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by nicoxz

レアアース大国への道:米国第一が生む新貿易圏と日本の戦略

by nicoxz
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はじめに

レアアース(希土類)は、電気自動車(EV)のモーター、風力発電機、スマートフォン、医療機器など現代産業に不可欠な素材です。なかでも重希土類と呼ばれるジスプロシウムやテルビウムは、中国が世界の精製能力の約90%を握る「戦略資源」として知られています。

2026年に入り、トランプ政権の「米国第一」政策はレアアースを含む希少資源にも大きな影響を及ぼしています。55カ国が参加する閣僚級会合の開催、日米首脳会談での南鳥島共同開発合意など、中国依存から脱却するための「新貿易圏」構想が急速に具体化しつつあります。

本記事では、レアアースをめぐる国際的な動きと、日本がどのように供給網の再構築を進めているかを多角的に解説します。

中国のレアアース支配と輸出規制の現実

圧倒的な精製能力の集中

中国のレアアース生産量は2024年に約27万トンに達し、世界全体の約69%を占めています。しかし、より深刻なのは精製・分離工程の集中度です。世界のレアアース精製能力の約91.7%が中国に集中しており、採掘段階で多様化が進んでも、最終的な加工で中国を通らざるを得ない構造が続いています。

特に重希土類は、EVモーターや産業用ロボットに使われる高性能永久磁石に不可欠です。ジスプロシウムやテルビウムの供給はほぼ全量が中国に依存しており、供給途絶のリスクは常に意識されてきました。

段階的に強まる輸出規制

中国は2025年4月から、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7元素について輸出許可制を導入しました。商務部の許可なしには輸出できない仕組みです。

さらに2026年1月6日には、軍民両用(デュアルユース)品目の対日輸出を即日禁止する措置を発表しました。これは日本の防衛政策強化に対する牽制と見られています。野村総合研究所の試算によれば、レアアース輸出規制が3カ月続いた場合の経済損失は約6,600億円に上り、名目GDPを0.11%押し下げる可能性があります。

米国主導の「新貿易圏」構想

55カ国が参加した閣僚級会合

2026年2月4日、トランプ政権は重要鉱物の安定供給に向けた初の閣僚級会合をワシントンで開催しました。日本、EU加盟国、メキシコなど55カ国・地域が参加し、中国依存からの脱却を目指す多国間の枠組みが本格始動しました。

この会合で合意された最大のポイントは、重要鉱物の「最低価格」を設定する仕組みです。中国はレアアースを国際市場で廉売(ダンピング)することで、他国の鉱山開発を採算割れに追い込み、競合を排除してきた歴史があります。最低価格の導入により、中国以外の鉱山が経済的に成り立つ環境を整えることが狙いです。

拘束力ある多国間協定へ

各国は重要鉱物の貿易に関する拘束力のある多国間協定の締結に向けて協議を進めることで一致しました。米通商代表部(USTR)は日米欧で行動計画を策定し、同盟・友好国が結束して「貿易圏」を構築すると発表しています。

ただし、ロイター通信の報道によれば、トランプ政権内でも最低価格保証計画には慎重な意見があり、構想の具体化にはまだ時間がかかる可能性も指摘されています。「米国第一」の原則と多国間協調のバランスをどう取るかが、今後の焦点となります。

日本の脱中国依存戦略:三つの柱

第一の柱:豪州ライナスとの重希土類調達

日本の脱中国戦略で最も具体的な成果を上げているのが、総合商社・双日とオーストラリアのライナス・レアアースとの連携です。

2025年10月、双日はライナスが西豪州のマウント・ウェルド鉱山で採掘し、マレーシアで精製した重希土類(ジスプロシウムとテルビウム)の日本向け輸入を開始しました。これは中国以外からの重希土類調達として、世界でも唯一の稼働中のサプライチェーンとされています。

2026年4月にはサマリウムの輸入も開始予定で、当初2027年だった計画が旺盛な需要を受けて前倒しされました。2027年半ばまでに取扱品目を最大6品目に拡大し、日本の重希土類総需要の約3割を供給する体制を目指しています。

第二の柱:南鳥島の深海レアアース開発

2026年3月19日の日米首脳会談で、南鳥島(東京都小笠原村)周辺海域のレアアース共同開発に関する協力覚書が締結されました。南鳥島周辺の深海底には、陸上鉱山の数十倍の濃度を持つレアアース泥が大量に存在することが確認されています。

日米両政府は深海鉱物資源開発に関する作業部会を設置し、三菱マテリアルや住友金属鉱山など日本企業が参画する13プロジェクトの支援方針を示しました。ただし、深海採掘は技術的なハードルが高く、商業化までの道のりは平坦ではありません。採掘コストの低減や環境影響の評価など、解決すべき課題は山積しています。

第三の柱:多国間連携による供給網の多元化

日本はトランプ政権主導の「貿易圏」構想にも積極的に参加しています。堀井巌外務副大臣は「代替供給源の確保と、より強靱で信頼性と安全性がある世界的な供給網を構築するため、努力を倍加する」と強調しました。

日米間では重要鉱物の供給安全保障に関する「迅速対応グループ」が設置され、米エネルギー省と日本の経済産業省が共同で主導する体制が整いつつあります。

注意点・展望

楽観できない構造的課題

中国依存からの脱却には長い時間がかかります。仮に採掘段階で多様化が進んでも、精製・分離・磁石加工といった川下工程では依然として中国が圧倒的な優位を保っています。新たな精製施設の建設には数年単位の時間と多額の投資が必要です。

また、「米国第一」と「互恵的貿易圏」という二つの理念は本質的に緊張関係にあります。トランプ政権が同盟国に対しても関税圧力を強めるなか、真に互恵的な鉱物貿易圏が構築できるかは不透明です。

今後の注目ポイント

短期的には、中国のレアアース輸出規制の一時停止措置が2026年11月に期限を迎えることが最大の焦点です。一時停止が延長されなければ、再び供給不安が高まる可能性があります。

中長期的には、双日・ライナスの品目拡大が計画通り進むか、南鳥島開発が商業化に近づけるかが注目されます。日本が「レアアース大国」への道を歩むためには、採掘から精製、製品化までの一貫したサプライチェーンを国内外で構築する必要があります。

まとめ

レアアースをめぐる国際情勢は、米国第一主義と中国の輸出規制強化という二つの大きな潮流のなかで急速に変化しています。日本は豪州との二国間連携、南鳥島の海洋資源開発、55カ国参加の新貿易圏構想という三つの柱で脱中国依存を進めています。

双日・ライナスの取り組みは、中国以外で唯一稼働する重希土類サプライチェーンとして世界的にも注目されています。しかし、精製工程の中国集中という構造的課題の解消には時間がかかり、「互恵」と「米国第一」の両立という政治的難題も残されています。

希少資源の安定確保は、もはや一企業や一国だけの問題ではありません。今後の多国間交渉の行方と、具体的なプロジェクトの進捗が、日本の産業競争力を左右することになるでしょう。

参考資料:

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