MUFG三毛兼承会長が退任へ、原点はボーイスカウト
はじめに
邦銀最大手、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の三毛兼承(みけ・かねつぐ)会長が、2026年3月末をもって退任します。1979年の旧三菱銀行入行以来、約47年にわたり銀行一筋で歩んできた三毛氏は、システム統合や海外展開といった重要局面で「白羽の矢」が立てられてきた人物です。
その心構えの原点にあるのが、少年時代から熱心に取り組んだボーイスカウト活動で培った「そなえよつねに(Be Prepared)」の精神だといいます。本記事では、三毛氏の経歴を振り返りつつ、ボーイスカウト精神がいかに経営者としての姿勢に影響を与えたかを解説します。
三毛兼承氏の経歴と銀行人生の歩み
慶應義塾からウォートン校へ
三毛兼承氏は1956年、東京都に生まれました。慶應義塾幼稚舎から慶應義塾普通部、慶應義塾高等学校を経て、1979年に慶應義塾大学経済学部を卒業しています。同年、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行しました。
入行後は国内4拠点、海外2拠点の営業現場を経験し、現場感覚を磨きました。1987年には米国ペンシルベニア大学ウォートン校でMBAを取得しています。ウォートン校は世界最古のビジネススクールとして知られ、金融分野では世界トップクラスの評価を受けています。この留学経験が、後の国際業務での活躍に大きく寄与することになります。
システム統合と海外戦略の推進者
三毛氏のキャリアにおいて特筆すべきは、銀行経営の重要局面で常に中心的な役割を担ってきたことです。総合企画室室長やシステム統合推進部部長を歴任し、旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行の大規模なシステム統合を指揮しました。メガバンクのシステム統合は、数千万の口座を抱える巨大システムの移行であり、失敗すれば社会的な影響が甚大な、まさに「そなえ」が問われるプロジェクトでした。
2014年から2015年にかけては、タイのアユタヤ銀行(クルンシィ)の副会長を務め、買収後の統合作業を現地で陣頭指揮しました。さらに2015年から2017年には、米州MUFGホールディングスコーポレーション会長およびMUFGユニオンバンク会長を兼務し、北米事業の統括にあたりました。
頭取就任からMUFG会長への道
異例の経緯で頭取に就任
2017年、三毛氏は三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)の代表取締役頭取に就任しました。この人事は異例の経緯によるものでした。前任の小山田隆頭取が健康上の理由で退任することとなり、副頭取だった三毛氏に「白羽の矢」が立ったのです。
頭取就任後は、デジタル化の推進や海外事業の強化を進めました。2019年にはMUFGの取締役代表執行役社長兼グループCEOに就任し、グループ全体の経営を統括する立場となります。
全国銀行協会会長として業界を牽引
2020年4月には一般社団法人全国銀行協会の会長にも就任しました。全銀協会長は邦銀業界の「顔」とも呼ばれる存在であり、金融行政や経済政策に対する提言など、業界全体への影響力を持つポジションです。
三毛氏の在任中は、新型コロナウイルスの影響による経済危機への対応や、デジタル通貨・フィンテックへの対応など、銀行業界が大きな変革期を迎えた時期でもありました。2021年にはMUFGの取締役執行役会長に就任し、経営の最前線から一歩引きつつも、グループの方向性に影響を与える立場を続けました。
退任とMUFGの新体制
2026年3月末の三毛氏退任に伴い、MUFGは新たな経営体制に移行します。三菱UFJ銀行では2026年3月5日付で役員異動が発表されており、グループ全体で世代交代が進む形となっています。三毛氏が約47年間積み上げてきた経験と人脈は、今後のMUFGにとっても重要な資産といえるでしょう。
ボーイスカウト精神と経営哲学
「そなえよつねに」が意味するもの
ボーイスカウトの世界共通のモットーは「そなえよつねに(Be Prepared)」です。これは単なる物理的な準備だけを意味するのではありません。心にも体にも技にも隙がないよう、どんな事態にも対応できる心構えを常に持つことを指しています。
三毛氏がボーイスカウト日本連盟の理事を務めていることからも、スカウト活動への思い入れの深さがうかがえます。少年時代に身につけた「備える」精神は、システム統合やグローバル展開といった高難度の経営課題に取り組む際の基盤となったと考えられます。
経営者を育てるスカウト活動の力
ボーイスカウト活動では、年齢の異なる子どもたちがグループを組み、年長者が年少者の面倒を見ながら活動します。この「班制度」と呼ばれる仕組みを通じて、リーダーシップ、フォロワーシップ、協調性、責任感が自然に身につきます。
日本においても、ボーイスカウト活動は多くの企業経営者やリーダーに影響を与えてきました。ボーイスカウト日本連盟の初代総裁を務めた後藤新平は、野外活動や奉仕活動を通じて「責任感」「リーダーシップ」「協調性」「忍耐力」「好奇心・探究心」「国際性」を養うことを重視しました。また、ソニー創業者の井深大やホンダ創業者の本田宗一郎など、日本を代表する経営者がボーイスカウト活動を支援してきた歴史があります。
三毛氏のように、少年時代のスカウト経験が経営哲学の根幹に据えられている例は、リーダー育成における体験教育の重要性を改めて示すものです。
注意点・展望
三毛氏の退任は一つの時代の区切りを意味しますが、MUFGの経営課題は引き続き山積しています。金利環境の変化への対応、デジタルトランスフォーメーションのさらなる推進、そしてグローバル市場での競争力強化が求められます。
また、「そなえよつねに」の精神は、不確実性が増す現代のビジネス環境においてこれまで以上に重要性を増しています。地政学リスク、気候変動、テクノロジーの急速な進化など、予測困難な変化に対して常に備えを怠らない姿勢は、あらゆる組織のリーダーに求められる資質といえるでしょう。
三毛氏自身は退任を「新たな冒険への出発」と位置づけているとされます。約半世紀にわたる銀行人生で培った経験と人脈を活かし、次のステージでどのような活躍を見せるのかにも注目が集まります。
まとめ
三毛兼承氏は、慶應義塾大学卒業後に旧三菱銀行に入行し、システム統合、海外事業拡大、頭取就任、MUFG社長・会長と、銀行経営の中核を担い続けてきました。その原動力となったのが、少年時代のボーイスカウト活動で身につけた「そなえよつねに」の精神です。
不測の事態にも動じず、常に備えを怠らない姿勢は、激動の金融業界を率いるリーダーにとって不可欠な資質でした。三毛氏の退任は一つの時代の終わりですが、「備える心」の重要性は今後も変わることはないでしょう。
参考資料:
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