Research

Research

by nicoxz

皆川賢太郎が挑む屋内スキー場復活と日本スキー再興

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

2026年1月、元アルペンスキー日本代表の皆川賢太郎氏(48歳)が、日本のスキー産業再興に向けた新会社を設立したと発表しました。トリノ五輪で日本人として約50年ぶりの入賞を果たしたスキーヤーが、競技引退後に取り組むのは「通年スキーができる屋内施設」の実現です。

1993年にオープンし、2002年に閉鎖した「ザウス」を彷彿とさせる構想ですが、皆川氏は「ザウスの教訓」を踏まえた新しいアプローチを提案しています。

本記事では、皆川氏のスキードーム構想と、衰退が続く日本のスキー産業の現状、そして再生への道筋について解説します。

新会社「Japan Snow Mountain Consulting」の始動

会社概要と目的

皆川氏が設立したのは「株式会社Japan Snow Mountain Consulting」(JSMC)です。2025年10月に設立され、本社は東京都中央区八重洲に置かれています。

JSMCの事業は大きく2つの柱から成ります。

  1. 日本全国のスキー場・冬季リゾートの再生
  2. 通年型スキードームの実現

皆川氏は競技人生を通じて、ワールドカップ転戦や国際大会で約1,800カ所の海外スキー場を訪れてきました。その経験を活かし、日本のスキー産業が抱える構造課題の解決に挑みます。

苗場エリアでの実証プロジェクト

JSMCは新潟県湯沢町・苗場エリアを「雪文明再構築に向けた実証フィールド」と位置づけ、「NAEBA VALLEY PROJECT」を第1プロジェクトとして推進しています。

皆川氏は新潟県湯沢町出身であり、地元への思い入れも強いようです。苗場エリアでの取り組みを通じて、日本全国のスキー場再生のモデルケースを作ることを目指しています。

通年型スキードーム構想の詳細

ザウスとは異なるアプローチ

皆川氏の構想は、バブル期の象徴として語られる「ザウス」とは大きく異なります。

ザウス(SSAWS)の概要:

  • 1993年オープン、2002年閉鎖
  • 千葉県船橋市に建設
  • 総工費400億円
  • 高低差約80m、長さ約480m、幅約100m
  • 平地に巨大な施設を建設

皆川氏の構想:

  • 2030年代の整備を目指す
  • 新潟県または岩手県が候補地
  • 山の勾配を利用した設計で建設コストを抑制
  • 人工雪をできるだけ使わず、豊富な降雪を活用
  • 夏場の冷却にも貯蔵した雪を使用
  • 再生可能エネルギーの活用

環境との調和

JSMCの構想では、最新の雪製造・冷却技術と再生可能エネルギーを組み合わせ、気候変動時代に対応した「次世代型スキードーム」を目指しています。

日本の豪雪地帯が持つ「天然の雪」という資源を最大限に活用することで、ザウスが抱えていた「莫大な冷却・維持コスト」の問題を解決しようとしています。

複合施設としての展開

スキードームは単なるスポーツ施設ではなく、スポーツ・教育・観光・エンターテインメントを融合させた複合施設として構想されています。スキーやスノーボードのレース誘致も視野に入れており、競技大会の開催拠点としての役割も期待されています。

ザウスの教訓:なぜ失敗したのか

10年で閉鎖に至った背景

ザウスは元々10年間限定の施設として建設されました。年間130万人の来場者を見込んでいましたが、実際には最後には60万人にまで減少しました。

閉鎖に至った主な要因は以下の通りです。

1. スキーブームの終焉 計画が浮上した1987年は映画「私をスキーに連れてって」が公開された年で、スキーブームの真っ只中でした。しかし、スキー人口は1996年の1,860万人をピークに急減し、10年後にはほぼ半減しました。

2. 巨額の建設費 総工費400億円という巨額の投資を回収することは困難でした。施設の償却費を除外すると営業中に赤字へ転落した年度は皆無でしたが、建設費の回収は実現しませんでした。

3. 割引依存の集客戦略 晩年は割引券の乱発により、通常料金で入場する客がほとんどいなくなりました。入場客数が増えても利益が上がらないという悪循環に陥りました。

皆川氏が学ぶポイント

皆川氏は「ザウスも教訓に」と述べており、以下の点を踏まえた計画を練っています。

  • 平地ではなく山の地形を活用してコストを抑制
  • 人工雪に依存せず、天然の降雪を最大限活用
  • 持続可能な運営モデルの構築
  • 単なる娯楽施設ではなく、多目的複合施設として設計

日本のスキー産業:深刻な衰退と再生の兆し

30年で85%減少したスキー人口

日本のスキー・スノーボードの参加人口は、1993年の約1,860万人をピークに、2021年には約280万人にまで落ち込みました。総人口に占める割合も約15%から約4%に低下しています。

全体の4割強のスキー場において営業赤字が続く厳しい経営状況にあり、その背景にはスキー場の施設数が多く供給過多の状況にあることが挙げられます。

衰退の複合的要因

日本のスキー場が直面している課題は多岐にわたります。

人口減少と少子高齢化 修学旅行や家族旅行という集団利用型の需要が著しく減少しています。スキーやスノーボードは若年層の参加率が高いスポーツであり、少子化の影響を直接受けています。

施設の老朽化 利用収入の減少により、リフトやゴンドラの更新投資ができず、スキー場の魅力が低下するという負のスパイラルに陥っています。

気候変動 暖冬や異常気象による積雪量の減少は、営業期間の短縮や雪質の悪化をもたらしています。人工降雪機の稼働増加により、運営コストも上昇しています。

インバウンドがもたらす希望

一方で、明るいニュースもあります。2024年〜2025年冬シーズンは、恵まれた降雪量と旺盛なインバウンド需要により、多くのスキー場が盛況でした。

日本スキー場開発が運営する長野・岐阜のスキーリゾートでは、2024年11月〜2025年1月の来場者数が過去最高を達成しました。特にインバウンド来場者数も過去最高を記録しています。

2024年度のスキー場運営企業の倒産は0件で、7年ぶりに倒産がない年となりました。

注意点・展望

資金調達と採算性の課題

スキードームの建設には巨額の投資が必要です。皆川氏はコスト抑制を強調していますが、具体的な建設費や収支計画はまだ公表されていません。2030年代の実現を目指すとしており、まずは苗場エリアでの実証プロジェクトを通じて実績を積み上げていく方針です。

気候変動リスクへの対応

皮肉なことに、気候変動は屋内スキー施設の需要を高める要因にもなり得ます。降雪の不安定化により、確実に滑れる環境への需要が増加する可能性があります。ただし、冷却に必要なエネルギーコストとのバランスが課題となります。

官民連携の可能性

国土交通省は17地域に対してスキー場のインフラ整備やコンテンツ造成を支援しています。皆川氏のプロジェクトも、こうした官民連携の枠組みを活用できる可能性があります。

まとめ

皆川賢太郎氏が設立した「Japan Snow Mountain Consulting」は、日本のスキー産業再興に向けた新たな挑戦です。苗場エリアでの実証プロジェクトを起点に、2030年代には通年スキー可能なスキードームの実現を目指しています。

かつてのザウスは、バブル期の象徴として語られる「失敗例」でした。しかし、皆川氏の構想は山の地形を活かし、天然の雪を活用するという、日本の気候風土に根ざしたアプローチを取っています。

日本のスキー人口は30年で85%減少しましたが、インバウンド需要という新たな追い風も吹いています。皆川氏が目指す「雪文明を次の100年につなぐ」という壮大なビジョンが実現するか、今後の展開が注目されます。

参考資料:

関連記事

最新ニュース