中東情勢の混迷で市場動揺、識者が読む今後の展望
はじめに
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの軍事作戦を開始して以来、中東情勢は急速に混迷を深めています。原油価格は1バレル110ドル台に急騰し、世界の株式市場は大きく動揺しました。日経平均株価は3月9日に2892円安と過去3番目の下げ幅を記録し、投資家の間ではリスク回避姿勢が一段と強まっています。
この記事では、中東紛争の現状と今後の見通し、そして金融市場への影響について、複数の専門家や機関の分析を整理し、投資家が知っておくべきポイントを解説します。
中東紛争の現状と長期化リスク
軍事衝突の経緯
2月28日に米国とイスラエルがイラン国内の軍事施設や指導部関連施設への空爆を実施しました。この攻撃によりイランの最高指導者ハメネイ師が死亡したと報じられています。イランはこれに対し、イスラエルや米軍が駐留する周辺国にミサイルとドローンで報復攻撃を行いました。
紛争は当初の想定を超えて拡大しており、サウジアラビアやイラク、UAE周辺にも影響が波及しています。米国はサウジアラビアの在留スタッフに退避命令を出すなど、事態の深刻さが増しています。
「消耗戦」を狙うイラン
専門家の間では、イランが「消耗戦」戦略を採っているとの見方が広がっています。米国やイスラエルに対して軍事力で正面から対抗するのではなく、紛争を長引かせることで経済的な打撃を与え、欧米側の戦意を削ぐ狙いがあるとされます。
イランの新体制がどのような方針を打ち出すかは依然として不透明であり、即時停戦を否定する発言も報じられています。このことが「紛争長期化」への懸念を一層強めています。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖
紛争の影響で最も深刻なのが、ホルムズ海峡の通航停止です。世界の原油消費量の約20%がこの海峡を通過していますが、イランが海峡の閉鎖を宣言して以降、タンカーの通航は事実上ストップしています。
カタールエナジーは世界最大級のLNG(液化天然ガス)輸出施設の操業を停止しており、エネルギー供給への懸念は原油だけにとどまりません。三井住友DSアセットマネジメントは、ホルムズ海峡の封鎖長期化が日本のエネルギー安全保障に深刻な影響を及ぼすと警告しています。
原油価格と金融市場の見通し
原油価格のシナリオ分析
原油価格は米国産WTI先物が一時1バレル110ドル台を記録し、2022年7月以来の高値をつけました。ブレント原油も一時119ドル台まで上昇しています。日本総研の分析では、今後の原油価格について以下のようなシナリオが示されています。
標準シナリオでは、紛争が比較的早期に収束し、原油価格は80ドル前後に落ち着くとされます。リスクシナリオでは、紛争が長期化し120ドル程度まで上昇する可能性があります。さらに最悪シナリオとして、ホルムズ海峡の封鎖が長期化した場合、140ドルに急騰し、日本のGDPを3%押し下げるリスクも指摘されています。
CNBCの報道では、アナリストが「原油価格の上限は見えない(sky is the limit)」と警告しており、供給懸念が解消されない限り、さらなる上昇の可能性があるとしています。
株式市場への影響
日経平均株価は3月9日に前週末比2892円安(5.20%)の5万2728円で取引を終え、一時は4200円超の下落で5万1400円台まで急落しました。2月末につけた史上最高値からわずか10日余りで1割以上の下落となっています。
東京市場では株式、債券、円のすべてが売られる「トリプル安」が発生しました。これは日本経済固有のリスク、つまりエネルギーの海外依存度の高さが改めて意識されたためです。
米国市場でもS&P500が0.95%安、ナスダックが1.02%安、ダウが0.83%安と下落。航空株やエネルギー消費型のセクターが特に大きく売られています。
「スタグフレーション」リスク
市場関係者が最も警戒しているのが、スタグフレーション(景気後退とインフレの同時進行)の発生です。原油高騰により企業のコストが増加し、電気代やガソリン代の上昇が消費を圧迫する一方で、インフレが加速すればFRB(米連邦準備制度理事会)は利下げに動けなくなります。
野村アセットマネジメントは、エネルギー価格の高騰が企業収益を直撃するだけでなく、消費者心理の悪化を通じて景気全体を冷え込ませるリスクがあると指摘しています。CNBCも、今回の紛争が各国中央銀行にとって新たな試練となると報じています。
注意点・展望
過度な悲観は禁物か
一方で、「株は売られすぎ」との見方もあります。JPモルガン証券は「情勢が晴れれば買いが入りやすい」との見解を示しています。過去の地政学リスクによる急落局面では、紛争の見通しが立った段階で株価が急回復するケースが多かったことが根拠です。
ただし、今回の紛争はホルムズ海峡の封鎖という実体経済への直接的な打撃を伴っている点で、過去のケースとは異なる面もあります。Allianzのレポートでは、紛争の規模と期間によって市場への影響が大きく異なる複数のシナリオが提示されています。
投資家が注目すべきポイント
今後の市場動向を左右するのは、以下の3点です。第一に、紛争の収束時期とその形態です。即時停戦か長期化かで原油価格の方向性が大きく変わります。第二に、ホルムズ海峡の通航再開の見通しです。これがなければ原油供給の正常化は期待できません。第三に、各国中央銀行の政策対応です。インフレと景気後退の板挟みの中で、金融政策の舵取りが問われます。
まとめ
中東情勢の緊迫化は、原油価格の急騰を通じて世界の金融市場に大きな動揺をもたらしています。紛争の長期化リスクは依然として高く、ホルムズ海峡の封鎖が続く限りエネルギー供給への懸念は解消されません。
投資家にとっては、過度な悲観に陥らず冷静に情勢を分析しつつも、リスク管理を徹底することが重要です。紛争の推移、原油価格の動向、各国の政策対応を注視しながら、慎重な投資判断を心がけるべき局面といえます。
参考資料:
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