ダイキン70歳超も現役85人、AI時代のシニア活用戦略
はじめに
大手製造業の間で早期退職による人員削減が相次ぐ中、空調メーカーのダイキン工業が独自路線を歩んでいます。同社では70歳を超えてもなお85人が契約社員として現役で働いており、「AIには代替できない」営業や設計のセンスを持つシニア人材を積極的に活用しています。
日本では2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業確保が企業の努力義務となりました。しかし、法律の義務化以前からシニア雇用に積極的に取り組んできたダイキンの姿勢は、人手不足が深刻化する日本の製造業にとって重要な示唆を含んでいます。
ダイキンのシニア人材活用の実態
業界に逆行する雇用方針
多くの大手製造業が若返りを図る中、ダイキン工業は創業家が掲げた「人員整理を避ける」という方針を継承しています。離職率は約3%と業界では極めて低い水準を維持しており、「人を基軸に置く経営」を実践してきました。
同社の65歳以上の契約社員は全体で約135人にのぼり、そのうち65〜69歳が約115人、70歳を超える社員が約85人という構成です。原則として70歳を雇用上限年齢としていますが、「この人にまだ働いてもらわないと会社として困る」というケースでは、所属部署からの申請に基づき、人事部が検討のうえ雇用継続を決定しています。
再雇用制度の段階的拡充
ダイキンのシニア雇用の歴史は長く、2001年には早くも定年を65歳に引き上げました。その後、2021年4月からは希望者全員を70歳まで再雇用する制度に拡充。2023年11月には人事・処遇制度の見直しも実施し、シニア社員がモチベーションを維持して働ける環境整備を進めてきました。
報酬面では、賞与に4段階の評価制度を導入しています。標準的な評価に比べて最大6割多い金額を受け取れる仕組みで、成果を上げたシニア社員にしっかりと報いる体制です。年収は55歳時点の約7割の水準とされていますが、成果次第ではそれを上回る収入も可能です。
AIに代替できないシニアの強み
営業・設計のセンスと暗黙知
ダイキンがシニア人材に期待するのは、AIでは代替困難な「営業のセンス」と「設計のセンス」です。空調設備は建物の構造や用途、立地環境によって最適な提案が大きく異なります。数十年にわたる経験で培われた顧客との関係構築力、現場で培った設備設計のノウハウは、マニュアル化やデータベース化が難しい「暗黙知」の領域です。
特に業務用空調では、顧客企業の経営者や設備担当者との長年の信頼関係が受注につながるケースが多く、ベテラン営業担当者の人脈は企業にとってかけがえのない資産です。
業績を支えるシニアの貢献
ダイキンの業績は好調を維持しています。2025年3月期の売上高は前期比8.1%増の約4兆7,523億円、営業利益は同2.4%増の約4,017億円を記録しました。2026年3月期も売上高4兆8,400億円、営業利益4,350億円と、5年連続で過去最高を更新する見通しです。
データセンターや工場向けの業務用大型空調の需要拡大がけん引していますが、こうした大型案件の受注には、まさにベテラン社員の技術力と営業力が不可欠です。シニア人材の活用と好業績の間には、明確な相関関係が見て取れます。
日本企業全体への示唆
人手不足時代の現実
リクルートワークス研究所の推計によれば、2040年には日本で約1,100万人の人手不足が発生するとされています。少子高齢化が加速する中、シニア人材の戦力化は企業にとって選択肢ではなく、必須の経営課題になりつつあります。
改正高年齢者雇用安定法では、70歳までの就業確保措置として、定年の引上げ、定年制の廃止、継続雇用制度の導入、業務委託契約の締結など5つの選択肢が示されています。しかし、制度の整備だけでは不十分で、シニア社員が能力を発揮できる仕組みと文化が必要です。
早期退職との対比
多くの企業が40〜50代を対象とした早期退職制度で組織の若返りを図る一方、ダイキンはあえてベテラン人材を手放さない戦略を取っています。短期的なコスト削減よりも、長期的な知識と技能の継承を重視するこの方針は、AI時代においてむしろ競争優位の源泉となっています。
注意点・展望
ダイキンのシニア活用モデルは優れた実績を示していますが、すべての企業がそのまま適用できるわけではありません。空調業界のように専門性が高く、顧客との長期的関係が重要な業種ではシニアの強みが発揮されやすい一方、技術変化の激しいIT業界などでは異なるアプローチが必要でしょう。
また、トランプ政権の関税政策の影響で、ダイキンは営業利益ベースで約470億円のマイナス要因を織り込んでいます。海外事業を取り巻く不透明感の中で、国内のベテラン人材による技術力と提案力をどこまで武器にできるかが、今後の課題となります。
まとめ
ダイキン工業の70歳超シニア社員の活躍は、AI時代における人材戦略のあり方に重要な問いを投げかけています。テクノロジーが急速に進化する中でも、人間にしかできない営業センスや設計の暗黙知は企業の競争力を支える重要な要素です。
人手不足が加速する日本において、シニア人材を「コスト」ではなく「資産」として捉え直すダイキンの姿勢は、多くの企業にとって参考になる経営モデルです。
参考資料:
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