日本株高は一時的現象か―持続成長には構造改革が鍵

by nicoxz

はじめに

2026年1月、日経平均株価は年明け早々に最高値を更新し、1月6日には前日比685円28銭(1.32%)高い5万2518円08銭で取引を終えました。市場参加者は総じてこの先の持続的な株高を予想していますが、専門家からは「この株高はボーナス期間に過ぎない」との指摘も聞かれます。

足元の株高はインフレや緩和的な金融環境に支えられた「自動走行状態」であり、もってもせいぜい数年だと言われています。より長期で上昇が続くには、日本の潜在成長力の向上という本質的な問題に取り組む必要があります。本記事では、現在の株高の背景と、持続的な成長に向けた課題を詳しく解説します。

年明けの株高を支える要因

海外投資家の買いとリスク許容度の高まり

2026年1月6日の日経平均株価最高値更新の主な要因は、海外投資家のリスク許容度の高まりです。前日の欧米株式相場の上昇を受け、海外勢を中心にリスク許容度が高まり、日本株にも買いが集まりました。

特にファーストリテイリングが1月8日の取引時間終了後に発表した2025年9-11月期決算は総収入が前年同期比14.8%増となる好決算で、翌9日の終値は前年末比10.20%高の水準となって日経平均を466円押し上げました。

半導体・防衛関連株の上昇

半導体関連株の値上がりにも勢いが感じられました。また、地政学リスクの高まりが防衛産業への追い風になるとの思惑を生み、防衛株も上昇しました。

企業経営者の強気見通し

主要企業の経営者20人に2026年の株式市場の見通しを聞いたところ、全員が日経平均株価の最高値(5万2411円)を超えると回答しました。企業の資本効率の改善や政府の経済対策が株価をけん引するとの見方が多く、2026年の日経平均株価の予想レンジは4万5800円から5万9000円とされています。

インフレと金融緩和が支える「自動走行」

超金融緩和と実質金利の低下

現在の株高を支える大きな要因は、日本の超金融緩和政策です。日本の短期の政策金利はマイナス0.1%ですが、2024年6月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比年率でプラス3.3%となったため、インフレを考慮した「実質」の短期政策金利はマイナス3.4%まで低下しています。

マイナス金利が継続する一方、30年ぶりの物価上昇に見舞われた結果、足元の実質政策金利は今世紀最低水準に低下しており、これが株価を押し上げる要因となっています。

名目GDP拡大と株価の関係

経済規模を「金額」で捉える名目GDPが拡大することは、株価とその裏付けとなる企業業績の拡大を意味します。株価は名目値の概念であるため、現在のようにインフレが個人消費の打撃となり実質GDPが停滞しても、名目値が拡大を続けるなら株価は上昇します。

金融緩和によって金利が低下すると、企業は利益が増えて業績がアップし、個人は金利の低下によって預金が減って投資が増えやすくなるという傾向があります。企業の業績がアップすれば、当然その企業の株式を買いたいと思う人が増えるので、株価は上昇していきます。

インフレの種類による影響

長期的な視点に立てば、株式はインフレに強い資産であると言えます。モノの値段が上がるインフレのほうが利益は大きくなりやすく、利益が大きくなれば株価も上がりやすいためです。

ただし、需要が供給を上回ることで需給ギャップがプラスとなる「ディマンドプル・インフレ」では、景気循環と物価上昇が連動するようになりますが、生産コストの上昇により起こる「コストプッシュ・インフレ」は、供給サイドの都合で物価上昇が起こるため、企業業績への影響は異なります。

持続的成長に向けた本質的課題

低すぎる潜在成長力

日本の潜在成長力は依然として低く、現状のトレンドが続けば成長率は1%を下回ると予想されています。今後2〜3年の潜在成長率は約1%程度と推計されており、成長率の8割が物価上昇率に食われているという指摘もあります。

日本は急速な高齢化と労働力の減少という課題に直面しており、賃金成長、生産性向上、経済成長を促進するための構造改革の加速が必要とされています。主要国のトレンドに合わせた改革が行われなければ、日本の成長率はさらに低下する可能性があるという警告もあります。

企業の投資不足

日本の上場企業は過去10年間で売上高と利益を増加させてきましたが、売上高に対する投資比率は横ばいのままであり、設備投資、研究開発、人的資本への長期的な成長投資においてリスクを取っていない可能性があります。

労働市場の流動性の制限、終身雇用制度、雇用の安定性への選好などの構造的要因が低い賃金成長に寄与しており、労働市場の流動性を促進し「同一労働同一賃金」を推進する改革は、資源配分と賃金圧力を改善する可能性があります。

デフレ脱却の構造転換

日本経済は1990年代のバブル崩壊以降、企業が賃金や成長の源泉である投資を抑制し、「低物価・低賃金・低成長」という悪循環に陥っていました。現在、日本は低物価・低賃金・低成長に象徴される「コストカット型経済」から30年ぶりの変革を果たす機会を迎えています。

2024年春闘における平均賃上げ率は5.25%(3月21日時点)となり、30年ぶりの高い伸びを記録しました。物価上昇を乗り越える構造的な賃上げと、脱炭素やデジタルなど攻めの投資の拡大が求められています。

企業が旧来のコスト削減重視から付加価値向上を重視する動きに転換していくことが期待されており、賃上げや価格転嫁の促進によって、賃金と物価が共に安定的に上昇していくというノルムが確立していくことが重要とされています。

東証改革と資本効率の改善

PBR1倍割れ問題への対応

2023年3月、東京証券取引所(TSE)はプライム市場とスタンダード市場において、PBR(株価純資産倍率)が継続的に1.0を下回る企業に対して、改善方針と進捗を有価証券報告書に開示するよう要請しました。

プライム市場とスタンダード市場において、約半数の企業がPBR1.0を下回っており、ROE(自己資本利益率)が8%未満かつPBR1倍未満の企業は全体の約40%に達しています。直近のデータでは、プライム市場企業の43%、スタンダード市場企業の58%がPBR1.0を下回っています。

企業の資本効率改善への取り組み

企業はROE、PBR、ROIC(投下資本利益率)などの資本効率と市場評価指標に注力しており、多くの企業が東証の要請に応えて取り組みを強化しています。

大日本印刷などの大手企業は「PBR1.0以上」を目標として達成することを発表し、注力事業への集中投資や大規模な自社株買いを実施することで資本効率の改善を図っています。東証は2024年1月15日に対応を開示した企業のリストを公表し始め、開示率は時間の経過とともに大幅に増加しています。

ROE改善の課題

日本の低いROEは主に低い利益率(ROS:売上高利益率)に起因しており、欧米企業との差は依然として残っています。企業が資本効率を高めるためには、単なる財務施策ではなく、事業ポートフォリオの見直しや利益率の改善など、本質的な経営改革が求められています。

展望と注意点

「ボーナス期間」の終焉

専門家は現在の株高を「ボーナス期間」と呼んでおり、インフレと金融緩和に支えられた自動走行状態は長くても数年と見ています。その後も株価が上昇を続けるためには、日本企業が真の競争力を高め、持続可能な成長を実現する必要があります。

構造改革の遅れがもたらすリスク

もし日本が構造改革を進めず、潜在成長力を高めることができなければ、インフレが落ち着き、金融緩和が終了した時点で株価は大きく調整する可能性があります。現在の株高は外部環境に依存した「見せかけの好調」であり、内在的な成長力の向上が伴わなければ持続しません。

必要な改革の方向性

持続的な株高を実現するためには、以下のような構造改革が不可欠です。

まず、労働市場の流動性を高め、終身雇用制度の見直しや同一労働同一賃金の推進を図る必要があります。次に、企業は設備投資、研究開発、人的資本への投資を増やし、長期的な成長を目指すべきです。

また、企業はコスト削減重視から付加価値向上重視へと経営方針を転換し、イノベーションと生産性向上に注力することが求められます。さらに、資本効率を高めるため、ROE、PBR、ROICなどの指標を意識した経営を徹底し、株主価値の向上を図る必要があります。

最後に、脱炭素やデジタル化など、新たな成長分野への「攻めの投資」を拡大し、国際競争力を強化することが重要です。

まとめ

2026年1月の日経平均株価最高値更新は、海外投資家の買い、好決算、インフレと金融緩和という追い風に支えられたものです。市場参加者は総じて強気の見通しを示していますが、専門家は「ボーナス期間」に過ぎないと警告しています。

現在の株高は、実質金利の低下と名目GDP拡大という外部環境に依存した「自動走行状態」であり、持続性には疑問符が付きます。より長期的な株価上昇を実現するためには、日本の潜在成長力を高める構造改革が不可欠です。

具体的には、労働市場改革、企業の投資拡大、コストカット型からの脱却、資本効率の改善、新成長分野への投資など、多岐にわたる取り組みが求められます。東証改革によるPBR改善の動きは重要な第一歩ですが、真の企業価値向上につながる本質的な経営改革が伴わなければ意味がありません。

日本経済は30年ぶりの構造転換の機会を迎えています。賃金と物価が共に安定的に上昇する新たなノルムが確立するかどうかが、今後の株価動向を占う鍵となるでしょう。今こそ、短期的な株高に満足することなく、長期的な成長基盤の構築に取り組むべき時です。

参考資料:

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