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by nicoxz

水島エチレン減産が示すナフサ依存の構造リスク

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はじめに

三菱ケミカルグループと旭化成が共同運営する水島コンビナート(岡山県倉敷市)で、基礎化学品エチレンの減産が始まりました。原料となるナフサ(粗製ガソリン)の国内調達や中東からの輸入が減少する見通しを受けた措置です。

国内にあるエチレン生産設備12基のうち、少なくとも4基が減産対応に入ったことになります。ホルムズ海峡の事実上の封鎖という異常事態が、日本の石油化学産業の根幹を揺るがしています。この記事では、減産の背景にある構造的な問題と、今後の産業への影響について解説します。

水島コンビナートの減産と各社の対応

水島での減産開始

三菱ケミカルグループと旭化成は3月11日から、水島コンビナートにあるエチレン生産設備1基の稼働率を引き下げて運転を開始しました。水島コンビナートは両社が共同出資するAMEC(旭化成・三菱ケミカルエチレン)が運営しており、西日本の石油化学産業の重要拠点として位置づけられています。

減産の直接的な理由は、原料であるナフサの国内調達量の減少と、中東からの輸入減少が見込まれることです。ナフサの在庫が今後さらに減少するリスクに備え、設備の完全停止を避けるための予防的な措置として実施されています。

国内各社に広がる減産の連鎖

水島の減産は、国内で進む一連の減産対応の一環です。3月6日には三菱ケミカルグループが茨城県鹿島コンビナートのエチレン生産設備(年産能力約48.5万トン、国内全体の約8%)で稼働率の引き下げに踏み切りました。「供給が減った際の設備停止を避けるための措置」と説明しています。

三井化学も3月10日前後から、千葉県市原市と大阪府高石市にある2基のエチレン生産設備で減産を開始しました。さらに出光興産は、山口県の徳山事業所と千葉県のエチレン生産設備について、中東からのナフサ供給停止が長期に及ぶ場合には設備を完全に停止する可能性があると取引先に通知しています。出光の2基は国内生産能力の約16%を占めており、停止となれば影響は甚大です。

ナフサ依存という日本の構造的弱点

世界で突出するナフサ依存度

日本のエチレン生産が抱える最大の構造的課題は、原料の95%をナフサに依存している点です。米国ではシェール革命によりエタンが主力原料となり、欧州でもLPG(液化石油ガス)を一定割合で活用しています。しかし日本は、ほぼナフサ一本足という世界でも例外的な原料構造を維持してきました。

さらに問題なのは、そのナフサの調達先が中東に集中していることです。日本のナフサ輸入の7割以上が中東産であり、UAE、クウェート、カタールの3カ国だけで全輸入量の約67%を占めています。これらの国からのナフサはほぼ全量がホルムズ海峡を通過するため、海峡の封鎖は日本の石化原料の約3分の2が遮断されることを意味します。

ホルムズ海峡封鎖がもたらす連鎖的影響

2026年3月初旬に始まったホルムズ海峡の事実上の封鎖は、日本の石油化学産業に深刻な影響を及ぼしています。石化プラントのナフサ在庫は国内全体で約20日分程度とされ、封鎖の長期化により3月下旬から4月にかけて在庫の限界に達するプラントが出てくると見込まれています。

エチレンは「化学品の米」とも呼ばれる基礎素材で、ポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチック、合成繊維、合成ゴムなど幅広い製品の原料です。減産が長期化すれば、食品の包装材、医療用品、衣料品、自動車部品など、私たちの生活に密接に関わる製品の供給に影響が出る可能性があります。物流業界では、段ボールやフィルムなどの包装資材の不足が4月以降に顕在化するとの懸念も出ています。

注意点・展望

長期的な再編計画との関係

今回の減産は短期的な原料不足への対応ですが、背景には国内エチレン産業の長期的な再編計画も存在します。三菱ケミカル、旭化成、三井化学の3社は2026年1月、2030年度をめどに水島コンビナートのエチレン生産設備を停止し、大阪府高石市のOPC(大阪石油化学)設備に集約する方針を発表しています。

国内需要の縮小と中国の大幅な増産による国際競争の激化が背景にあり、国内エチレン設備は現在の12基体制から将来的に8基体制へと移行する計画です。今回の中東危機は、この再編を加速させる可能性もあります。

今後の焦点

最大の焦点は、ホルムズ海峡の通航がいつ正常化するかです。封鎖が長期化すれば、4月以降にエチレン生産設備の完全停止に踏み切る企業が出てくる可能性があります。IEA加盟国による過去最大の石油備蓄協調放出が決まりましたが、ナフサの供給回復に直結するかは不透明です。

また、日本のエネルギー安全保障の観点から、ナフサ以外の原料への転換や調達先の多様化が改めて議論される局面に入っています。旭化成が開発する「Revolefin」技術によるバイオエタノールからの化学品製造など、中長期的な代替技術への投資も加速が求められます。

まとめ

水島コンビナートでのエチレン減産は、日本の石油化学産業が抱えるナフサ依存という構造的リスクが顕在化した象徴的な出来事です。国内12基のうち少なくとも4基が減産に入り、今後さらに拡大する可能性があります。

短期的にはナフサ在庫の推移とホルムズ海峡の情勢を注視する必要があります。中長期的には、原料の多様化や調達先の分散、国内生産体制の効率化が不可欠です。エチレンを起点とする幅広い製品の供給に関わる問題だけに、産業界だけでなく私たちの日常生活にも影響が及ぶ可能性を認識しておくことが重要です。

参考資料:

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