日伊首脳が「不公正な経済慣行に対抗」で連携強化へ
はじめに
2026年1月16日、高市早苗首相とイタリアのジョルジャ・メローニ首相が東京で首脳会談を行います。この会談は、日伊外交関係樹立160周年という節目の年に実現するもので、両首相は会談に先立ち「不公正な経済慣行に対抗する」という強いメッセージを共同寄稿として発表しました。
世界経済が地政学的な緊張にさらされる中、G7の主要メンバーである日本とイタリアが経済安全保障で足並みを揃えることの意味は大きいです。本記事では、両首脳の共同寄稿の背景と、日伊関係がどのような方向に向かおうとしているのかを解説します。
日伊関係160周年の歴史的意義
1866年から始まった外交関係
日本とイタリアの外交関係は、1866年8月に日伊修好通商条約が締結されたことで正式に始まりました。当時、両国は技術革新と国際競争が激化する時代において、それぞれ近代化の道を歩み始めていました。
外務省によると、2026年は日伊外交関係開設の歴史的出来事を記念する節目の年として位置づけられています。この機会に相手国との積極的な交流を通じ、関係が更に強化されることが期待されています。
2人の女性首相という共通点
高市首相とメローニ首相には、男性中心の政治の世界で女性保守派としてイメージを確立したこと、世襲ではないたたき上げ政治家であること、家族を重視する伝統的価値観の持ち主であることなど、共通点が少なくありません。
2025年11月に南アフリカで開催されたG20サミットでは、両首脳が抱擁する場面が話題となり、個人的な信頼関係の深さが注目されました。この信頼関係が、今回の共同寄稿という異例の形での連携表明につながっています。
「不公正な経済慣行」の意味するもの
G7が直面する中国依存問題
両首相が言及する「不公正な経済慣行」とは、主に中国による経済的な影響力の行使を指していると考えられます。2026年1月にワシントンで開催されたG7財務相会議でも、サプライチェーンの多様化が主要議題となりました。
現在、レアアースから電池用金属に至るまで、G7諸国の多くが中国への依存度を高めています。中国は2026年1月、日本企業に対する戦略的レアアースおよびレアアース含有永久磁石の輸出制限を開始しており、経済安全保障上の脆弱性が顕在化しています。
イタリアの「一帯一路」離脱という決断
メローニ首相率いるイタリア政府は、2023年12月に中国の「一帯一路」構想からの離脱を正式に通知しました。イタリアは2019年にG7メンバーとして唯一この構想に参加していましたが、期待した経済効果が得られなかったことが離脱の理由です。
タヤーニ副首相兼外務相は「一帯一路について貿易や投資の点で満足できる成果はない」と指摘しています。イタリア産業総連盟も「参画していない国の方が利益を得ている」と離脱を支持しました。この経験が、メローニ首相の「不公正な経済慣行への対抗」という姿勢に反映されています。
次期戦闘機共同開発GCAPの進展
日英伊3カ国による第6世代戦闘機開発
今回の首脳会談では、日英伊3カ国で進める次期戦闘機開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」も主要議題となる見通しです。この計画は2035年の配備を目指す第6世代戦闘機の共同開発プロジェクトです。
2025年7月には、三菱重工業系のJAIEC、英BAEシステムズ、伊レオナルドによる合弁企業「GIGO」が英レディングで正式に発足しました。トップには岡真臣元防衛審議官が就任し、設計・開発を担う「エッジウィング」も同年6月に設立されています。
電子装備・エンジン開発体制の整備
2025年9月には、英レオナルドUK、伊レオナルド、伊ELTグループ、三菱電機の4社が新たなコンソーシアム「G2E」を立ち上げ、センサーと通信分野の開発体制を整えました。エンジン開発についても、英ロールス・ロイス、伊アヴィオエアロ、IHIの3社が国際共同体制への移行を発表しています。
GCAPは、米国を介さない日欧の防衛協力の象徴的なプロジェクトとして注目されています。この枠組みが成功すれば、日本とイタリアの安全保障協力の基盤がさらに強化されることになります。
G7における経済安全保障の取り組み
重要鉱物サプライチェーンの多様化
G7は2025年、カナダ主導で「重要鉱物アクションプラン」を立ち上げ、中国以外からの供給源確保に動き出しました。同年10月までに26の新規プロジェクトとパートナーシップが発表され、64億ドル以上の投資が動員されています。
これらのプロジェクトには、日本やEUが引き取り先となるカナダの黒鉛鉱山や、ドイツと米国の支援を受けるオンタリオ州でのレアアース精製施設などが含まれています。
「デカップリング」ではなく「デリスキング」
G7諸国は中国との完全な分離(デカップリング)ではなく、リスク軽減(デリスキング)を基本方針としています。中国は重要鉱物の供給と精製で圧倒的なシェアを持っており、急激な関係断絶は世界経済に大きな混乱をもたらすためです。
ただし、2025年9月のG7技術会議では、中国への対応を巡って意見の相違も見られました。厳格な調達ルールを求める声と、中国を刺激することへの懸念との間で各国の立場は分かれています。
今後の展望と注意点
首脳会談で予想される成果
今回の日伊首脳会談では、経済安全保障面での連携強化を柱とする共同声明が発表される見通しです。覇権主義的動きを強める中国やウクライナ侵攻を続けるロシアを念頭に、両国の協力関係を具体化する内容になると予想されます。
また、GCAPの進捗確認や、G7議長国としての連携(イタリアは2024年、日本は将来の議長国として)についても議論されるでしょう。
注意すべき課題
一方で、GCAPへのサウジアラビア参画問題では日伊間で温度差があります。英伊両国はサウジの参加に前向きですが、日本は参加国増加による協議の長期化を懸念しています。こうした個別課題での調整も今後の重要なポイントとなります。
また、「不公正な経済慣行への対抗」が具体的にどのような政策につながるのかも注目されます。言葉だけでなく実効性のある施策が伴うかどうかが、今後の日伊協力の真価を問うことになるでしょう。
まとめ
高市首相とメローニ首相による共同寄稿は、日伊関係160周年という節目に両国が経済安全保障で連携を深める意志を明確に示したものです。G7の結束強化、次期戦闘機GCAPの推進、中国依存からの脱却といった課題に、両国は同じ方向を向いて取り組む姿勢を打ち出しています。
2人の女性首相が築いた個人的な信頼関係が、両国関係の発展にどのような影響をもたらすのか。今回の首脳会談とその後の具体的な成果に注目が集まります。
参考資料:
関連記事
日伊首脳会談で防衛・重要鉱物協力を強化へ
高市首相とメローニ首相が会談し、次期戦闘機GCAPの開発加速や重要鉱物サプライチェーンの強化、宇宙協力の新協議体設置で合意しました。中国の対日輸出規制が強まる中、同志国連携の重要性が高まっています。
G7がレアアース脱中国で結束、最低価格制度も検討へ
G7と資源国の財務相がワシントンで会合を開き、レアアースなど重要鉱物の中国依存低減で一致しました。中国の対日輸出規制が強化される中、最低価格制度の導入や新市場創設など具体策の検討が進んでいます。
中国の輸出規制と経済的威圧の全体像を読み解く
中国が他国への政治的圧力として活用する経済的威圧の手法を解説。2010年のレアアース禁輸から2026年の対日輸出規制強化まで、その歴史的変遷と各国の対応策を多角的に分析します。
中国の対日経済威圧は逆効果か、脱依存が加速
中国が日本企業20社への輸出規制を発動。レアアースを武器にした経済的威圧の実態と、日本のサプライチェーン再構築・代替技術開発の動きを詳しく解説します。
ラピダス官民出資2676億円、政府が筆頭株主に
最先端2nm半導体の量産を目指すラピダスに政府が1000億円を出資し筆頭株主に。議決権を1割強に抑えつつ黄金株で経済安保リスクに備える仕組みを解説します。
最新ニュース
中国全人代を前に習近平の軍粛清が止まらない理由
3月の全人代開催を控え、習近平政権による軍高官の粛清が加速しています。張又侠の失脚、100人超の将校排除の背景と、人民解放軍への深刻な影響を解説します。
「ECの死」到来か、AIショッピングエージェントの破壊力
「SaaSの死」に続き「ECの死」が叫ばれています。AIショッピングエージェントがECビジネスをどう変えるのか、AmazonとWalmartの異なる戦略から読み解きます。
ハイアット東京を1260億円で取得、REIT最大規模
ジャパン・ホテル・リートがハイアットリージェンシー東京を国内REIT史上最大の1260億円で取得。好調なインバウンド需要を背景に、ホテル投資市場が過去最高を更新する中での大型案件を解説します。
メキシコが週40時間労働へ憲法改正、残業超過で3倍賃金の衝撃
メキシコが週40時間労働への憲法改正を承認。残業超過で3倍賃金の義務化が日本企業の製造拠点に与える影響と対応策を、段階的スケジュールとともに解説します。
楽天グループが金融3社統合へ、10月めど再編の全容
楽天グループが楽天銀行・楽天カード・楽天証券の金融3社を2026年10月をめどに統合する再編計画を発表。金利上昇時代の競争激化を背景に、エコシステム強化とコスト削減を狙う大型再編の詳細と課題を解説します。