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by nicoxz

日本がマレーシアにレアアース精錬技術を支援、ODAで供給網多角化へ

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はじめに

日本政府は、マレーシアに対するレアアース(希土類)の採掘・精錬に関する技術支援を本格的に開始しました。政府開発援助(ODA)を活用し、地質調査用機材の提供や環境保全型の精錬技術の協力を進めます。

レアアース分野でのODAによる日本・マレーシア間の技術協力は今回が初めてです。国際協力機構(JICA)は2026年2月に事業開始に向けた専門家を現地に派遣しており、中国一極集中の供給構造からの脱却を目指す取り組みが具体化しています。

この記事では、今回の技術支援の具体的な内容、中国のレアアース輸出規制を巡る背景、そして日本の供給網多角化戦略の全体像について解説します。

マレーシアへの技術支援の具体的内容

JICAによる専門家派遣と研修プログラム

JICAは2026年2月、資源地質学や環境化学などの専門家をマレーシアに派遣しました。主な活動拠点はマレー半島中部のペラ州で、同地域にはレアアース鉱床が広く分布しています。

今回の技術協力では、地質を調査する機材の提供に加え、環境保全を重視した精錬技術の移転が柱となります。具体的には、鉱床の地質構造の解析手法、採掘時の環境負荷を低減する技術、そして精錬プロセスの効率化に関するノウハウが含まれます。

さらに、マレーシアから鉱物処理などの技術者約10名を日本に招き、先進的な精錬手法や環境管理の実務研修を実施する計画も進んでいます。日本の技術と知見を直接マレーシアの技術者に伝え、自立的な産業基盤の構築を支援する狙いです。

マレーシアのレアアース鉱床の特性と課題

マレーシアにはレアアースが国内各地に広く分布しており、政府は採掘から製品化まで一貫した産業の国内育成を目指しています。しかし、同国のレアアース鉱床にはいくつかの特殊性があります。

第一に、採掘時に特殊な薬品処理が必要な鉱床が多いことです。第二に、鉱床の多くが熱帯雨林地域に位置するため、環境保全への十分な配慮が不可欠です。過去にはレアアース精錬に伴う放射性廃棄物の問題で住民の反対運動が起きた経緯もあり、環境負荷の低減は産業化の前提条件となっています。

日本の技術支援は、まさにこの課題に応えるものです。環境に配慮した精錬技術を提供することで、マレーシアのレアアース産業を持続可能な形で発展させることが期待されています。

中国のレアアース輸出規制と日本の危機感

2026年1月の対日輸出規制強化

中国政府は2026年1月6日、デュアルユース品(軍民両用品)について日本への輸出管理を厳格化すると発表しました。レアアースの多くがこの規制対象に含まれる可能性があり、日本の産業界に大きな衝撃を与えました。

この措置は、日本の防衛政策強化に対する牽制としての性格を持つと分析されています。具体的にどの品目が規制対象となるかは中国当局の裁量に委ねられており、日本企業は先行き不透明な状況に置かれています。

精錬・加工段階での中国支配

レアアースの供給問題は、単純な産出国の問題にとどまりません。より本質的な課題は、精錬・加工段階での中国への極端な集中にあります。

2024年時点で中国は世界のレアアース精錬の91.7%を占めており、他国で採掘されたレアアースも中国で精錬されるケースが多い構造です。つまり、採掘地を多角化するだけでは不十分であり、精錬能力の分散化が不可欠です。

みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、レアアース輸入が6か月停止した場合のGDP影響は約マイナス0.3%、1年間停止した場合は約マイナス0.9%に達するとされています。

今回の技術支援の戦略的意義

マレーシアへのODA支援は、まさにこの精錬能力の分散化を目的としています。マレーシアには既に、オーストラリアのライナス社が運営するレアアース精錬工場が稼働しています。日本は2023年3月、約180億円規模の出融資を行い、同工場で精錬される重希土類(ジスプロシウムおよびテルビウム)の最大65%を日本向けに供給する契約を締結しました。

今回のODA支援は、このライナス社のルートに加え、マレーシア自身の精錬能力を高めることで、供給源のさらなる多角化を図る取り組みです。

日本の供給網多角化戦略の全体像

多方面で進む脱中国依存の取り組み

日本はマレーシア以外にも、複数のルートでレアアース供給網の多角化を進めています。

2024年5月には、経済産業省がJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)を通じ、フランスのカレマグ社によるレアアース精錬事業に1億ユーロ(約165億円)を拠出することを決定しました。欧州にも精錬拠点を確保する動きです。

また、南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)の海底では、推定埋蔵量1,600万トンに及ぶレアアース泥が発見されています。2026年1月には、地球深部探査船「ちきゅう」がレアアース泥の採鉱システム接続試験のために出港しており、国産レアアースの実用化に向けた取り組みも進展しています。

ODAの経済安全保障への活用

今回のマレーシア支援は、ODAを経済安全保障の手段として活用する新たな動きの一環です。従来のODAは途上国の開発支援が主目的でしたが、重要鉱物の供給網確保という経済安全保障上の目的にもODAを活用する方針が明確になっています。

マレーシア側もこの協力に前向きな姿勢を示しています。レアアース産業の育成は同国の経済多角化にも資するため、双方にとって利益のある協力関係といえます。

注意点・展望

環境問題と住民合意のハードル

マレーシアでのレアアース産業化には、技術面だけでなく社会的な課題もあります。過去にライナス社の精錬工場を巡って環境汚染への懸念から住民の反対運動が発生した経緯があり、新たな精錬事業の展開には地域住民との丁寧な合意形成が求められます。

中国の対抗措置の可能性

日本による供給網多角化の動きに対し、中国がさらなる対抗措置を講じる可能性も否定できません。レアアースの価格操作や、技術輸出の制限強化など、多角化の動きを牽制する手段は複数考えられます。

実用化までの時間軸

マレーシアのレアアース産業が本格的に稼働するまでには、地質調査、環境影響評価、施設建設など複数の段階を経る必要があります。短期的な供給リスクへの備えとしては、備蓄の充実やリサイクル技術の向上も並行して進める必要があるでしょう。

まとめ

日本によるマレーシアへのレアアース精錬技術の支援は、中国一極集中のサプライチェーンからの脱却を目指す重要な一歩です。ODAという政策ツールを経済安全保障に活用する新たなアプローチであり、マレーシアの産業育成と日本の調達安定化という双方の利益を追求しています。

中国が世界のレアアース精錬の9割以上を支配する現状を踏まえると、供給網の多角化は喫緊の課題です。マレーシア、フランス、南鳥島など複数のルートで取り組みを進めることで、特定国への依存リスクを着実に低減していく必要があります。今後の技術協力の進展と、マレーシアでの事業化の行方に注目が集まります。

参考資料:

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