新秩父宮ラグビー場、命名権100億円でSMBCオリーブスクエアに
はじめに
東京・明治神宮外苑で2030年に開業予定の新秩父宮ラグビー場の副名称が「SMBC Olive SQUARE(SMBCオリーブスクエア)」に決定しました。整備・運営事業者の鹿島や三井不動産などが2026年2月12日に発表したもので、三井住友フィナンシャルグループ(FG)とネーミングライツ(命名権)を含むトップパートナー契約を締結しています。
契約は開業から10年間で、総額100億円規模です。2026年1月に国立競技場が「MUFGスタジアム」となったのに続き、日本のスポーツ施設における大型命名権ビジネスが本格化しています。
新秩父宮ラグビー場の概要
神宮外苑再開発の中核施設
新秩父宮ラグビー場は、総事業費3,490億円に上る神宮外苑地区再開発の中核施設の一つです。この再開発は、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事、三井不動産の4者が2019年に基本協定を締結して始動しました。
再開発の大きな特徴は、現在の神宮球場と秩父宮ラグビー場の位置を入れ替えて再整備する点にあります。新ラグビー場は現在の神宮球場(明治神宮野球場)の跡地に建設されます。2023年3月の明治神宮第二球場の解体工事着工を皮切りに各施設の整備が順次進められており、再開発全体の完成は2038年を予定しています。
新秩父宮ラグビー場の整備・運営は「Scrum for 新秩父宮」というコンソーシアムが担当し、鹿島建設や三井不動産などが参画しています。
多目的施設としての設計
新ラグビー場は、単なるラグビー専用スタジアムではなく、多目的施設として設計されています。収容人数はラグビー開催時が約1万5,547人、コンサートなどのイベント開催時には約2万547人を収容できる設計です。
ドーム型の構造を採用し、ラグビーの試合のほか、音楽コンサート、各種スポーツイベントなど幅広い用途に対応します。スポーツとエンターテインメントの融合を目指す新時代のスタジアムとして、年間を通じた稼働率の向上が期待されています。
命名権契約の詳細と戦略的意図
10年100億円のトップパートナー契約
三井住友FGが取得したのは、単なる命名権にとどまりません。施設全体の活性化に関わる最上位スポンサーとしての「トップパートナー契約」です。副名称の「SMBC Olive SQUARE」は、三井住友FGの総合金融サービス「Olive」のブランドと、人々が集う広場を意味する「SQUARE」を組み合わせたものです。
「秩父宮ラグビー場」という正式名称はそのまま残り、「SMBC Olive SQUARE」は副名称として使用されます。ラグビーファンにとって「秩父宮」は特別な響きを持つ聖地であり、正式名称の維持は重要な配慮といえます。
Oliveブランドの認知拡大戦略
三井住友FGがこの命名権に100億円を投じる背景には、2023年3月にサービスを開始した個人向け総合金融サービス「Olive」のブランド認知拡大という戦略的意図があります。Oliveは銀行口座、クレジットカード、証券、保険などを一つのアプリで管理できるサービスで、三井住友FGのリテール戦略の柱です。
具体的な施策として、入場ゲートやVIPラウンジへのブランド名の掲出、施設内の飲食・物販施設でのキャッシュレス決済の推進、Oliveユーザー向けの特別サービスやVポイント特典の提供、先端映像・通信技術を活用した新たな観戦体験の導入が計画されています。
三井住友FGの中島達社長は「SMBCグループとOliveブランドの両方の価値向上を図り、事業強化に貢献する」と述べており、スポーツ施設を通じた顧客接点の拡大を重視しています。
加速するスポーツ施設の命名権ビジネス
国立競技場に続く大型契約
日本のスポーツ施設における命名権ビジネスは、新たな段階に入っています。2025年10月には三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が国立競技場の呼称を「MUFGスタジアム」とする契約を締結しました。こちらは2026年1月から5年間で約100億円規模です。
国内の命名権契約は、従来は単年で10億円未満が相場でした。味の素スタジアムや日産スタジアムなど定着した事例はあるものの、契約金額は比較的小規模なものが中心でした。国立競技場と新秩父宮ラグビー場で相次いで100億円規模の契約が成立したことは、日本のスポーツビジネスにおける大きな転換点です。
メガバンクのスポーツマーケティング競争
興味深いのは、国立競技場がMUFG、新秩父宮ラグビー場がSMBCと、日本の2大メガバンクグループが相次いでスポーツ施設の命名権を取得している点です。いずれも個人向けサービスのブランド認知拡大を重要な目的としており、メガバンク間のスポーツマーケティング競争が激化しています。
スポーツ施設の命名権は、テレビ中継やSNSを通じて繰り返しブランド名が露出するため、広告効果が高いとされています。年間数百万人が訪れる施設での直接的な顧客体験も提供でき、従来の広告手法にはない価値があります。
注意点・今後の展望
新秩父宮ラグビー場の開業は2030年予定であり、命名権の効果が本格的に発揮されるまでにはまだ時間があります。ただし、建設段階からブランド名が報道されることで、開業前から認知が広がるメリットがあります。
一方で、神宮外苑の再開発を巡っては、樹木の伐採や歴史的景観の変容を懸念する声も根強くあります。「秩父宮ラグビー場も神宮球場も壊す必要はない」との反対意見もあり、建築家グループが見直しを求める声明を出すなど、社会的な議論は続いています。再開発全体の完成は2038年と長期にわたるため、計画の進捗や社会情勢の変化にも注意が必要です。
また、「SMBCオリーブスクエア」という名称に対しては、「発音しにくい」「覚えにくい」といった声も予想されます。味の素スタジアムのように定着するまでには時間がかかる可能性がありますが、10年という長期契約の中で浸透が図られるでしょう。
まとめ
新秩父宮ラグビー場の副名称「SMBC Olive SQUARE」の決定は、日本のスポーツ施設における命名権ビジネスの新時代を象徴しています。三井住友FGが10年100億円という大型契約を結んだ背景には、Oliveブランドの認知拡大とスポーツを通じた顧客接点の拡大という明確な戦略があります。
国立競技場の「MUFGスタジアム」と合わせ、メガバンクによるスポーツマーケティング競争が活発化する中、2030年の開業に向けてラグビーの聖地がどのように生まれ変わるか、注目が集まります。
参考資料:
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