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by nicoxz

出光興産がエチレン生産停止を通知、ナフサ不足の深刻度

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はじめに

出光興産が基礎化学品エチレンの生産設備を停止する可能性があることを取引先に通知していたことが、2026年3月6日に明らかになりました。ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、エチレンの原料であるナフサ(粗製ガソリン)を中東から輸入できない状態が続いているためです。

原油の国家備蓄が254日分あるのに対し、ナフサの国内在庫はわずか約20日分しかありません。この数字が突きつけるのは、日本の化学産業が抱える「物流国家の致命的リスク」です。出光興産だけでなく、三菱ケミカルや三井化学も減産に踏み切っており、影響は日本の製造業全体に波及しつつあります。

出光興産の通知内容

対象施設と生産規模

出光興産が生産停止の可能性を通知した施設は、山口県周南市の徳山事業所と千葉県市原市の千葉事業所の2拠点です。徳山事業所のエチレン年間生産能力は約62万トン、千葉事業所は約37万トンで、合計すると国内全体のエチレン生産能力の約16%を占めます。

通知では「ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば生産設備を停止する可能性がある」と記されており、即時の停止ではなく、封鎖の長期化を見据えた予防的な措置です。取引先に対し、代替調達先の確保や在庫の積み増しを促す意図もあるとみられます。

ナフサ在庫20日の衝撃

出光興産がこうした異例の通知に踏み切った最大の理由は、ナフサ在庫の薄さにあります。日本の原油備蓄は国家備蓄と民間備蓄を合わせて254日分が確保されています。しかし、ナフサには国家備蓄制度が存在せず、あくまで民間企業の商業在庫だけで運用されています。その在庫量はわずか約20日分です。

原油は備蓄があっても、ナフサの供給が途絶えればエチレンの生産は止まります。この構造的な脆弱性が、ホルムズ海峡封鎖という事態で一気に表面化しました。

化学業界全体に広がる減産

三菱ケミカルの対応

三菱ケミカルは3月6日から、茨城県鹿嶋市の茨城事業所でエチレンの減産を開始しました。ナフサの調達難を見越した予防的な措置で、設備の稼働率を段階的に引き下げています。Bloombergの報道によれば、中東の混乱でナフサ不足の懸念が高まり、化学品全体への連鎖的な影響も警戒されています。

三井化学も減産に着手

三井化学も千葉県市原市と大阪府高石市のエチレン生産設備で減産を始めたことが共同通信により報じられています。国内の主要エチレンメーカーが軒並み減産に踏み切るのは極めて異例の事態です。

石化プラントの減産が示す連鎖リスク

化学工業日報の報道では、4月にはナフサ在庫が底をつき、設備の完全停止に追い込まれる可能性も指摘されています。エチレンは石油化学産業の最も基礎的な原料であり、その生産が止まれば川下のあらゆる製品に影響が波及します。

エチレン停止がもたらす産業への影響

プラスチック製品全般への波及

エチレンは「化学産業のコメ」とも呼ばれる基礎原料です。ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチック樹脂の原料であり、その用途は多岐にわたります。

具体的には、食品包装用フィルム、ペットボトル、自動車部品、家電製品の筐体、医療用品、建築資材など、日常生活と産業のあらゆる場面でエチレン由来の製品が使われています。生産が止まれば、これらの製品の供給が滞る恐れがあります。

自動車・物流への打撃

自動車産業では、バンパーやダッシュボード、内装材など多くの部品にプラスチックが使われています。エチレン供給の途絶は、自動車メーカーの生産ラインにも影響を及ぼしかねません。

物流面では、梱包資材やパレットの不足が4月にも顕在化する可能性が指摘されています。食品包装材の不足は、食品の流通そのものに支障をきたす恐れもあります。

タイヤ産業への影響

タイヤの原材料の約半分は石油由来の製品で構成されており、ナフサの品薄はタイヤ価格の上昇にも直結します。合成ゴムの原料であるブタジエンもナフサから生産されるため、タイヤメーカーへの影響は避けられません。

注意点・展望

日本のナフサ輸入は7割以上を中東に依存しています。ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、代替調達先(東南アジア、米国など)からの確保が急務となりますが、輸送日数の増加やコスト上昇は避けられません。

今回の事態は、原油だけでなくナフサについても備蓄制度の必要性を浮き彫りにしました。国家備蓄の対象にナフサやLPGなどの石油化学原料を加えるべきだとの議論が、今後活発化する可能性があります。

また、ホルムズ海峡封鎖は化学産業だけでなく、再生可能エネルギー関連にも影響を及ぼすとの指摘があります。太陽光パネルの封止材やEVバッテリーの電解質にも石油化学製品が使われており、エネルギー転換を支える産業にも思わぬ打撃が及ぶ構図です。

まとめ

出光興産のエチレン生産停止通知は、日本の化学産業が抱えるホルムズ海峡依存の脆弱性を象徴する出来事です。ナフサ在庫わずか20日分という現実は、原油備蓄254日分とは対照的であり、石油化学原料の備蓄制度の不備を浮き彫りにしています。

三菱ケミカル、三井化学も減産に入り、4月にはさらなる生産停止の可能性も指摘されています。プラスチック製品、自動車部品、食品包装材など、川下産業への影響は日本の製造業全体に波及しかねません。中東情勢の動向と並行して、サプライチェーンの多元化と備蓄制度の再構築が急がれます。

参考資料:

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