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by nicoxz

浜岡原発データ不正が問う中部電力の安全文化と規制審査再建の条件

by nicoxz
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はじめに

中部電力の浜岡原子力発電所を巡る不正問題は、単なる審査資料のミスでは片づけられません。再稼働審査の前提となる基準地震動の策定で、会社が規制当局に説明していた方法とは異なるやり方でデータを選び、揺れを小さく見せていた疑いが浮上したからです。原子力規制委員会が審査を白紙とし、立ち入り検査に踏み切ったのは、それを安全文化の問題とみなしたためです。

しかも2026年3月31日に提出された報告書では、不適切な運用が遅くとも2012年ごろに始まり、2018年以降は社内で問題視する声が繰り返し上がっていたことが明らかになりました。長期間続いた不適切運用と、止められなかった組織の問題は何を意味するのか。本記事では、公開情報に基づいて整理します。

問題の核心と審査への影響

基準地震動を巡る不適切操作

今回の問題は、耐震設計の土台になる基準地震動の策定過程で起きました。中部電力は2026年1月5日、浜岡3号機と4号機の新規制基準適合性審査で、統計的グリーン関数法を使った地震動評価について、不適切な事案があったと公表しました。会見では、平均に近い波ではないものを代表波として意図的に選定し、地震動を過小評価していたことを確認したと説明しています。

この点が重いのは、地震国の原発審査で最も根幹に近いデータに関わるためです。中部電力は2024年時点の株主向け説明で、2023年9月の審査会合において基準地震動は「概ね妥当」との評価を受けたとしていました。つまり、審査は一定の前進局面にあったにもかかわらず、その前提となるデータ選定の信頼が崩れたことで、進捗そのものが無効化された形です。

規制委が「白紙」と判断した理由

原子力規制委員会の反応は極めて厳しいものでした。2026年1月7日の会合では、委員から「捏造や改ざんにあたる」との指摘が相次ぎ、山中委員長は審査をやり直す必要があるとの認識を示しました。ロイターを引用した報道では、規制委は審査停止で一致し、不許可判断もあり得るとしています。

1月14日には、規制委が原子炉等規制法に基づく報告徴収命令を正式に発出しました。要求内容は、事実関係と経緯だけでなく、直接原因、根本原因、第三者委員会の調査結果、類似事案の有無、再発防止策まで含みます。これは、個別の担当者の逸脱ではなく、会社全体の品質保証と安全文化の検証が必要だと判断されたことを意味します。

長期化した不適切運用と組織の病理

2012年開始、2018年以降の社内指摘

3月31日に提出された報告書を伝える報道によると、不適切な方法は遅くとも2012年ごろから始まっていました。中部電力は、20組の地震動から平均に最も近いものを代表波にすると説明していた一方、実際には地震動と代表波の組み合わせを多数作成し、その中から都合のよい1セットを選ぶやり方を続けていたとされます。

さらに重要なのは、2018年以降には社内で問題視する指摘が繰り返しあった点です。不正の存在を誰も知らなかったのではなく、疑問の声が上がっていたのに是正へつながらなかったことになります。共同通信系の報道では、内部通報が複数回寄せられていた可能性も示され、規制委の指摘まで十分な調査をしていなかったとされました。これでは技術判断の誤りというより、問題提起を吸い上げられない組織構造が問われます。

外部通報で発覚した統治不全

不正が表面化した直接の契機は外部通報でした。報道によれば、2025年2月の外部通報を受けて規制委が資料確認を進め、同年5月には中部電力へ指摘していました。それでも社内調査と公表は2026年1月までずれ込み、規制委は1月26日に中部電本店へ立ち入り検査を開始しました。

ここで見えてくるのは、社内の自浄作用よりも外圧が先に働いたという現実です。原発事業者に求められる安全文化とは、事故や不祥事が起きてから対応することではなく、疑義が出た段階で止め、開示し、検証する仕組みです。浜岡の件は、その基本動作が十分に機能していなかったことを示しています。

注意点・展望

現時点で注意すべきなのは、3月31日の報告書が事実関係と経緯の整理にとどまり、原因究明や再発防止策の本体は第三者委員会の調査待ちだという点です。テレビ朝日の報道でも、今回提出分には第三者委の原因調査や再発防止策は含まれていないとされています。したがって、社長会見で謝罪があっても、規制委が審査再開を判断する段階にはまだありません。

今後の焦点は三つあります。第一に、経営陣がどこまで不適切運用を把握していたのか。第二に、内部通報や社内指摘がなぜ是正につながらなかったのか。第三に、浜岡以外の審査・安全対策業務に同様の発想が入り込んでいないかです。規制委が全社的な検査を掲げているのは、この三点が未解明だからです。

浜岡の再稼働審査は、単に数カ月遅れるという話では済まない可能性があります。安全審査の信頼回復には、技術データの再提出以上に、組織として不都合な情報を扱う姿勢を立て直せるかどうかが問われます。

まとめ

中部電力の浜岡原発データ不正問題は、2012年ごろからの不適切運用、2018年以降の社内指摘、外部通報による発覚、そして規制委の審査白紙化という流れで、技術問題と統治問題が重なっていることを示しました。焦点は、どのデータが不適切だったかだけではありません。不適切なやり方が長く続いても止まらなかった組織のあり方そのものです。

原発の安全審査では、データの正しさと同じくらい、事業者が疑義をどう扱うかが重要です。中部電力が信頼を回復できるかは、報告書の提出そのものではなく、第三者委員会の調査を踏まえた組織改革と情報開示の徹底にかかっています。

参考資料:

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