信用買い残5兆円突破、金利上昇が日本株需給に与える影響
はじめに
日本株市場が最高値圏で推移する中、需給面で大きな変化の兆しが見え始めています。特に注目されているのが、20年ぶりの高水準に積み上がった信用買い残です。
2026年1月時点で、東京・名古屋2市場の信用買い残高は5兆円台に達し、2006年6月以来約19年7ヶ月ぶりの高水準となりました。日銀が断続的な利上げを進める中、投資家の金利負担は着実に増加しており、これが将来的に売り圧力へ転じる可能性が指摘されています。
本記事では、信用買い残の現状と金利上昇の関係、そして日本株市場の需給がどのように変化していくのかを解説します。
信用買い残が20年ぶり高水準に達した背景
2020年以降の株高と信用取引の拡大
2020年春のコロナショック後、日本株市場は力強い上昇トレンドを描いてきました。この株高をけん引した原動力の一つが信用買いです。
低金利環境が長く続いたことで、投資家は借入コストを抑えながらレバレッジを効かせた投資を行うことができました。日経平均株価が上昇を続ける中、信用買いで利益を得た成功体験が積み重なり、信用買い残は着実に膨らんでいきました。
5兆円台の信用買い残が意味するもの
2026年1月23日時点で、信用買い残(制度信用と一般信用の合計)は5兆1161億円に達しています。これは2006年6月以来の高水準です。
ただし、市場環境は当時と大きく異なります。2006年当時の東証1部の時価総額は約500兆円でしたが、現在のプライム市場の時価総額は約1200兆円まで拡大しています。時価総額に対する比率で見れば、同じ5兆円でも相対的な影響度は異なるという見方もあります。
しかし、絶対額として5兆円を超える信用買い残が存在することは、潜在的な売り圧力として無視できない規模であることに変わりありません。
日銀の利上げと投資家の金利負担
政策金利0.75%時代の到来
日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後も断続的に利上げを実施してきました。2025年1月には政策金利を0.5%に引き上げ、同年12月には0.75%への追加利上げを決定しました。
政策金利のターミナルレート(到達点)は1.00〜1.25%と予想されており、今後1年程度でさらに0.50〜0.75%程度の利上げが見込まれています。短期金利は2008年以来となる1%台への上昇が視野に入っています。
信用取引コストの上昇
政策金利の上昇は、信用取引における投資家の金利負担に直結します。信用買いでは、証券会社から借りた資金に対して「買方金利」が発生します。
主要証券会社の買方金利は既に上昇傾向にあります。例えば、野村證券は2026年1月から制度信用取引の買方金利を2.22%から2.38%に引き上げました。SMBC日興証券では制度信用が年利2.97%、一般信用が年利3.47%となっています。
これらのコスト上昇は、信用買いのポジションを長期保有する投資家にとって大きな負担となります。
需給バランス変化のシナリオ
金利上昇による信用買い残の解消圧力
金利負担が増加すると、投資家は信用買いのポジションを維持することのコストパフォーマンスを再考せざるを得なくなります。特に、含み益が小さいポジションや、長期保有しているポジションほど、金利コストの影響を受けやすくなります。
信用買い残が解消に向かう場合、それは株式の売り圧力として市場に作用します。5兆円規模の信用買い残が急速に解消されれば、需給バランスは大きく崩れる可能性があります。
コール市場の変調と短期金融市場
金融機関が短期資金を貸し借りするコール市場にも変調の兆しが見られます。2024年3月のマイナス金利解除以降、コール市場の金利はプラス圏に転じ、現在は政策金利に連動して上昇しています。
短期金融市場全体の金利上昇は、証券会社の資金調達コストにも影響を与え、最終的には投資家が負担する信用取引金利のさらなる上昇につながる可能性があります。
追証発生リスクの高まり
金利上昇局面では、株価調整が起きた場合の追証(追加証拠金)発生リスクも高まります。信用取引では、委託保証金が最低保証金率を下回った場合、追加の保証金を差し入れる必要があります。
株価下落と金利コスト増加が同時に進むと、投資家の含み損が拡大し、追証発生の可能性が高まります。追証が発生すると、投資家は保証金を追加するか、ポジションを解消するかの選択を迫られ、後者を選ぶ場合は売り圧力となります。
注意点・展望
過度な悲観は禁物
信用買い残の高水準は潜在的なリスク要因ですが、即座に株価下落につながるわけではありません。時価総額に対する比率で見れば、過去と比較して相対的な影響度は低下しているという見方もあります。
また、日銀は株式市場への配慮姿勢を強めており、急激な利上げは避ける可能性が高いと見られています。金利上昇のペースが緩やかであれば、信用買い残の解消も段階的に進み、市場への影響は限定的となる可能性があります。
2026年の日本株見通し
野村證券は2026年末の日経平均株価について、メインシナリオで55,000円を予想しています。脱デフレの「転換点」が鮮明になる中、日本株の中長期的な上昇トレンドは継続するとの見方が主流です。
一方、リスクシナリオとしては、AI投資の失速、関税リスクの再燃、コーポレートガバナンス改革の後退などが挙げられています。これらのリスクが顕在化した場合、日経平均株価は48,000円程度まで下振れする可能性もあります。
まとめ
日本株市場で信用買い残が20年ぶりの高水準に達しています。日銀の利上げにより投資家の金利負担は増加傾向にあり、今後の需給バランスに影響を与える可能性があります。
投資家としては、信用取引のコスト上昇を意識しながら、ポジション管理を見直す必要があるでしょう。特に長期保有の信用買いポジションについては、金利コストと期待リターンのバランスを再評価することが重要です。
金利上昇局面における株式投資では、需給動向に注意を払いながら、中長期的な視点で投資判断を行うことが求められます。
参考資料:
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