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by nicoxz

イラン軍事作戦後の市場展望と投資家の出口戦略

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はじめに

2026年2月28日、米国とイスラエルは「Operation Epic Fury(壮絶な怒り作戦)」と名付けた大規模軍事作戦をイランに対して開始しました。イラン国営メディアが最高指導者ハメネイ師の死亡を伝えるなど、事態は急展開しています。

週明け3月2日の米株式市場では、金や原油などの商品相場が急騰する一方、株式相場は一進一退を繰り返しました。ダウ工業株30種平均は前週末比73ドル(0.15%)安で終わり、市場全体に「紛争の出口」を探る動きが広がっています。

本記事では、イラン紛争をめぐる市場の反応と、投資家が想定する複数のシナリオ、そして今後の原油価格見通しについて解説します。

週明け市場の反応:セクターごとに明暗

防衛・エネルギー株が急伸

紛争勃発を受けて、防衛関連株は軒並み大幅上昇しました。ロッキード・マーティンは6%高、ノースロップ・グラマンは5%高と堅調に推移しました。ドローンメーカーのエアロバイロンメントは10%以上の急騰を記録しています。

エネルギーセクターも同様に買いが集まりました。エクソンモービルとシェブロンがそれぞれ約4%上昇し、コノコフィリップスも5%以上の上昇を見せています。イランからの原油供給が途絶える懸念と、ホルムズ海峡の緊張が価格を押し上げる要因となりました。

景気敏感株は売り優勢

一方で、半導体や機械、自動車などの景気敏感株には売りが先行しました。紛争の長期化による世界経済への悪影響を織り込む動きが見られます。

CBOE(シカゴ・オプション取引所)のボラティリティ指数(VIX)は取引開始直後に18%急上昇し、市場全体の不安心理を反映しました。ただし、一部のアナリストは「先物市場がイラン紛争に過剰反応しており、S&P500が2026年の安値圏に近づいた今が買い場になる可能性がある」との見方を示しています。

投資家が注目する3つの出口シナリオ

シナリオ1:短期決着型(原油+10ドル程度)

最も楽観的なシナリオは、軍事衝突が2025年6月の前回の紛争と同程度の規模で収束するケースです。この場合、原油価格の上昇は1バレルあたり10ドル程度にとどまると見られています。

ハメネイ師亡き後のイラン体制が早期に安定し、ホルムズ海峡の封鎖が解除されれば、市場は比較的短期間で正常化する可能性があります。一部の投資家はすでにこのシナリオを前提に、紛争後のリバウンドを狙った買いポジションを構築し始めています。

シナリオ2:長期化型(原油87ドル超)

軍事衝突が長期化し、中東地域全体が軍事的リスクに直面する場合のシナリオです。原油価格は2024年のピークである1バレル87ドル付近まで上昇すると想定されています。

この場合、イランの報復攻撃がサウジアラビアやUAEなど周辺国のエネルギーインフラに及ぶリスクが高まります。実際に、世界最大のLNG(液化天然ガス)施設とサウジアラビア最大の製油所がイランのミサイル・ドローン攻撃で閉鎖に追い込まれたとの報道もあり、このシナリオの現実味は増しています。

シナリオ3:全面封鎖型(原油140ドル超)

最も悲観的なシナリオは、イランがホルムズ海峡の完全封鎖を長期間維持する場合です。原油価格はリーマンショック前の2008年に記録した過去最高値の1バレル140ドルまで上昇する可能性があります。

ホルムズ海峡は世界の石油供給の約2割が通過する要衝であり、完全封鎖となれば日量2,000万バレルの原油が市場から消えることになります。BloombergNEFは、イラン情勢の混乱により2026年後半に原油価格が91ドルに達する可能性があるとの予測を発表しています。

原油市場の構造と長期見通し

足元の価格動向

北海ブレント原油は、イラン攻撃前日の2月27日時点で1バレル73ドルでしたが、3月1日には78ドルまで急上昇しました。CNBCの報道によれば、ホルムズ海峡の封鎖報道を受けてさらなる上昇圧力がかかっています。

J.P.モルガンは当初、2026年のブレント原油平均価格を約60ドルと予測していましたが、イラン紛争により予測の前提が大きく変わっています。ただし同社は「原油供給への長期的な途絶は起きにくい」との見方も併せて示しています。

紛争終結後の見通し

歴史的に見ると、主要産油国で政権交代が起きた場合、原油価格は70%以上上昇する傾向があります。しかし、世界の原油市場は構造的に供給過剰の状態にあるため、今回の価格急騰は循環的・一時的なものにとどまる可能性が高いとの分析もあります。

一部の市場関係者は、2027年以降に構造的な価格下落が始まる確率が高いと見ており、紛争終結後の「正常化」を見越した中長期的な投資戦略を模索しています。

注意点・展望

見通しの不確実性

現時点では、紛争がどの程度続くのか、終結後のイランの政治体制がどうなるのかは不透明です。市場はまさに「出口」を手探りで探している状況であり、投資判断には慎重さが求められます。

カナダロイヤル銀行(RBC)のアナリストは、イスラエルとイランの紛争がS&P500の20%下落を引き起こす可能性があるとの分析を発表しており、楽観的なシナリオに偏りすぎないことが重要です。

日本市場への波及

日本の原油輸入は9割以上を中東に依存しており、ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、エネルギー価格と物流コストの上昇を通じて日本経済にも深刻な影響が及びます。野村総合研究所は、原油価格上昇がインフレ加速と円安をもたらす可能性を指摘しています。

まとめ

米国・イスラエルのイラン攻撃後、市場では防衛株・エネルギー株が急騰する一方、景気敏感株は軟調となり、投資家の間では紛争の「出口」を見据えた戦略転換が進んでいます。

原油価格は短期決着なら+10ドル程度、長期化なら87ドル超、ホルムズ海峡完全封鎖なら140ドル超と、3つのシナリオが想定されています。構造的に供給過剰の原油市場において、今回の価格上昇は一時的との見方もありますが、地政学リスクの不確実性が高い現在、過度な楽観・悲観のどちらにも偏らない冷静な判断が求められます。

今後はイラン国内の政治体制の安定化、ホルムズ海峡の通行再開時期、そして周辺国のエネルギーインフラの復旧状況が、市場の方向性を左右する重要な指標となるでしょう。

参考資料:

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