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by nicoxz

長生炭鉱の遺骨捜索中に台湾人ダイバーが死亡

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はじめに

2026年2月7日、山口県宇部市の海底炭鉱「長生炭鉱」で遺骨収容のための潜水調査中に、台湾人の男性ダイバー(57歳)が死亡する事故が起きました。長生炭鉱は1942年に水没事故が発生し、朝鮮半島出身者136人を含む183人が命を落とした歴史的な現場です。

この日は事故から84年目の追悼式典が跡地近くで開催されていたまさにその日の出来事でした。遺骨の収容と遺族への返還を求める市民活動が長年続けられてきた中で、新たな犠牲者が出たことに関係者は大きな衝撃を受けています。

潜水調査中に何が起きたのか

ダイバーの死亡事故の経緯

2月7日正午過ぎ、潜水調査中の関係者から「ダイバー1人が潜水中に倒れた」と119番通報がありました。死亡したのは台湾からボランティアで参加した魏修さん(57歳)で、海中でけいれんを起こしたとされています。病院に搬送されましたが、午後2時ごろに死亡が確認されました。

魏さんはケーブダイビング(洞窟潜水)の経験を持つベテランダイバーでしたが、長生炭鉱での潜水はこの日が初めてでした。海底炭鉱の坑道内は視界がほぼゼロの環境で、通常のダイビングとは比較にならない危険が伴います。

第7回潜水調査の成果と中止

今回の潜水調査は2月3日に開始された第7回目の調査でした。6日からは海外からのボランティアダイバーも加わり、調査が本格化していました。6日には約300メートル沖の排気・排水用の円筒構造物「ピーヤ」から旧坑道に入り、靴や手袋を着用したほぼ全身の骨を発見しています。

DNA型鑑定に活用するため、金歯が残る頭蓋骨と下顎、首の骨とみられる計5点が収容されました。2025年8月の調査に続く重要な成果でしたが、今回の死亡事故を受けて、11日まで予定されていた調査は中止が決定されました。

長生炭鉱水没事故とは

1942年2月3日の悲劇

長生炭鉱は山口県宇部市の床波海岸沖に位置する海底炭鉱です。1942年2月3日、陸上の坑口から約1.1キロメートル沖合の海底坑道で天盤(天井部分)が崩落し、坑内に海水が一気に流入しました。当時坑内にいた183人の労働者全員が溺死または生き埋めとなり、犠牲者のうち136人(約74%)が朝鮮半島出身の労働者でした。

事故の直接的な原因は、安全基準を無視した採掘です。本来、海底炭鉱では海底から47メートル以上の深さで採掘する必要がありましたが、長生炭鉱では最深部が37メートルという違法な状態で操業が続けられていました。太平洋戦争による石炭増産の圧力が無理な採掘を加速させたとされています。

朝鮮人労働者の割合が高かった背景

事故以前から坑内には漏水が発生しており、日本人労働者の間では長生炭鉱での就労を避ける動きがありました。そのため、朝鮮半島から動員された労働者が多数配置されていたと証言が残っています。犠牲者の7割以上を朝鮮半島出身者が占めるという構成は、当時の炭鉱における労働環境の実態を物語っています。

戦時下の情報統制と忘れられた事故

183人もの犠牲者を出す大惨事でしたが、太平洋戦争開戦直後という時期に発生したため、厳しい情報統制が敷かれました。1945年に長生炭鉱は閉山しましたが、犠牲者の遺骨は80年以上にわたって海底に放置されたままとなっています。

遺骨収容と追悼の取り組み

「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の活動

1991年に発足した市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」は、この事故の歴史的記録と遺骨返還を求めて30年以上活動を続けてきました。1992年以降は毎年追悼集会を開催し、韓国の遺族も招いてきました。

団体はクラウドファンディングなどを通じて資金を集め、民間主導で潜水調査を実施しています。これまでに複数回の調査で人骨や遺品が発見されており、2025年8月の調査でも遺骨が収容されています。日本政府に対しては、国の責任として遺骨の収容と遺族への返還を求めていますが、政府側は「安全性の懸念」を理由に直接的な関与には消極的な姿勢を続けています。

追悼式典と日韓の動き

事故から84年目にあたる2月7日には、跡地近くで追悼式典が開催され、日韓の遺族や国会議員が参列しました。2026年1月には日韓首脳会談において、両国が犠牲者のDNA型鑑定に協力することで合意したと報じられており、政府レベルでの対応にも変化の兆しが見られます。

注意点・展望

今回のダイバー死亡事故は、遺骨収容活動が抱える危険性を改めて浮き彫りにしました。海底炭鉱の坑道内は視界がほとんど確保できず、崩落の危険もあるきわめて過酷な環境です。ボランティアの善意と勇気に支えられてきた活動ですが、安全管理体制の再検討が不可避となっています。

一方で、政府による公的な遺骨収容事業の実施を求める声は一段と高まることが予想されます。民間のボランティアに頼り続けることの限界が、今回の悲劇によって明確になったためです。

日韓間でのDNA鑑定協力の合意を踏まえ、今後は政府主導での安全な調査体制の構築と、遺骨の収容・返還に向けた具体的な行動が求められています。

まとめ

山口県宇部市の長生炭鉱で、遺骨収容の潜水調査中に台湾人ボランティアダイバーが亡くなりました。84年前の水没事故で犠牲となった183人の遺骨を返還するための活動中に、新たな命が失われたことは痛恨の出来事です。

調査の中止が決まる一方、前日には新たな遺骨の発見もありました。民間主導の活動が成果を上げてきたことは事実ですが、今後は政府の責任ある関与のもとで、安全に遺骨の収容を進める体制が求められます。歴史に向き合い、遺族の願いに応えるための取り組みは、これからも続いていきます。

参考資料:

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