ダイヤモンド取引22%減が映す世界景気、米中底入れの兆し
はじめに
ベルギーのアントワープは、宝飾用天然ダイヤモンドが世界各国から集まる有数の取引拠点です。約1,400の関連業者が集積するこの都市の取引データは、世界経済の「炭鉱のカナリア」として注目されています。
アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター(AWDC)によると、2025年のアントワープにおける原石や研磨済みダイヤの取引総額は191億ドル(約3兆円)で、前年比22%の減少となりました。一方で、2025年後半には底入れの兆候も見られ、米国の宝飾市場は5.6%の成長を記録しています。ダイヤモンド取引から見える世界景気の実態を解説します。
アントワープのダイヤモンド取引に見る下落トレンド
3年連続の減少、ピークから半減
アントワープのダイヤモンド取引総額は、コロナ禍後の回復で2022年に約410億ドルのピークに達しました。しかし、そこから3年連続で減少しています。2023年は325億ドル、2024年は245億ドル、そして2025年は191億ドルと、わずか3年でピーク時の半分以下にまで縮小しました。
取引の内訳を見ると、研磨済みダイヤモンドが全体の65.6%(125億ドル)を占め、原石は34%(64.8億ドル)でした。原石の取引量の減少は、世界的な鉱山生産の縮小を反映しています。
2025年後半に底入れの兆候
注目すべきは、下落の速度が2025年後半に明らかに鈍化した点です。2025年1〜6月の前年同期比は平均マイナス22.4%でしたが、7〜12月はマイナス8.3%にまで改善しました。AWDCのカレン・レントミースターズCEOは、この数字を底入れの兆候として慎重ながらも前向きに評価しています。
ダイヤモンドが映し出す各国の景気
米国市場:底入れから回復へ
世界最大のダイヤモンド消費国である米国の宝飾市場は、2025年に5.6%の成長を記録しました。消費者の購買行動には変化が見られ、購入点数は減少したものの、一点あたりの支出額は増加しています。これは、消費者が量より質を重視する傾向を示しており、高品質な天然ダイヤモンドにとっては好材料です。
米国経済全体としても、雇用市場の底堅さや消費者信頼感の改善が見られ、宝飾品を含む高額消費の下支えとなっています。
中国市場:長期低迷からの転換点
世界第2位のダイヤモンド消費市場である中国は、不動産市場の調整や景気減速の影響で、宝飾需要が大きく落ち込んでいました。天然ダイヤモンドの価格下落を招いた最大の要因の一つが、この中国市場の低迷です。
しかし、中国政府による景気刺激策の効果が徐々に浸透し始めており、2025年後半にはダイヤモンドの取引にも底入れの兆候が見え始めています。中国の消費者の購買意欲が本格的に回復すれば、世界のダイヤモンド市場全体に好影響を与えることが期待されます。
インド市場:活況が続く成長エンジン
インドはダイヤモンドの研磨加工で世界の約90%を担う加工大国であると同時に、消費市場としても急成長しています。中間層の拡大と若い人口構成がけん引し、宝飾品への需要は堅調に推移しています。
インドのグジャラート州スーラトを中心とする研磨産業は、世界のダイヤモンドサプライチェーンの要です。インド経済の好調さは、加工需要と消費需要の両面からダイヤモンド市場を支えています。
ラボグロウンダイヤモンドの台頭と天然ダイヤの苦境
合成ダイヤモンド市場が急拡大
天然ダイヤモンド市場を圧迫する最大の構造的要因が、ラボグロウンダイヤモンド(合成ダイヤモンド)の急速な普及です。合成ダイヤモンドは外観や物理特性が天然とほぼ同一でありながら、価格は天然の数分の一です。
合成ダイヤモンドの世界市場規模は2025年に約255億ドル、2026年には約273億ドルに達すると予測されています。特にアジア太平洋地域が市場の55%以上を占め、中国の河南省や山東省、インドのグジャラート州では、種結晶の合成から完成品ジュエリーまでを一貫して手がける垂直統合型事業が拡大しています。
天然ダイヤモンドの差別化戦略
こうした中、天然ダイヤモンド業界は「希少性」と「ストーリー性」を前面に打ち出す差別化戦略を強化しています。世界的な鉱山生産の縮小により、天然ダイヤモンドの新規供給は今後も減少する見通しで、長期的には希少価値が高まる可能性があります。
AWDCはベルギー政府に対し、ダイヤモンドセクターへの支援策を求める要請を行っており、ロシア産ダイヤモンドへの制裁によってアントワープから他の取引拠点に流出した取引を取り戻す施策の必要性を訴えています。
注意点・展望
2026年のダイヤモンド市場は、米中両国の景気動向に大きく左右されます。米国の宝飾市場が回復傾向を維持し、中国の消費が本格的に持ち直せば、天然ダイヤモンド市場の反転が期待できます。一方、ラボグロウンダイヤモンドとの競合は構造的な問題であり、短期的な解決は見込めません。
価格面では、2025年の1カラットあたりの指標価格(RAPI)が通年で約9.9%下落しており、2026年も価格が大きく動く展開は想定しにくいとの見方が広がっています。投資対象としてのダイヤモンドは、金(ゴールド)のような価格上昇は見込みにくく、宝飾品としての需要が市場を支える構図が続くでしょう。
まとめ
アントワープのダイヤモンド取引22%減という数字は、世界経済の不透明さとダイヤモンド市場の構造変化を如実に反映しています。一方で、2025年後半の底入れの兆候や米国市場の回復は、前向きなシグナルです。
ダイヤモンドは古くから景気の先行指標とされてきました。米中の底入れとインドの活況という3大市場の動向が、2026年以降のダイヤモンド市場と世界景気の行方を左右することになります。
参考資料:
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