日経平均が朝安後に急反発、衆院選とリスクオフの攻防
はじめに
2026年2月6日の東京株式市場は、投資家にとってジェットコースターのような1日となりました。日経平均株価は朝方に前日比800円を超える急落を見せたものの、その後は買い戻しが優勢となり、終値は前日比435円(0.81%)高の5万4,253円と、この日の高値圏で取引を終えています。
この劇的な反転の背景には、2つの大きな材料が交錯していました。1つは8日に投開票を控えた衆議院選挙での与党勝利ムード、もう1つは米国発のハイテク株急落「SaaSの死」ショックです。本記事では、この日の相場の動きを詳しく振り返りながら、投資家が押さえておくべきポイントを解説します。
朝方800円安から435円高への劇的な反転
米ハイテク株安が直撃した朝方
6日朝の東京市場は、前日の米国市場の大幅安を受けて売り先行で始まりました。5日のニューヨーク市場ではダウ工業株30種平均が前日比592ドル安と反落し、ハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数は3日続落となっていました。
特に深刻だったのがソフトウェア関連株の下落です。AIスタートアップのアンソロピックがコーディング機能を強化したAIモデルの最新版を発表したことで、「SaaSの死」への警戒感が再燃しました。iシェアーズ拡大テック・ソフトウェアETFは5%下落し、SaaS関連銘柄から約2,850億ドル(約43兆円)の時価総額が消失する事態となっています。
この影響を受け、日経平均は寄り付き直後に前日比867円安の5万2,950円まで急落しました。
切り返しの原動力
しかし、売り一巡後は急速に買い戻しが進みました。8日の衆院選で与党が勝利するとの観測が広がる中、内需関連株を中心に幅広い銘柄に買いが入りました。
東証33業種のうち25業種が上昇し、鉱業、銀行、建設などが上位に並びました。銀行株は、長期金利の上昇を収益拡大のチャンスと捉える買いが集まっています。一方、パルプ・紙、医薬品などディフェンシブセクターは軟調に推移しました。
注目すべきは為替の動きです。ドル円相場は東京時間15時時点で156円76銭前後と比較的安定しており、「円安だから買い、円高だから売り」という単純な構図ではなく、株式市場の需給そのものが相場を動かした1日だったといえます。
衆院選の「選挙は買い」アノマリー
過去の実績が示す経験則
日本の株式市場には「選挙は買い」という有名なアノマリー(経験則)があります。1969年以降に行われた18回の衆議院解散総選挙のうち、2024年のケースを除いて、解散日から投開票日までの期間で日経平均はすべて上昇しています。17回連続の上昇記録は「衆院解散アノマリー」として広く知られています。
さらに、自民党が議席数を増やし過半数を確保したケースでは、選挙後3カ月で平均13%の日経平均上昇が確認されています。今回の衆院選は1月27日公示・2月8日投開票という日程で、解散から投開票まで16日間と戦後最短記録を更新する超短期決戦となっています。
自民・維新の与党が300議席超の勢い
各種世論調査や情勢分析によると、与党の自民党・日本維新の会が定数465のうち300議席を超える勢いを見せています。共同通信社の調査では、比例代表の投票先として自民党が36.1%を獲得し、前週から6.9ポイント上昇しました。小選挙区でも与党系候補が44.0%と野党系候補の26.5%を大きく上回っています。
高市早苗首相の高い支持率を追い風に、市場では与党の安定多数確保を織り込む動きが進んでいます。これが6日の相場で朝方の急落を打ち消す買い材料となりました。
「SaaSの死」が示すリスクオフの正体
AIが揺るがすソフトウェアビジネスモデル
6日の朝方の急落の直接的な引き金となった「SaaSの死」とは、AIの急速な進化によって従来のSaaS(Software as a Service)のビジネスモデルが根本から揺らぎかねないという懸念です。
具体的には、AIのコーディング能力が飛躍的に向上したことで、企業が高額なSaaSを購入する代わりに「自社業務に特化したAIツールを自作する」という選択肢が現実的になりつつあります。これにより、1ユーザーあたり月額いくらという従来の課金モデルが成立しなくなるリスクが指摘されています。
日本市場でも2月4日にはラクスが前日比13.50%安、Sansanが12.45%安、フリーが9.00%安と、SaaS関連銘柄が軒並み大幅安を記録しています。
選挙後に残るリスク要因
「選挙は買い」のアノマリーには注意点もあります。選挙から半年後の日経平均を見ると、上昇と下落がまちまちの動きとなっており、与党が大勝した場合でも株価が下落したケースが散見されます。つまり、選挙効果は比較的短期間で剥落する傾向があります。
米国のハイテク株安やAIがもたらす産業構造の変化は、選挙結果にかかわらず日本市場にも影響を及ぼし続ける構造的な要因です。2026年後半には「トランプ関税」や「AIバブル懸念」といったリスクも意識されており、選挙後の上昇局面を手放しで楽観できる状況ではありません。
注意点・展望
投開票後のシナリオ
8日の投開票を経て、最も注目されるのは与党の議席数です。自民党が単独過半数を確保すれば、高市政権の安定が見込まれ、市場にとっては追い風となります。一方、予想を下回る結果となった場合は、反動の売りが出る可能性があります。
野村證券の分析では、自民党の大勝シナリオでは日経平均が年末に5万9,000円台を目指す展開も想定されています。ただし、「高市トレード」の行方はあくまで選挙結果次第であり、複数のシナリオを想定しておく必要があります。
個人投資家が意識すべきポイント
選挙アノマリーに乗じた短期売買は、経験則に基づく有効な戦略ですが、過信は禁物です。今回の相場が示したように、米国発のリスク要因が瞬時に日本市場を直撃する局面は今後も繰り返されます。セクター別の選別眼を持ち、銀行や建設など金利上昇の恩恵を受ける業種と、SaaS関連などAIによる構造変化のリスクを抱える業種を見極めることが重要です。
まとめ
2月6日の日経平均は、800円超の急落から435円高へと劇的に切り返しました。この動きは、衆院選での与党勝利期待と米ハイテク株安というリスクオフ要因の綱引きを如実に映し出しています。
8日の投開票結果が短期的な相場の方向性を決定づける一方で、「SaaSの死」に象徴されるAI時代の産業構造変化は中長期的なテーマとして意識され続けます。選挙アノマリーの恩恵を享受しつつも、グローバルなリスク要因に目を配ったポートフォリオ運営が求められる局面です。
参考資料:
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