Tech Research Lab

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by nicoxz

Teams新機能で居場所が分かる、従業員監視か生産性向上か

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はじめに

マイクロソフトは2026年2月、ビジネスチャットツール「Microsoft Teams」に従業員の勤務場所を自動検知する機能を追加します。組織のWi-Fiネットワークに接続すると、ステータスが自動的に「建物内」に更新される仕組みです。

この機能をめぐっては、出社時のコミュニケーション促進を目的とした生産性向上ツールなのか、それとも従業員を監視するための新たな手段なのかで、賛否両論が巻き起こっています。

本記事では、新機能の具体的な仕組み、プライバシー保護の設計、そして職場における従業員モニタリングの現状と課題について解説します。

新機能の概要

2つの検知方法

マイクロソフトが2025年9月に発表したこの機能は、2つの方法で従業員の勤務場所を検知します。

  1. Wi-Fi接続: 組織が指定したワイヤレスネットワークへの接続を検知
  2. デスク周辺機器: モニターなど、設定されたデスク周辺機器への接続を検知

管理者はいずれか一方、または両方の検知方法を設定できます。両方を設定することで、検知精度が向上するとされています。

位置情報の表示範囲

重要なのは、この機能がGPSやIPアドレス追跡を使用しないことです。表示されるのは、企業ネットワークに関連付けられた「建物名」や「オフィス名」のみで、具体的な住所やリアルタイムの座標は共有されません。

つまり、従業員が自宅やカフェから作業している場合、その場所が特定されることはありません。ただし、「会社のオフィスにいない」という事実は分かる仕組みです。

勤務時間内限定の追跡

プライバシーへの配慮として、位置情報の更新はOutlookカレンダーで設定された勤務時間内のみ行われます。勤務時間外の追跡は行われず、一日の終わりには位置情報は自動的にクリアされます。

プライバシー保護の設計

オプトイン方式の採用

マイクロソフトは、この機能がデフォルトで無効化されると強調しています。利用するには、管理者による有効化と、従業員自身による明示的なオプトイン(同意)の両方が必要です。

「管理者がユーザーに代わって同意することはできない」と明記されており、従業員の意思なく勝手に追跡されることはないとしています。

残る懸念

しかし、専門家からは懸念の声も上がっています。シスコシステムズのプリンシパルエンジニア、ニック・ケール氏は「位置情報シグナルは単純に見えるが、企業環境では強力なメタデータになる」と指摘します。

「他の活動パターンと組み合わせると、勤務習慣、対人関係、さらには推測されるパフォーマンスシグナルまで明らかになる可能性がある。だからこそ従業員は、こうした機能をコーディネーションではなくモニタリングとして経験することが多い」

また、オプトイン方式であっても、上司が従業員に機能の有効化を圧力をかける可能性があるとの指摘もあります。

出社義務化との「タイミング」

Microsoft自身のRTO方針

注目すべきは、この機能の導入時期がMicrosoft自身の出社義務化(Return to Office, RTO)方針と重なっていることです。

2026年2月末までに、Microsoftオフィスから50マイル(約80km)以内に住む従業員は、週3日以上の出社が義務付けられます。この時期と位置追跡機能の導入が一致しているため、「偶然なのか、企業による微細管理なのか」と従業員の間で疑問の声が上がっています。

「監視ではなく調整ツール」との説明

マイクロソフトは、この機能の目的は出社時のコミュニケーションを円滑にすることだと説明しています。同僚がオフィスにいるかどうかを確認し、対面でのコラボレーションを促進するためのツールだというのが公式の立場です。

職場モニタリングの現状

監視ツールの普及

従業員監視は今や一般的になりつつあります。調査によると、約78%の企業が従業員の活動を監視するためのツールを使用しています。

キーストローク記録、スクリーンショット撮影、ウェブカメラ監視、GPS追跡など、550種類以上の従業員監視製品が市場に存在します。リモートワーク環境では、70%のリーダーが監視ソフトウェアの使用に抵抗がないと回答しています。

効果への疑問

監視が生産性向上に寄与するかどうかは、立場によって見解が分かれます。

支持派の主張:

  • 監視されていることを認識している従業員の生産性は7%向上するとの研究結果がある
  • 説明責任と効率性の向上につながる

懐疑派の主張:

  • 従業員の72%は、監視が生産性に影響しない、またはむしろ低下させると回答
  • 68%の管理者は生産性向上を信じているが、認識に大きなギャップがある

従業員への心理的影響

監視は従業員のメンタルヘルスにも影響を与えています。

  • 56%の従業員が監視によりストレスを感じている
  • 43%がプライバシーへの侵入だと感じている
  • 75%が職場監視により仕事への満足度が低下したと回答
  • 54%が監視強化があれば退職を検討すると回答

2024年後半の調査では、監視ツール導入後に75%の従業員が雇用主への信頼を失ったと回答しています。管理職の6人に1人は、雇用主がこうした措置を導入すれば退職を検討すると答えています。

「生産性シアター」の増加

興味深いのは、監視がかえって非生産的な行動を促す可能性があることです。

  • 49%の従業員がオンラインであるふりをしている
  • 31%が追跡防止ツールを使用
  • 25%が何らかのハック(回避策)を使用
  • 43%の従業員が週10時間以上を「生産性シアター」(実際には不要だが、監視下で良く見せるための作業)に費やしている

代替アプローチ:ホットデスキングソフトウェア

コーディネーションに特化したツール

監視ではなく、純粋にチームのコーディネーションを目的としたソフトウェアも普及しています。Envoy、Robin、Kadence、Deskbirdなどのホットデスキング(フリーアドレス)管理ソフトは、従業員が自発的にオフィス出社予定を登録し、同僚の予定を確認できる仕組みです。

これらのツールでは、従業員自身が「いつオフィスに行くか」を事前に登録します。自動検知ではなく、意図的な共有に基づいているため、監視感が薄いとされています。

透明性と信頼の重要性

専門家は、監視と調整ツールの違いは「意図と実行」にあると指摘します。倫理的なモニタリングは信頼と説明責任を構築しますが、非倫理的な監視はストレス、離職、プライバシー懸念を引き起こします。

推奨されるベストプラクティスは以下の通りです。

  • 何を監視しているか、なぜ監視しているかを従業員に明確に伝える
  • 個人ではなくチーム全体のデータを見る
  • 従業員が自分のパフォーマンスデータにアクセスできるようにする

法的規制の動向

各国の対応

従業員監視に関する法規制は国によって異なります。

米国: 電子通信プライバシー法により、正当な業務目的または従業員の同意があれば監視が許可されています。ただし、コネチカット州、デラウェア州、ニューヨーク州のみが、職場監視について従業員への通知を義務付ける法律を制定しています。

欧州: デンマークは、セキュリティと犯罪防止以外の目的でのリモート・自動職場カメラの使用を禁止。ギリシャとキプロスは、ウェブカメラによるリモート従業員監視を禁止しています。ポルトガルでは、リモート監視に使用するデバイスやアプリについて従業員に通知することが義務付けられています。

EU AI法: 2026年に施行予定のEU AI法は、雇用主によるAI使用を「高リスク」に分類しています。職場での感情認識は禁止され、すべての監視システムに透明性と人間による監督が義務付けられます。違反した雇用主には最大3,500万ユーロ、またはグローバル売上高の7%の罰金が科される可能性があります。

まとめ

Microsoft Teamsの新しい位置情報機能は、ハイブリッドワーク時代における職場管理の課題を浮き彫りにしています。

マイクロソフトは、オプトイン方式、勤務時間限定の追跡、GPSを使用しない設計など、プライバシーに配慮した仕組みを強調しています。しかし、出社義務化との同時期の導入や、メタデータとしての位置情報の潜在的なパワーを考えると、従業員が「監視」と感じる可能性は否定できません。

職場監視の研究が示すように、従業員の信頼を損なうコストは大きく、監視がかえって非生産的な行動を促すリスクもあります。組織がこの機能を導入する際には、目的の明確化、従業員との対話、透明性の確保が不可欠です。

最終的に、この機能が「生産性向上ツール」になるか「監視ツール」になるかは、各組織の運用次第と言えるでしょう。

参考資料:

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