日伊首脳会談で防衛・重要鉱物協力を強化へ
はじめに
2026年1月16日、高市早苗首相とイタリアのジョルジャ・メローニ首相が首相官邸で会談を行いました。両首脳は安全保障、経済安全保障、宇宙開発など幅広い分野での協力強化で合意し、両国関係を「特別な戦略的パートナーシップ」に格上げすることを発表しています。
今回の首脳会談は、中国による対日レアアース輸出規制の強化や、インド太平洋地域の安全保障環境の厳しさが増す中で行われました。日本とイタリアが同志国として連携を深める意義と、具体的な協力内容について解説します。
次期戦闘機GCAPの開発加速
日英伊3カ国による第6世代戦闘機開発
今回の会談で特に注目されるのが、次期戦闘機の共同開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」の加速です。GCAPは日本、イギリス、イタリアの3カ国が進める第6世代ジェット戦闘機の開発計画で、航空自衛隊のF-2戦闘機の後継機となります。
2035年までの配備開始を目指しており、2030年をめどに初飛行を実施する計画です。防衛省は2026年度予算の概算要求で開発費として2066億円を計上しています。
開発体制の確立
GCAPの開発体制は着実に整備が進んでいます。2025年7月には、プログラム全体を統括する政府間機関「GIGO」がイギリスのレディングで正式に発足しました。トップには岡真臣元防衛審議官が就任しています。
機体の開発は三菱重工業、イギリスのBAEシステムズ、イタリアのレオナルドの3社が担当します。エンジン部分はIHI、ロールスロイス、アビオが、電子システムは三菱電機を含む4社共同開発体制で進められています。
米国F-35を上回る能力を目指す
GCAPで開発される戦闘機は、米国のF-35など現行の最新鋭戦闘機を上回る能力を持つ第6世代機として設計されています。高いステルス性能に加え、無人機との連携運用や高度なネットワーク機能が特徴となる予定です。
米国抜きの枠組みで次世代戦闘機を開発することは、日本の防衛産業基盤の強化にもつながります。技術の自律性を確保しつつ、同盟国との協力関係を維持するバランスが求められています。
重要鉱物サプライチェーンの強化
中国依存からの脱却が急務
両首脳は重要鉱物のサプライチェーン強靭化が「急務」との認識で一致しました。この背景には、中国による対日輸出規制の強化があります。
中国商務部は2026年1月6日、日本に対する軍民両用(デュアルユース)品目の輸出管理強化を発表しました。この措置により、レアアースを含む戦略物資の対日輸出が制限されています。当初は「民生用への影響はない」とされていましたが、実際には民生用も含めて審査が厳格化され、輸出許可が滞る事態となっています。
日本のレアアース中国依存度
日本のレアアース輸入における中国依存度は、2010年の尖閣問題時の約90%から現在は約60%まで低下しています。しかし、電気自動車(EV)用モーターに不可欠なネオジム磁石の補助材料であるジスプロシウムやテルビウムは、依然としてほぼ100%を中国に依存しています。
野村総合研究所の試算によれば、レアアース輸出規制が3カ月続いた場合の経済損失は約6600億円(GDP比0.11%)、1年間続いた場合は約2.6兆円(GDP比0.43%)に達するとされています。
同志国連携による供給網構築
日本とイタリアは、2022年に発足した「鉱物資源安全保障パートナーシップ(MSP)」の加盟国でもあります。米国主導のこの枠組みには、日本、イタリアのほか、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、韓国などが参加しています。
両国は今後、MSPの枠組みも活用しながら、中国以外からの調達ルート確保や代替技術の開発で協力していく方針です。高市首相は会談後、有事の際のLNG(液化天然ガス)融通に関する協力も進めると明言しました。
宇宙分野での新たな協議体設置
日伊宇宙協議の発足
両首脳は宇宙分野での協力強化に向け、新たな協議体「宇宙協議」を設置することで合意しました。共同声明では「宇宙空間の平和的で、責任ある、持続可能な利用」について言及されています。
具体的な協力分野としては、人工衛星の開発や宇宙ごみ(デブリ)の除去技術などが挙げられています。宇宙開発で米中の競争が激化する中、技術力を共有する同志国間の連携を深める狙いがあります。
イタリア宇宙産業の実力
イタリアは欧州宇宙機関(ESA)の中核国であり、衛星、ロケット、地上運用といった宇宙産業の主要領域を自国企業で幅広くカバーしています。2022年12月にはESA閣僚級会合で31億ユーロの拠出を発表し、2026年までに宇宙分野へ合計約73億ユーロの投資を予定しています。
日本とイタリアはともに民生と安全保障の両立を重視しており、国際的な枠組みの中で宇宙開発を進めてきた点で共通しています。両国の協力は、宇宙空間における中国の急速な台頭への対抗策としても位置付けられています。
今後の展望と課題
「特別な戦略的パートナーシップ」の意義
高市首相は会談後の共同記者発表で「国際社会が複合的な危機に直面し、インド太平洋地域を取り巻く戦略環境がますます厳しさを増している」と述べ、「同志国の緊密な連携がかつてなく重要」との認識を示しました。
両国関係の「特別な戦略的パートナーシップ」への格上げは、安全保障、経済、経済安保、文化・人的交流など幅広い分野での協力深化を意味します。2026年は日伊外交関係樹立160周年にあたり、記念の年にふさわしい成果となりました。
サウジアラビア参画問題
GCAPについては、サウジアラビアの参画問題が今後の課題として残されています。イタリアのメローニ首相は2025年1月にサウジアラビアの参画への支持を表明していますが、日本は参加国増加による協議の長期化や人道上の懸念から慎重な姿勢を維持しています。
経済的威圧への対応
中国による経済的威圧への対応は、今後も日伊両国にとって重要な課題です。特にレアアースについては、調達先の多様化、リサイクル技術の向上、代替材料の開発など、複合的なアプローチが必要となります。同志国間の協力強化は、こうした課題に対処するための重要な一歩といえます。
まとめ
今回の日伊首脳会談では、次期戦闘機GCAPの開発加速、重要鉱物サプライチェーンの強化、宇宙分野での協議体新設という3つの柱で具体的な成果が得られました。
中国の対日輸出規制強化やインド太平洋地域の安全保障環境の変化を受け、同志国との連携強化は日本にとって不可欠な外交課題となっています。イタリアとの「特別な戦略的パートナーシップ」構築は、こうした課題に対応するための重要な一歩です。
今後は、合意された協力内容を着実に実行に移していくことが求められます。特にGCAPの開発については、2035年の配備開始に向けて各国の産業界との連携強化が鍵を握ります。
参考資料:
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