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by nicoxz

浜岡原発データ不正で規制委が立入検査、国有化論も再燃

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はじめに

中部電力が浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の安全審査において、地震データを不正に改ざんしていた問題が深刻化しています。2026年1月26日、原子力規制委員会は実態解明に向けて名古屋市の中部電力本店に立入検査を開始しました。

安全審査の根幹となる「基準地震動」の数値を改ざんしたこの問題は、中部電力の原発事業者としての適格性を根本から問うものです。規制委員会の山中伸介委員長は「明らかな捏造」「安全規制に対する暴挙」と厳しく非難しており、信頼回復ができなければ原発の「国有化」論が再燃する可能性も指摘されています。

本記事では、データ不正の実態と今後の見通しを詳しく解説します。

データ不正の発覚と概要

問題の発覚

中部電力は2026年1月5日、浜岡原発3号機・4号機の新規制基準適合性審査において、地震動評価に関するデータが不正に操作されていた疑いがあることを公表しました。この発表は、原子力業界全体に衝撃を与えました。

不正が行われたのは、原発の耐震設計の前提となる「基準地震動」の算出過程です。基準地震動とは、原発の安全設計の基礎となる想定最大の揺れを指します。この数値が正確でなければ、原発の安全性は根本から揺らいでしまいます。

不正の具体的手口

中部電力の説明によると、基準地震動の策定にあたり、条件の異なる20通りの揺れのパターンから平均値に最も近いものを代表波として採用すると規制委に説明していました。

しかし実際には、2018年以前から「20組の地震動とその代表波」のセットを一つではなく多数作成し、その中から中部電力にとって都合の良いものを選定していました。さらに2018年頃以降は、意図的に「平均に最も近い波ではないもの」を代表波として選定した上で、当該代表波が20組の平均に最も近くなるように、残りの19組を選び直すという操作を行っていたのです。

この結果、地震の揺れが実際よりも過小に評価され、安全対策が不十分となる恐れがありました。

担当者の証言

社内調査に対し、担当者は「時間的制約があった」「揺れを小さく見せたかった」などと話しているとされています。再稼働を急ぐ社内の空気が現場を焦らせ、不正につながった可能性が指摘されています。

原子力規制委員会の厳しい対応

「暴挙」「捏造」と断罪

2026年1月7日の定例記者会見で、原子力規制委員会の山中伸介委員長は中部電力の不正に対して極めて厳しい言葉で非難しました。

山中委員長は「とんでもない暴挙。安全規制に対する暴挙。基本原則を全く無視した暴挙」と怒りをあらわにし、「安全に直接関わる審査データの捏造、明らかな不正行為だ」と断じました。

原子力の安全規制を司る機関のトップがこれほど強い言葉で電力会社を批判することは異例のことです。それだけ今回の不正が重大であることを示しています。

審査の白紙決定

2026年1月14日の定例会合で、原子力規制委員会は浜岡原発3号機・4号機の再稼働に向けた安全審査を白紙にすると正式に決定しました。これにより、これまでの審査の進捗は全てリセットされることになります。

中部電力は2014年から再稼働審査を申請しており、約12年にわたる審査の積み重ねが事実上無効となりました。再稼働の見通しは大幅に遠のいたといえます。

立入検査の実施

規制委員会は1月中に名古屋市の中部電力本店への立入検査を実施し、3月末までに経緯や原因を報告するよう命令することも決定しました。

立入検査では、関係者からの直接ヒアリングや関連資料の収集が行われます。処分の選択肢としては、再稼働審査で不合格とする案、設置許可そのものを取り消す案、保安規定の変更命令を出す案などが検討されています。

中部電力のガバナンス問題

相次ぐ不祥事

今回のデータ不正は、中部電力の原子力部門で相次いでいる不祥事の一つです。2025年11月にも、原子力部門が社内規定に反して浜岡原発の安全対策工事の仕様変更を発注し、数十億円規模の未精算が発生したことが発覚。副社長らが引責辞任する事態となっていました。

短期間に重大な問題が続いたことで、中部電力の組織的なガバナンス(企業統治)に根本的な欠陥があるのではないかという疑念が広がっています。

第三者委員会の設置

中部電力は、外部専門家のみで構成される第三者委員会を設置することを取締役会で決議しました。不正の経緯や原因、組織的な関与の有無などを調査し、再発防止策を策定する方針です。

林欣吾社長は記者会見で「地域の皆さまの信頼を失墜させ、原子力事業の根幹を揺るがしかねない深刻な事態だ」と陳謝しました。

原子力事業者としての適格性

規制委員会は中部電力に対し「原子力事業者としての適格性をも疑われる」と指摘しています。電力会社が原発を運営するためには、安全性を最優先する姿勢と、規制当局との信頼関係が不可欠です。

今回の不正は、その両方を根本から損なうものであり、中部電力が原発を運営する資格があるのかという問題が浮上しています。

浜岡原発の特殊な位置づけ

南海トラフ地震の想定震源域

浜岡原発が特に厳しい目で見られる背景には、その立地の特殊性があります。全5基の浜岡原発は、南海トラフ地震の想定震源域に位置しています。

東海道新幹線や東名高速道路など、日本の東西を結ぶ大動脈に近い場所にあり、万一の事故が発生した場合の影響は計り知れません。

2011年の全基停止要請

2011年の東日本大震災後、当時の菅直人首相の要請により、稼働中だった浜岡原発の全基が運転を停止しました。政府が特定の原発の停止を要請するという異例の対応であり、浜岡原発のリスクに対する懸念の高さを示すものでした。

以来、浜岡原発は再稼働に向けた審査を続けてきましたが、今回のデータ不正により、その努力は振り出しに戻ることになりました。

「国有化」論の再燃

東京電力の実質国有化の前例

電力会社の原発運営に問題が生じた場合、「国有化」という選択肢が議論されることがあります。実際、東京電力は福島第一原発事故後、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて政府から多額の資金援助を受けており、実質的に国有化された状態にあります。

2021年度末現在で累計10兆2282億円の支援を受けており、国の管理下で経営再建と廃炉作業が進められています。

浜岡原発への適用の可能性

中部電力がこのまま信頼回復に失敗した場合、浜岡原発について国有化や他の電力会社への運営移管などが議論される可能性があります。原発の安全性は国民の生命に直結する問題であり、電力会社単独の判断に委ねるべきではないという声が強まる可能性があります。

ただし、国有化には法的な整備や巨額の費用が必要となり、実現には多くのハードルがあります。現実的には、中部電力の経営体制の刷新と徹底的な再発防止策が求められることになるでしょう。

今後の見通しと注意点

審査再開の見通しは不透明

規制委員会が審査を白紙としたことで、浜岡原発の再稼働時期は全く見通せなくなりました。審査を一から始めるには、まず中部電力が信頼回復に向けた具体的な行動を示す必要があります。

第三者委員会の調査結果や、規制委員会による立入検査の結果を踏まえて、今後の対応が決まることになります。

エネルギー政策への影響

浜岡原発の再稼働遅延は、日本のエネルギー政策にも影響を与える可能性があります。政府は脱炭素化に向けて原発の活用を推進していますが、今回の不正は原発に対する国民の不信感を高めかねません。

他の電力会社の原発審査にも影響が及ぶ可能性があり、業界全体で安全文化の再点検が求められています。

まとめ

中部電力による浜岡原発のデータ不正問題は、原発の安全性に対する信頼を根本から揺るがす深刻な事態です。基準地震動という安全設計の根幹となる数値が改ざんされていたことは、「安全規制に対する暴挙」という規制委員会の批判に値します。

原子力規制委員会による審査白紙の決定と立入検査の実施は、問題の重大性を示しています。中部電力は第三者委員会を設置して原因究明と再発防止に取り組む方針ですが、信頼回復には長い道のりが予想されます。

南海トラフ地震の想定震源域に立地する浜岡原発の問題は、日本のエネルギー政策全体にも影響を与えかねません。今後の動向を注視する必要があります。

参考資料:

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