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by nicoxz

イラン有事で原油急騰、「遠くの戦争は買い」通じず

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はじめに

米国とイスラエルによるイラン攻撃から1週間あまりが経過しました。戦闘の早期終結への期待が後退する中、世界の金融市場では原油高と株安・債券安が進行しています。WTI原油先物は攻撃開始から約66%急騰し、一時1バレル110ドルを超えました。

株式市場では「遠くの戦争は買い」という古くからの格言が通用しない事態となっています。エネルギーの大半を中東からの輸入に依存する日本では、原油高の影響が特に深刻です。過去の地政学イベントとの比較を交えながら、今回の有事が市場に与える影響を分析します。

「遠くの戦争は買い」が通じない構造的理由

伝統的な格言の前提が崩壊

「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」は、株式投資における古典的な格言です。自国から遠い場所で起きた紛争は直接的な被害が少なく、むしろ軍需による景気刺激で株価が上昇する——という経験則に基づいています。第一次世界大戦では、戦場から離れた米国や日本が「戦争特需」の恩恵を受けました。朝鮮戦争(1950〜1953年)でも、日本は特需景気で高度経済成長の足がかりをつかみました。

しかし今回のイラン有事では、この格言が通用していません。理由は明確です。中東は世界のエネルギー供給の要衝であり、紛争が原油の供給そのものを脅かしているからです。ロシアのウクライナ侵攻(2022年)の際にも、「遠くの戦争」が世界的なインフレを引き起こし、株価下落を招いたことは記憶に新しいところです。

原油供給懸念が長引く局面は特に危険

過去の地政学イベントを振り返ると、原油の供給懸念が強まった局面では市場の動揺が長期化する傾向があります。1973年のオイルショックでは原油禁輸が世界経済を大きく揺るがしました。1990年の湾岸危機でも、クウェート侵攻に伴う供給不安が原油価格の急騰を招きました。

今回のイラン有事は、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥っている点で、過去の事例よりも深刻な側面を持っています。

原油市場の急騰と今後のシナリオ

66%急騰——40年ぶりの上昇スピード

2026年2月28日の攻撃開始以降、原油価格は急激に上昇しました。WTI原油先物は攻撃前の約66ドル台から一時110ドルを超え、わずか1週間あまりで約66%の上昇を記録しています。これは40年以上ぶりの急騰スピードです。

ブレント原油先物も同様に114ドル台まで上昇しました。一部のアナリストは、ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば原油価格は120〜130ドルに達する可能性を指摘しています。130ドルは過去最高水準に近い水準です。

ホルムズ海峡封鎖の深刻さ

ホルムズ海峡は、世界の海上原油輸送の約4分の1、LNG(液化天然ガス)の約5分の1が通過する要衝です。1日あたり約2,000万バレルの原油が同海峡を経由しており、これは世界の1日あたり生産量の約2割に相当します。

攻撃後、同海峡の通航量は約7割減少したと報じられています。代替ルートの確保には時間がかかり、供給不安は短期間で解消される見通しが立っていません。

日本経済への影響——エネルギー輸入国の脆弱性

中東依存度の高さが直撃

日本は原油輸入の約9割を中東地域に依存しています。ホルムズ海峡を通る原油の約84%、LNGの約83%がアジア市場向けであり、日本は最も影響を受ける国の一つです。

原油価格の急騰は、ガソリン価格や電気料金の上昇を通じて家計を直撃します。物流コストの増加は幅広い商品・サービスの価格に転嫁され、インフレ加速の懸念が高まっています。

GDP押し下げの試算

専門家の試算によれば、原油価格が130ドルまで上昇する最悪のケースでは、日本の実質GDPが1年目に0.58%、2年目に0.96%押し下げられる可能性があります。貿易赤字の拡大は実需の円売りを加速させ、円安が輸入物価の上昇をさらに増幅するリスクもあります。

日本には254日分の石油備蓄がありますが、これはあくまで緊急時の時間稼ぎに過ぎません。長期的な供給途絶に耐えられるものではなく、早期の事態収束が求められます。

日本株市場の動揺

日経平均株価は中東地政学リスクの継続により続落基調にあります。特に打撃が大きいのは、化学・空運・物流など原油コストの影響を直接受けるセクターです。半導体や機械、自動車など景気敏感株にも売りが広がっています。

一方、防衛関連株やエネルギー株には買いが集まる場面もあり、セクター間での明暗が分かれています。企業にとって重要なのは、高騰したコストをどれだけ価格に転嫁できるかという「利益転嫁力」であり、その差が今後の株価パフォーマンスを左右するでしょう。

注意点・展望

今後の市場動向を左右する最大の要因は、紛争の期間と原油供給への影響度です。ゴールドマン・サックスは、市場は約4週間で紛争が収束するシナリオを織り込んでいると分析しています。この想定を超えて紛争が長期化すれば、原油価格のさらなる上昇と株価下落が進む可能性があります。

モルガン・スタンレーは、イラン紛争の長期化が原油価格の高止まり、インフレの再加速、市場の不確実性拡大につながると警告しています。特に原油が100ドルを超える水準が定着すれば、世界経済への影響は「質的に異なる」ものになるとの指摘があります。

個人投資家にとっては、パニック売りを避け、冷静にポートフォリオを見直すことが重要です。エネルギー輸入国の通貨(円を含む)が売られやすい環境では、外貨建て資産や資源関連銘柄の保有比率の確認も検討に値します。

まとめ

今回のイラン有事は、「遠くの戦争は買い」という伝統的な相場格言が通用しない典型的なケースです。ホルムズ海峡の封鎖に伴う原油供給不安が世界的な株安を引き起こし、エネルギー輸入に依存する日本は特に大きな影響を受けています。

原油価格の動向と紛争の行方が今後の市場を左右する最大の変数です。投資家は短期的な価格変動に振り回されず、中長期的な視点でリスク管理を行うことが求められます。

参考資料:

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