026年1月の消費者物価指数(CPI)によると、キャットフードの価格は5年間で55.6%上昇しました。ドッグフードも35.3%の上昇です。
一方、コメや肉、野菜、加工食品など人間が口にする食料の上昇率は約3割にとどまっています。つまり、ペットフードは「人間の食べ物よりもインフレが激しい」という状況が鮮明になっているのです。
本記事では、ペットフード価格高騰の背景、飼い主への影響、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
ペットフード価格高騰の実態
CPIが示す驚きの上昇率
消費者物価指数(2020年=100)でペットフードの推移を見ると、価格上昇の激しさが一目瞭然です。キャットフードは5年間で55.6%、ドッグフードは35.3%という上昇率は、食品全体の約30%を大きく上回っています。
特にキャットフードの上昇が顕著な背景には、猫用フードに使われる魚介類の価格高騰があります。世界的な水産資源の需要増加と漁獲量の変動が、原材料コストを押し上げています。
2024年時点でキャットフードのCPI年次指数は前年比6.0%増の124.5を記録し、1995年以降で最大の伸びとなりました。その後も上昇トレンドは加速しており、2026年1月時点で5年前と比べ約6割高という水準に達しています。
ペット美容院代も上昇傾向
価格上昇はフードだけにとどまりません。ペット美容院(トリミングサロン)の料金も上昇が続いています。2025年8月時点の全国平均価格は7,318円で、コロナ禍前と比較して約13%上昇しました。
人件費の高騰やテナント賃料の上昇に加え、「ペットの家族化」に伴う高品質サービスへの需要増が価格を押し上げる要因となっています。
価格高騰の3つの要因
原材料費の世界的な高騰
ペットフードの原材料となる穀物(小麦、大麦、トウモロコシ、大豆)の価格が国際市場で高騰しています。穀物価格の上昇は家畜の飼料コストにも波及し、フードに使用される肉類(牛、豚、鶏)の価格も連鎖的に上昇しました。
異常気象による農作物の不作や、世界的な食料需要の拡大が根本的な原因です。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻以降の穀物市場の混乱も長期的な影響を及ぼし続けています。
物流コストと円安の二重負荷
原油価格の高騰は輸送コストを直接的に押し上げます。特に2026年3月現在、中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡の封鎖リスクが、エネルギーコストのさらなる上昇要因となっています。
加えて、円安の進行も大きな負担です。海外から原材料を輸入するペットフードメーカーにとって、円建ての調達コストは二重に膨らんでいます。実際、2025年に入ってからK9ナチュラルやBritプレミアムなど海外ブランドが相次いで価格改定を実施しています。
プレミアム志向と「ペットの家族化」
ペットフード市場では、高品質・高単価な商品へのシフトが進んでいます。「ヒューマングレード」と呼ばれる人間の食品レベルの品質基準を満たすフードが注目を集めており、これが市場全体の単価を押し上げています。
背景にあるのは「ペットの家族化」という消費行動の変化です。少子高齢化が進む日本では、ペットを家族の一員として大切にする飼い主が増え、健康志向の高品質フードやオーガニック製品への需要が拡大しています。
約2兆円に迫るペット関連市場
飼育頭数の現状
2025年の調査によると、日本国内の犬の飼育頭数は約682万頭、猫は約884.7万頭で、合計約1567万頭にのぼります。犬は減少傾向にある一方、猫は横ばいを維持しています。
注目すべきは、ペットの総数が15歳未満の子どもの数(約1400万人)を上回っている点です。これはペット市場が「ニッチ産業」ではなく、日本の消費経済において無視できない規模であることを示しています。
市場規模は拡大基調
矢野経済研究所の調査によると、2025年度のペット関連市場規模は小売金額ベースで前年度比100.8%の1兆9,257億円と予測されています。コロナ禍の2020年には在宅需要の高まりから前年比1,200億円の大幅増を記録し、その後も成長基調が続いています。
2022年度以降は原材料・資材コストの高騰を受けたメーカー各社の値上げにより、ペットフード市場は2023年に二桁成長を達成しました。ただし、これは販売数量の伸びよりも価格転嫁による面が大きく、飼い主の負担増という側面も見逃せません。
注意点・展望
飼い主の家計への影響
ペットフードの価格上昇は、飼い主にとって避けられない固定費の増加を意味します。調査では、ペット飼育の阻害要因として「世話をするのにお金がかかる」と回答する割合が、特に20代・30代で高い傾向にあります。
今後もフードの値上げが続けば、新規にペットを飼い始める人が減少したり、安価なフードへの乗り換えが進んだりする可能性があります。ペットの健康管理の観点からは、極端なコスト削減が望ましくないことも注意すべき点です。
今後の価格見通し
2026年3月現在、中東情勢の緊迫化による原油価格の上昇や、米国のトランプ関税による国際貿易への影響など、ペットフード価格をさらに押し上げる要因が複数存在します。
短期的には価格の下落は見込みにくい状況です。ただし、円相場の動向や原材料市場の安定化が進めば、上昇ペースが鈍化する可能性はあります。飼い主としては、まとめ買いによるコスト抑制や、適切な品質のフードを選ぶ目を養うことが重要です。
まとめ
キャットフードの5年間で55.6%という価格上昇は、人間の食品を上回るペット市場特有のインフレを象徴しています。原材料費の世界的な高騰、物流コストの増加、そして「ペットの家族化」に伴うプレミアム志向の3つが複合的に作用した結果です。
約2兆円規模に迫るペット関連市場は、日本の消費経済において重要な位置を占めています。飼い主にとっては、価格動向を注視しつつ、ペットの健康と家計のバランスを取ることが求められる時代です。今後の原油価格や為替動向にも引き続き注目が必要です。
参考資料:
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