浜岡原発の審査白紙、データ改ざんで再稼働遠のく
はじめに
2026年1月14日、原子力規制委員会は中部電力・浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の再稼働に向けた安全審査を白紙にすると正式決定しました。同原発では、地震の想定震動を過小評価するためのデータ不正が行われていたことが発覚しています。
この問題は、福島第一原発事故後に構築された新規制基準に基づく審査体制の信頼性を根底から揺るがすものです。本記事では、不正の内容と発覚の経緯、そして今後の原子力行政への影響について解説します。
不正の実態:基準地震動の改ざん
「代表波」の恣意的な選定
問題となったのは、原発の耐震設計の基準となる「基準地震動」の算出方法です。基準地震動とは、原発が想定すべき最大の地震の揺れのことで、これをもとに原発の耐震性が評価されます。
中部電力は2018年頃以降、規制委員会への説明とは異なる方法でデータを操作していました。本来のルールでは、条件が異なる20通りの揺れのパターン(波形)を1セットにし、平均値に最も近いものを「代表波」として採用することになっていました。
しかし実際には、中部電力にとって都合の良い小さな揺れの波を代表波として選び、それが「平均」に見えるように残り19組の波形も恣意的に選別していたのです。数千組の波形から意図的に選ぶことで、地震の想定を過小評価していた疑いがあります。
規制委員長「明らかな捏造」と厳しく批判
原子力規制委員会の山中伸介委員長は記者会見で「安全規制に対する暴挙。審査そのものをやり直す必要がある」と述べました。地震や津波の審査を担当する山岡耕春委員は「研究不正にたとえると、捏造や改ざんにあたる」と指摘し、「審査の前提を根底から覆す深刻な事案だ」と批判しています。
また、原発設備の審査を担当する杉山智之委員は「心底がっかりしている。中部電力の申請書はどこまで信用できるのかわからない」と述べ、審査の信頼関係が完全に崩壊したことを示唆しました。
発覚の経緯と中部電力の対応
外部からの公益通報がきっかけ
今回の不正は、2025年2月に原子力規制委員会への外部からの通報によって把握されました。規制庁は水面下で調査を進め、不正行為と認定。中部電力は2025年12月18日に規制委員会に報告しました。
内部通報ではなく外部からの「公益通報」によって発覚したことは、中部電力の内部統制やコンプライアンス体制の不備を示しています。
第三者委員会を設置
中部電力は事実関係の調査と再発防止策の検討を行うため、外部専門家のみで構成される第三者委員会を取締役会で設置することを決議しました。地震動関係の専門家・有識者をアドバイザーとして起用する予定です。
同社の林欣吾社長は「原子力の安全にかかる信頼、審査にかかる信頼を著しく損なう、極めて深刻な事態」と陳謝しました。
規制委員会の今後の対応
審査を白紙に、立ち入り検査も実施
規制委員会は1月14日の定例会合で、以下の対応を正式決定しました。
- 浜岡原発3・4号機の安全審査を白紙に戻す
- 1月中に名古屋市の中部電力本店を立ち入り検査
- 3月末までに経緯や原因を報告するよう命令
これにより、中部電力が2014年に4号機、2015年に3号機の安全審査を申請して以来、約10年にわたる審査の成果がすべて無効となります。
過去の審査への疑念
深刻なのは、基準地震動のデータが恣意的に歪められていたにもかかわらず、規制委員会が2023年に「おおむね妥当」との評価を出していたことです。これは、福島事故後の新規制基準に基づくチェック体制の信頼性が根底から揺らぐことを意味します。
他の原発でも同様の問題がないか、審査プロセス全体の見直しが必要になる可能性があります。
浜岡原発の背景と再稼働の見通し
東日本大震災後から停止中
浜岡原発には1〜5号機があります。1、2号機は2009年に運転を終え廃炉作業中です。3〜5号機は2011年の東日本大震災後、当時の菅直人首相の要請を受けて停止しました。
浜岡原発は東海地震の想定震源域に立地しており、他の原発と比較しても地震リスクへの対応が特に重要視されてきました。それだけに、地震想定のデータ不正は致命的といえます。
早期再稼働は困難に
今回の不正発覚により、浜岡原発の早期再稼働は極めて困難な情勢となりました。審査のやり直しには数年を要する可能性があり、地元自治体や住民の信頼回復も大きな課題です。
御前崎市議会への説明では「なぜ社長が来ないのか」と厳しい意見が相次いでおり、地元との関係修復には長い時間がかかる見込みです。
注意点と今後の展望
原子力行政への影響
今回の事案は、電力会社と規制当局の信頼関係を根本から損なうものです。規制委員会は「事業者の第一義の責任を自ら放棄した」と中部電力を厳しく非難しています。
他の電力会社の審査にも影響が及ぶ可能性があり、原発再稼働を巡る議論が一層複雑化することが予想されます。
エネルギー政策への影響
高市政権はエネルギー安全保障の観点から原発活用を推進する姿勢ですが、今回の不正発覚は原発への社会的信頼を大きく損ないました。安全規制の実効性をいかに担保するかが、今後の原子力政策の大きな課題となります。
まとめ
中部電力・浜岡原発での基準地震動データ不正は、原発の安全審査制度への信頼を根底から揺るがす深刻な事案です。外部からの通報で発覚したこと自体が、電力会社のガバナンス不全を示しています。
規制委員会は審査を白紙にし、立ち入り検査と原因究明を進める方針です。約10年に及ぶ審査が無効となり、再稼働の見通しは立たなくなりました。今後は第三者委員会による調査結果と、中部電力の信頼回復に向けた取り組みが注目されます。
参考資料:
- 浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案について - 中部電力
- 浜岡原発再稼働の審査白紙に 規制委「データの捏造、極めて深刻」 - 朝日新聞(Yahoo!ニュース)
- 浜岡原発の再稼働審査で基準地震動データを不正操作疑い - 中日新聞
- 浜岡原発、想定地震を過小評価か - 時事通信
- 浜岡原発審査、「白紙」見通し 規制委員長「明らかな捏造」 - 時事通信
- 原発の安全性揺るがす中部電データ不正(社説) - 日本経済新聞
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