日米の「借金買い」過去最高水準、イラン有事で試される株式市場
はじめに
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの攻撃に踏み切りました。原油価格が急騰する中、世界の株式市場にも動揺が広がっています。ダウ工業株30種平均は3月3日に1,052ポイント(約2.1%)の大幅下落を記録しました。
この局面で特に注目されているのが、日米で過去最高水準に積み上がった信用取引による「借金買い」のポジションです。米国のFINRA証拠金債務は1.28兆ドル(約192兆円)、日本の信用買い残高は5.5兆円を超え、いずれも歴史的な高水準にあります。紛争が長期化しリスクオフが強まれば、レバレッジのまき戻しが相場の下落を加速させる可能性があります。
この記事では、日米の信用取引残高の現状と、イラン有事がもたらす株式市場へのリスクを分析します。
米国:証拠金債務1.28兆ドルの意味
8カ月連続で過去最高を更新
米金融取引業規制機構(FINRA)が発表したデータによると、2026年1月の証拠金債務(マージンデット)は1.28兆ドルに達しました。前月比4.4%増で、8カ月連続の過去最高更新です。前年同月比では36.5%もの増加となっています。
証拠金債務とは、投資家が証券会社から株式を担保に借り入れた資金の総額です。この数値が大きいほど、投資家がレバレッジ(借金)を活用して株式を購入していることを意味します。
Advisor Perspectives社の分析では、インフレ調整後の証拠金債務はドットコムバブル期の水準を上回っています。収入に対するレバレッジの比率も、過去の危機的水準を超えたと指摘されています。
レバレッジの連鎖リスク
証拠金債務だけではありません。レバレッジ型ETFに約2,500億ドル、銀行のレバレッジドローンに1.5兆ドルが投じられており、米連邦準備制度理事会(FRB)も2025年11月の金融安定性報告書で「金融セクターのレバレッジによる脆弱性は顕著」と警告していました。
株価が急落すると、証拠金不足に陥った投資家に追加証拠金(マージンコール)が発生します。追証を支払えない場合は強制売却が行われ、これがさらなる株価下落を招くという悪循環が生じます。3月3日のダウ1,000ポイント超の急落では、実際に自動売却注文とマージンコールの連鎖が下げを加速させたと報じられています。
日本:信用買い残5.5兆円の高水準
19年8カ月ぶりの高水準
東京証券取引所のデータによると、2026年1月30日時点の信用買い残高(東京・名古屋2市場、制度信用と一般信用の合計)は5兆3,867億円に達しました。これは2006年5月(5兆6,977億円)以来約19年8カ月ぶりの高水準です。4週連続の増加で、前週比2,705億円増でした。
2月27日時点では5兆5,405億円と、さらに水準を切り上げています。高市早苗首相の経済政策への期待や、日銀の早期利上げ観測の後退が買い意欲を支えてきました。日経平均株価が最高値を更新する中で、個人投資家の信用買いが急増した形です。
評価損益率と追証の関係
信用取引では、評価損益率が重要な指標となります。一般に評価損益率が-10%に達すると追証(追加証拠金)が発生し始め、個人投資家の投げ売りが加速するとされています。
相場が上昇基調の間は問題が表面化しませんが、イラン有事のような地政学リスクで急落が起きた場合、高水準の信用買い残が売り圧力に転換するリスクがあります。信用買い残が多いほど、将来の決済売り(反対売買)が増えるため、株価の上値が重くなる構造的な問題も抱えています。
イラン有事が突きつけるリスク
3月3日の市場動揺
イラン攻撃後の最初の取引日となった3月3日、世界の株式市場は大きく動揺しました。ダウ工業株30種平均は1,052ポイント(2.1%)下落し、特に取引最終時間には自動売却注文とマージンコールの連鎖が下落を加速させました。
CNNの分析によると、原油価格の急騰が多くのトレーダーの想定を超える速度で起こったことが、レバレッジポジションの強制解消を引き起こしました。CFD取引や高証拠金の商品先物、流動性の低い小型株のポジションでは、損失が特に拡大したと見られています。
短期収束と長期化で異なる影響
紛争が短期間で収束すれば、株式市場への影響は限定的です。過去のデータでは、大規模な地政学イベント後のS&P500は1カ月で平均0.9%の下落にとどまり、6カ月後には平均3.4%上昇しています。
しかし紛争が長期化した場合、リスクオフの機運が強まり、積み上がったレバレッジポジションの巻き戻しが本格化する恐れがあります。ゴールドマン・サックスやJPモルガンのアナリストは、ホルムズ海峡封鎖の長期化で原油が1バレル150ドルに達する可能性を指摘しており、その場合は企業収益への悪影響と相まって株式市場の調整が深刻化する可能性があります。
注意点・展望
投資家が注意すべきポイントは3つあります。第一に、レバレッジの水準です。日米ともに過去最高水準の借金買いが積み上がっており、下落局面での脆弱性がこれまで以上に高まっています。
第二に、原油価格と企業業績の連動です。原油価格の上昇はエネルギーコストの増加を通じて幅広い業種の収益を圧迫します。特にエネルギー多消費型の製造業や運輸業への影響は大きくなります。
第三に、紛争の行方です。トランプ大統領は「戦争は数週間で終わる」との見通しを示していますが、イラン側の報復姿勢は強硬であり、予断を許しません。短期収束か長期化かによって、株式市場のシナリオは大きく分かれます。
信用取引を利用している投資家は、追証に備えた資金管理の見直しが急務です。評価損益率の推移を日々確認し、ポジションの縮小も選択肢に含めるべき局面です。
まとめ
米国のFINRA証拠金債務1.28兆ドル、日本の信用買い残5.5兆円。いずれも過去最高水準にある「借金買い」のポジションが、イラン有事という地政学リスクに直面しています。3月3日のダウ1,000ポイント超の急落では、マージンコールの連鎖がすでに現実のものとなりました。
紛争が短期間で収束すれば市場は落ち着きを取り戻す可能性がありますが、長期化した場合はレバレッジの巻き戻しが株価下落を増幅するリスクがあります。今こそ信用取引のポジション管理を見直し、リスクに備えるべき局面です。
参考資料:
- Margin Debt Up 4.4% in January, Hits Eighth Straight Record High - Advisor Perspectives
- Record High Margin Debt Increases Market Risk - Seeking Alpha
- 信用買い残が2週ぶり減少 日経平均株価最高値で利益確定売り - 日本経済新聞
- Chaos in the Capital Markets: Dow Plunges 1,000 Points - FinancialContent
- Why stocks are acting so weird about a spiraling war with Iran - CNN
- As markets turn volatile, leverage is back in the spotlight - Atlantic Council
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