クリーニング店が直面する値上げと需要減の二重苦、業態改革の行方
はじめに
クリーニング代の値上げが止まりません。総務省の消費者物価指数によると、背広上下のドライクリーニング代は2025年1月時点で2020年比119.5と、約2割上昇しています。東京や大阪などの都市部では、スーツ上下のクリーニングに1,500円から2,000円かかるのが一般的になりました。
しかし、値上げしても経営が楽になるわけではありません。新型コロナウイルス禍以降の生活変化でクリーニング需要は大きく落ち込み、多くの店舗が「コスト高」と「需要減」という二重苦に直面しています。
本記事では、クリーニング業界の構造的な課題と、それを打破しようとする新たな動きについて解説します。
値上げが止まらない3つの要因
燃料・資材価格の高騰
クリーニング店の経営を圧迫している最大の要因が、燃料と資材の価格高騰です。衣類の乾燥やプレスに使うボイラーの燃油代、ドライクリーニング用の溶剤、ハンガーや包装用ビニールなど、業務に必要なあらゆる資材の価格が上昇しています。
特にボイラー燃料は、クリーニング店のコスト構造において大きな割合を占めます。エネルギー価格の高止まりは、営業するだけでコストがかさむ状況を生み出しています。
人件費の上昇
最低賃金の引き上げや人手不足の深刻化も、コスト増の要因です。クリーニング業は手作業が多く、衣類の仕分け、シミ抜き、仕上げのアイロンがけなど、機械化が難しい工程が少なくありません。
熟練した技術者の高齢化と後継者不足も重なり、人件費の上昇を価格に転嫁せざるを得ない状況が続いています。
値上げの限界
問題は、値上げには明確な限界があることです。「ワイシャツで200円を超えたあたりから客足が鈍くなった」という声が業界内から上がっています。コスト上昇分をそのまま価格に反映すれば、顧客離れが加速するというジレンマに多くの店舗が陥っています。
帝国データバンクの調査によると、2024年度のクリーニング業者の業績では「減益」が3割超、「赤字」が2割を占め、全体の半数以上が業績悪化という厳しい結果でした。多くの店舗が「増収減益」、つまり値上げしても利益が出ない状態にあります。
コロナ後に戻らないクリーニング需要
テレワークとカジュアル化の影響
クリーニング業界の苦境は、実はコロナ禍以前から始まっていました。市場規模はピーク時から半減しているとの指摘があります。コロナ禍がこの流れを決定的に加速させました。
テレワークの普及により、スーツやワイシャツを着る機会が大幅に減少しました。オフィスに出勤する場合でも、ビジネスカジュアルやクールビズの定着により、クリーニングが必要なフォーマルウェアの着用頻度は低下しています。
家庭用洗濯機の高機能化
高機能な家庭用洗濯機の普及も、クリーニング店の需要を奪っています。家庭でも「おしゃれ着洗い」や「ドライコース」が標準装備となり、以前ならクリーニング店に出していた衣類を自宅で洗う消費者が増えています。
さらに、水洗いできるスーツや形状記憶シャツなど、衣類そのものの高機能化も進んでおり、クリーニングの必要性自体が低下しています。
店舗数は7万軒割れ
こうした需要の減退を反映して、全国のクリーニング施設数は2024年度に69,855軒となり、7万軒を割り込みました。2025年1月から9月の間だけでも、倒産18件、休廃業・解散34件の合計52件が市場から退出しています。
これはコロナ禍後に需要が戻らず「あきらめ廃業」が増加した2023年(通年53件)に並ぶ高水準で、2025年通年では過去最多を更新する可能性があります。
業態改革に挑む業界の動き
宅配クリーニングの急成長
構造的な課題に対して、新たなビジネスモデルで打開を図る動きが出ています。その代表が宅配クリーニングです。スマートフォンのアプリで注文し、自宅まで集荷・配達してもらえるサービスは、特に20〜30代のビジネスパーソンを中心に利用が急拡大しています。
宅配専門のクリーニング事業者の市場規模は2025年までに2,000億円規模に成長する見込みです。店舗を持たない分、固定費を抑えられるメリットがあり、深夜でも注文が可能という利便性も支持されています。
サブスクリプションモデルの導入
月額定額制のサブスクリプションモデルを導入する事業者も増えています。一定の料金を払えば月に何回でもクリーニングに出せるというサービスは、利用頻度の高い顧客にとって割安感があり、店舗側にとっても安定した収入源となります。
大手アパレルチェーン5社が自社ECサイトでクリーニングサービスを開始するなど、異業種からの参入も活発化しています。衣類の販売からメンテナンスまでを一気通貫で提供するビジネスモデルは、従来のクリーニング店の枠を超えた競争を生み出しています。
デジタル化とM&Aの動き
業界のデジタル化も急速に進んでいます。オンライン予約システムの導入やAIを活用した品質管理など、テクノロジーを活用した効率化の取り組みが広がっています。
また、経営難に陥った中小クリーニング店を大手が買収するM&Aも増加傾向にあります。後継者不足という業界共通の課題を背景に、事業承継型のM&Aが進むことで、業界の再編・集約が加速しています。
注意点・展望
リネンサプライなど法人向け市場の可能性
個人向けの需要が縮小する中、ホテルや飲食店向けのリネンサプライ事業に活路を見出す動きもあります。インバウンド需要の回復に伴い、宿泊施設のシーツやタオルのクリーニング需要は堅調です。
ただし、法人向け事業は設備投資が大きく、中小の個人店が簡単に参入できる分野ではありません。業界全体として、どのセグメントで成長を目指すかの戦略的な選択が求められています。
消費者にとっての選択肢の変化
消費者にとっては、従来の店舗型クリーニングに加えて、宅配クリーニング、コインランドリー、家庭用高機能洗濯機という選択肢が増えています。料金だけでなく、利便性や仕上がりの品質を比較しながら、用途に応じて使い分ける時代に入っています。
まとめ
クリーニング業界は、資材高と需要減少という構造的な課題に直面しています。値上げだけでは経営改善が難しく、半数以上の事業者が業績悪化に陥っている現状です。店舗数は7万軒を割り込み、廃業は過去最多ペースで推移しています。
一方で、宅配クリーニングやサブスクリプション型サービスなど、新たなビジネスモデルによる業態改革の動きも活発化しています。従来の店舗を通じた洗濯サービスだけに頼らない、多角的な事業展開が生き残りの鍵となるでしょう。
参考資料:
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