ダイキン70歳超社員85人が現役、AI時代のシニア活用戦略
はじめに
日本の労働人口が減少を続けるなか、企業における高齢者雇用のあり方が改めて注目されています。2025年4月には改正高年齢者雇用安定法の経過措置が終了し、65歳までの雇用確保が完全義務化されました。そうしたなか、空調大手のダイキン工業では70歳以上の社員が85人も契約社員として現役で働いています。AI技術が急速に進化するなかで、「AIには代替できないセンス」を持つシニア人材をいかに活かすか。同社の取り組みは、日本企業の人材戦略に重要な示唆を与えています。
ダイキン工業のシニア雇用制度の全体像
段階的に整備されてきた雇用体制
ダイキン工業は、シニア人材の雇用において長い歴史を持つ企業です。1979年に定年を56歳から60歳に引き上げ、1991年には63歳までの再雇用制度を導入しました。2001年にはこれを65歳まで拡大し、さらに2002年には「シニアスキルスペシャリスト契約社員制度」を創設して、65歳以降も不可欠な人材の活躍を可能にしました。
そして2024年4月には、定年年齢を60歳から65歳へ引き上げるという大きな改定を実施しています。現在の雇用体制は、65歳までは正社員、65歳から70歳までは本人希望による再雇用、70歳以降は会社が選定するシニアスキルスペシャリスト契約社員という三段階の構成です。
人員整理を回避してきた企業文化
ダイキンの特徴的な点は、人員整理を極力回避してきた企業文化にあります。バブル崩壊後やリーマンショック時にも大規模なリストラを行わず、人材を守り抜く姿勢を貫いてきました。こうした「人を基軸におく経営」の理念が、シニア社員の活用を自然なものにしている背景です。同社は2033年には60歳以上の社員が全体の21%に達すると予測しており、ベテラン人材の活性化を経営課題として明確に位置づけています。
AIには代替できない「現場のセンス」
熟練技能が求められる領域
ダイキンがシニア人材に期待するのは、AIやデジタル技術では代替が難しい領域での貢献です。同社の社内調査では、シニア人材が特に活躍できる分野として9つの領域が特定されています。具体的には、国内で培った技術・スキルの海外での実践・指導、後進へのスキル・ノウハウの伝承、そして長年の経験に基づく営業・設計のセンスなどです。
業務用エアコンの設計や営業支援の現場では、設計図だけでは伝わらない「勘どころ」や、顧客との長年の信頼関係に基づく提案力が求められます。こうしたスキルは、膨大なデータを処理するAIであっても容易には再現できません。
AI人材育成との両立
一方でダイキンは、AI活用にも積極的に取り組んでいます。2017年に開講した「ダイキン情報技術大学(DICT)」では、毎年80〜100名の技術系新入社員を2年間かけてDX人材として育成しています。2023年度末までに累計1,500名の育成を達成し、2025年度末には2,000名を目標としています。
重要なのは、AI人材の育成とシニア人材の活用を対立的に捉えていない点です。AIが得意とするデータ分析や自動化の領域と、人間にしかできない経験知や対人スキルの領域を明確に区分し、それぞれを最大限に活かす戦略を採用しています。
日本の高齢者雇用をめぐる制度と課題
法制度の変化
2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法では、70歳までの就業機会確保が努力義務として定められました。さらに2025年4月には、65歳までの雇用確保に関する経過措置が終了し、企業には定年引き上げ、継続雇用制度の導入、定年制廃止のいずれかが完全に義務化されています。
こうした制度改正を受け、多くの企業が高齢者雇用の見直しを迫られています。しかし、制度を整えるだけでなく、シニア社員のモチベーションを維持し、実質的な戦力として活躍してもらう仕組みづくりが真の課題です。
ダイキンの処遇面での工夫
ダイキンでは、60歳以降の社員に対して一律の賃金引き下げを行っていません。評価に基づき昇格・昇給も可能としている点が、他社との大きな違いです。年齢ではなく能力と貢献で処遇を決める仕組みが、シニア社員の意欲維持に直結しています。
注意点・展望
シニア人材の活用には課題もあります。健康管理やワークライフバランスへの配慮、世代間のコミュニケーションギャップへの対応、そして急速に変化するデジタル環境への適応支援などが挙げられます。
また、70歳以上の雇用は「会社選択」である点にも注意が必要です。すべての社員が対象となるわけではなく、特に専門性の高いスキルを持つ人材が選ばれる仕組みです。企業にとっては、社員が長いキャリアを通じて専門性を高め続けられるような育成体制を、早い段階から構築することが求められます。
今後、少子高齢化がさらに進むなかで、70歳以上の雇用は「特別なこと」ではなくなっていくでしょう。ダイキンの事例は、AI時代においても人間の経験知が不可欠であることを示す先進モデルとして、多くの企業の参考になるはずです。
まとめ
ダイキン工業は、70歳以上の社員85人を含むシニア人材の活用で、日本の高齢者雇用の先頭を走っています。「人を基軸におく経営」という企業理念のもと、AI人材の育成とシニア人材の活用を両輪で進める同社の戦略は、労働力不足に直面する多くの日本企業にとって重要なモデルケースです。年齢ではなく能力で処遇し、AIと人間がそれぞれの強みを発揮する環境づくりが、これからの企業の競争力を左右するでしょう。
参考資料:
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