浜岡原発で地震評価データを捏造、規制委が審査を白紙に

by nicoxz

はじめに

2026年1月7日、原子力規制委員会は中部電力・浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の安全審査において、地震動評価データの捏造が行われていたとして、これまでの審査を白紙とする方針を示しました。

山中伸介委員長は「安全に関わる審査データの捏造案件。極めて深刻で重大」と厳しく指摘。「中部電力は事業者の第一義の責任を自ら放棄した。安全規制に対する暴挙だ」と非難しました。

原発の再稼働審査において、事業者が基準地震動(想定される最大の地震の揺れ)のデータを不正操作するという前代未聞の事態です。本記事では、事件の詳細と原発安全審査の仕組み、そして今後への影響について解説します。

事件の概要

発覚の経緯

2025年2月、原子力規制委員会に対して外部から公益通報が寄せられました。その内容は、浜岡原発の安全審査で提出された基準地震動の評価データに不正があるというものでした。

規制庁は通報を受けて調査を開始し、中部電力に対して事実関係の確認を求めました。2025年12月18日、中部電力は社内調査の結果を規制委に報告し、不正行為の存在を認めました。

そして2026年1月5日、中部電力の林欣吾社長が記者会見を開き、「審査に重大な影響を及ぼす恐れがある。当社の原子力事業への信頼を失墜させ、事業の根幹を揺るがしかねない」と陳謝しました。

不正の内容

基準地震動を策定する際、通常は敷地周辺の地質調査や過去の地震データなどを基に、さまざまな条件で20組の地震波形を算出します。その中から最も平均的なものを「代表波」として選び、これを基に大地震の揺れを推定するという手順が取られます。

しかし中部電力では、2018年頃以降、この手順が不正に操作されていました。

具体的には、まず数千組の波形から都合のよい1つを選び出し、それを「平均」に見せかけるために、残り19組の波形も恣意的に選んでいたのです。結果として、想定される地震の揺れが実際より過小に評価されていた可能性があります。

規制委員会の反応

原子力規制委員会の山中委員長は、この事案を「明らかな捏造」と断定しました。

杉山智之委員は「心底がっかりしている。中部電力の申請書はどこまで信用できるのかわからない。審査の前提が確立するまで再開は不可能だ」と述べました。

神田玲子委員も「人的リソースを投入して審査をしてきた。これまでかかった国費を無駄にする行為だ」と厳しく批判しています。

規制委幹部は「捏造に近く、他の事業者による事案とは本質的に異なる」と指摘。浜岡原発の安全性評価が根本から覆りかねない深刻な事態との認識を示しました。

基準地震動とは何か

原発の耐震設計の要

「基準地震動」とは、原子力発電所の耐震設計や耐震性チェックの基準となる地震の揺れの大きさです。敷地周辺の活断層調査などを基に、発生する可能性のある最大級の地震を想定し、敷地内でどれほどの揺れに襲われるかを推定したものです。

法的には「施設を使用している間に極めてまれではあるが、発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」と定義されています。

原発の安全対策は、この基準地震動を前提に設計されます。基準地震動が過小評価されていれば、想定を超える地震が発生した際に、施設が耐えられない恐れがあります。今回の不正が深刻視される最大の理由です。

策定のプロセス

基準地震動の策定は、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」に基づいて行われます。

主なプロセスは以下の通りです:

  1. 地質調査: 敷地周辺の活断層調査、過去の地震の文献調査
  2. 地震の分類: 海洋プレート境界型、海洋プレート内型、内陸地殻内型ごとに検討
  3. 影響評価: 敷地への影響が大きい地震を選定
  4. 波形算出: 応答スペクトルや断層モデルに基づく方法で地震波形を算出
  5. 代表波選定: 複数の波形から平均的なものを代表波として採用

今回の不正は、この「代表波選定」のプロセスで行われました。

他の原発との比較

各原発の基準地震動は、敷地の地質条件や周辺の活断層の状況によって異なります。例えば、関西電力の原発では、高浜発電所が700ガル、大飯発電所が856ガル、美浜発電所が993ガルとなっています。

浜岡原発は東海地震の想定震源域に位置しており、日本で最も地震リスクの高い原発の一つとされてきました。それだけに、基準地震動の評価は特に重要であり、不正の影響は甚大です。

浜岡原発の経緯

立地と歴史

浜岡原発は静岡県御前崎市にあり、1〜5号機の5基で構成されています。1号機は1976年、2号機は1978年に運転を開始し、日本の原子力発電の黎明期から稼働してきました。

しかし、2009年に1・2号機は老朽化により廃炉が決定され、現在は廃炉作業中です。

東日本大震災後の停止

2011年の東日本大震災と福島第一原発事故を受けて、当時の菅直人首相は浜岡原発の全面停止を要請しました。東海地震の想定震源域に位置し、地震・津波リスクが高いと判断されたためです。

以来、3〜5号機は停止状態が続いています。中部電力は約5,000億円を投じて津波対策工事などを実施し、再稼働を目指してきました。

再稼働審査の経緯

中部電力は再稼働に向けて、2014年に4号機、2015年に3号機の安全審査を原子力規制委員会に申請しました。5号機も同様に申請し、審査が進められてきました。

しかし審査は長期化し、10年以上が経過した現在も合格に至っていませんでした。そして今回、審査の根幹を揺るがす不正が発覚したのです。

規制委員会の対応

審査の白紙化

原子力規制委員会は2026年1月7日、浜岡原発3・4号機の審査を停止する方針を決定しました。山中委員長は「安全審査そのものをやり直す必要がある」と述べ、これまでの審査を事実上白紙に戻す考えを示しました。

1月14日の定例会合で、今後の対応策を正式に協議する予定です。

立入検査の実施

規制委員会は中部電力本店への立入検査を実施する方針です。検査では、不正の全容解明と関係者への聞き取り、関連資料の精査などが行われます。

規制庁は「検査は一定の時間を要する。数カ月で終わるものではない」と述べており、調査は長期化する見通しです。

再稼働の見通し

今回の事態を受けて、浜岡原発の早期再稼働は事実上不可能となりました。審査が白紙に戻された場合、ゼロから審査をやり直すことになり、さらに数年単位の時間がかかる可能性があります。

また、中部電力の原子力事業者としての適格性そのものが問われる事態に発展する可能性も指摘されています。

中部電力の対応

社長の陳謝

中部電力の林欣吾社長は「原子力事業者としての適格性をも疑われるもので、審査対応をしている規制委にも大変申し訳ない。今後指示、指導に真摯に対応する」とコメントしました。

第三者委員会の設置

中部電力は弁護士らで構成する独立した第三者委員会を設置し、不正の全容解明を進めています。不正がいつから、誰の指示で行われたのか、組織的な関与はあったのかなど、詳細な調査が行われる予定です。

経済産業省への報告

経済産業省は中部電力に対し、事実関係や経緯、原因を調査した上で再発防止策を2026年4月6日までに報告するよう求めました。

影響と課題

地元自治体の反応

静岡県の鈴木康友知事は「県民の信頼を損なう重大な事案であり大変遺憾」とコメントしました。地元自治体との信頼関係も大きく損なわれた状況です。

原発の再稼働には地元同意が必要とされていますが、今回の不正発覚により、地元の理解を得ることは一層困難になりました。

市場への影響

中部電力の社債スプレッド(国債との利回り格差)が拡大しています。第三者委員会設置の発表を受けて、市場では中部電力の信用力への警戒が強まっています。

原発が長期停止している中部電力にとって、再稼働の見通しが立たなくなったことは、経営面でも大きな打撃となります。

原子力行政への影響

今回の事案は、原子力規制の信頼性そのものに疑問を投げかけています。事業者が審査データを捏造していたとすれば、他の原発でも同様の不正が行われていないか、確認が必要になります。

規制委員会は今後、他の事業者に対しても同様の不正がないか確認を求める可能性があります。

日本のエネルギー政策への影響

政府は2050年カーボンニュートラル達成に向けて、原発の活用を掲げています。しかし、今回の不正発覚は原発への社会的信頼を損ない、再稼働推進の逆風となる可能性があります。

今後の展望

審査再開の条件

規制委員会が審査を再開するためには、以下の条件が満たされる必要があると考えられます:

  1. 第三者委員会による不正の全容解明
  2. 中部電力による原因分析と再発防止策の策定
  3. 正確なデータに基づく基準地震動の再評価
  4. 組織体制・ガバナンスの抜本的見直し

これらが完了するまでには、少なくとも数年を要すると予想されます。

再稼働の見通し

仮に審査が再開されても、ゼロからのやり直しとなれば、再稼働までにはさらに数年から10年以上かかる可能性があります。浜岡原発の再稼働は、当面の間、現実的な選択肢ではなくなりました。

原子力業界全体への教訓

今回の事案は、原子力事業者のコンプライアンスとガバナンスの重要性を改めて浮き彫りにしました。審査を通過するために安全データを捏造するという行為は、原発の安全性を根底から覆すものです。

他の電力会社も、自社の審査対応に問題がないか、改めて点検する必要があるでしょう。

まとめ

中部電力・浜岡原発の再稼働審査において、基準地震動の評価データが意図的に操作されていたことが発覚しました。原子力規制委員会はこれを「捏造」と断定し、審査を白紙に戻す方針を示しました。

不正は2018年頃から行われていたとみられ、地震の揺れを過小評価するために波形データが恣意的に選定されていました。この行為は原発の安全性評価を根本から覆しかねない深刻な問題です。

中部電力は第三者委員会を設置して全容解明を進めていますが、早期再稼働は事実上不可能となりました。原子力規制の信頼性そのものが問われる事態に発展しており、日本のエネルギー政策にも影響を与える可能性があります。

参考資料:

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