Mujinが首位獲得―日本スタートアップ調達ランキング2025

by nicoxz

はじめに

2025年の日本スタートアップ資金調達ランキングで、ロボット制御ソフト開発のMujin(ムジン、東京・江東)が首位を獲得しました。自動運転技術を開発するTuring(チューリング、東京・品川)も上位に入り、人工知能(AI)の性能が進化する中、ロボットや自動車を自律的に制御する「フィジカルAI」分野への成長期待が高まっています。この分野は11兆円規模の市場に成長するとの予測もあり、製造業や物流、自動車など幅広い産業での実用化が進んでいます。本記事では、Mujinの資金調達の詳細、フィジカルAI市場の展望、そして日本企業の強みと課題について詳しく解説します。

Mujinの資金調達と事業戦略

2億3300万ドルの大型調達

Mujinは2025年12月、シリーズDラウンドで2億3300万ドル(約359億円)を調達したと発表しました。このうち1億3300万ドルが株式調達で、カタール投資庁(QIA)とNTTグループが共同主導し、三菱HCキャピタルリアルティ、Salesforce Venturesなどが参加しました。残りの1億ドルは日本の主要金融機関グループからのデット(負債)ファイナンスです。

これにより、Mujinの累積調達額は4億1100万ドル(約633億円)に達し、同社のミッションである次世代産業自動化技術の創造に対する投資家の強い信頼を裏付けています。

MujinOSの展開加速

今回の資金は、Mujinの主力製品である「MujinOS」のグローバル展開を加速するために使われます。MujinOSは、独自のフィジカルAI技術とデジタルツイン技術を活用した知能型ロボティクスプラットフォームです。

2011年に設立されたMujinは、高度なソフトウェアを通じて産業用ロボットが複雑なタスクを実行できるようにすることで、製造業と物流業を変革してきました。従来の産業用ロボットは事前にプログラムされた動作しかできませんでしたが、MujinのフィジカルAI技術により、ロボットは環境を認識し、リアルタイムで判断を下しながら作業を行えるようになります。

技術的優位性:デジタルツインとモーションプランニング

Mujinの競争優位性は、リアルタイムデジタルツイン、モーションプランニング(動作計画)、オーケストレーション(統合管理)技術にあります。デジタルツインとは、物理世界をデジタル空間で再現する技術で、ロボットの動作をシミュレーションし、最適化してから実際の作業に適用できます。

モーションプランニング技術により、ロボットは障害物を避けながら最適な経路を自律的に計算します。これにより、人間のプログラマーが細かく指示を出さなくても、ロボットが状況に応じて柔軟に動作できるのです。

Turingと自動運転分野の資金調達

152億円のシリーズA調達

Turingは2025年11月17日、シリーズAラウンドの第一次募集で152億7000万円(約9860万ドル)を調達したと発表しました。株式による調達が97億7000万円で、政府系のJICベンチャー・グロース・インベストメンツと独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインが共同主導しました。

追加投資家には、GMOインターネットグループ、自動車部品サプライヤーのデンソー、複数のパートナー、ベンチャーキャピタル、金融機関のコーポレートベンチャーアーム(CVC)が含まれています。Turingの評価額は600億円に達しました。

完全自動運転の実現を目指して

Turingは、あらゆる条件下で車両が人間の代わりに運転する「完全自動運転」の実現に取り組んでいます。同社はエンドツーエンド(E2E)自動運転AIと大規模基盤モデルを開発しており、2029年に乗用車を通じて完全自動運転システムを導入することを目指しています。

E2Eアプローチとは、センサーからの生の入力データを直接、ハンドル操作やブレーキなどの制御信号に変換するAIモデルを意味します。従来の自動運転システムは、認識、判断、制御という複数のモジュールを組み合わせていましたが、E2Eではこれらをひとつのニューラルネットワークで処理します。

資金の使途

調達資金は、計算インフラの拡充、社会実装に向けた事業体制の強化、そして特にMLエンジニアなどの人材採用に充てられます。自動運転AIの開発には膨大な計算リソースが必要で、GPUクラスターなどのインフラ投資が不可欠です。

フィジカルAI市場の急成長

11兆円市場への道筋

フィジカルAIとは、AIがロボットや機械を自律的に制御する技術を指します。日本経済新聞によれば、ヒト型ロボットなどを含むフィジカルAI市場は11兆円規模に成長すると予測されています。この市場規模は、製造業、物流、建設、医療、サービス業など、多岐にわたる産業でのロボット活用を前提としています。

2025年は「フィジカルAI元年」と呼ばれ、概念が実用段階に入った年として位置づけられています。CES 2026では、NVIDIAをはじめとする企業が次世代のフィジカルAI製品を続々と発表し、「バズワードを脱して本格的なトレンドへ」と評されています。

CES 2026での主要発表

NVIDIAの新モデル: NVIDIAはCES 2026で、フィジカルAI、ロボティクス、自動運転、ヘルスケアプラットフォームにわたる新しいオープンAIモデルとデータセットを発表しました。主要な発表には、推論ベースの運転システム向けに設計されたAlpamayo 1(オープンビジョン言語アクションモデル)があり、車両が周囲を理解し、その行動を説明できるようにします。また、Isaac GR00T N1.6はヒューマノイドロボット向けで、推論駆動の全身制御をサポートします。

Armの新事業部門: 半導体設計大手のArmは、モバイルデバイス向けチップに主に焦点を当てたエッジ部門から、新しいフィジカルAI事業を分離しました。フィジカルAI部門は車両向けチップも開発します。

Mobileyeの買収: 自動運転技術のMobileyeは、Mentee Roboticsを買収する最終契約を発表しました。Mobileyeの先進AI技術とMenteeのヒューマノイドプラットフォームを組み合わせ、自動運転とヒューマノイドロボティクスにわたるフィジカルAIのグローバルリーダーを目指します。

ヒューマノイド市場の爆発的成長予測

フィジカルAIの本命として期待されているのがヒューマノイド(ヒト型ロボット)です。従来の産業用ロボットとは桁違いの需要が生まれるとされ、米モルガン・スタンレーは2050年に10億台以上のヒト型ロボットが使用されると予測しています。

現代自動車は、2028年にヒト型ロボット3万台の生産体制を構築し、電気自動車(EV)部品の組み立てに導入する計画を発表しています。人間と同じ形状のロボットは、既存の工場や設備をそのまま使えるという利点があり、導入コストを抑えられます。

日本政府の支援と産業戦略

1兆円規模の支援計画

日本政府もフィジカルAIの基盤開発に注力する方針を示しています。経済産業省は官民連携でAI開発に対応し、5年間で約1兆円規模の支援を計画しています。この支援には、研究開発資金、計算インフラの整備、人材育成などが含まれます。

日本は製造業や自動車産業で長年培ってきた技術優位性があり、フィジカルAI分野で世界をリードする潜在力を持っています。特にロボティクス技術では、ファナック、安川電機、川崎重工業など、世界トップクラスのメーカーが存在します。

産業界の地殻変動

巨大テック企業が日本に急接近しており、フィジカルAI分野で産業界に地殻変動が起きています。NVIDIAは日本の自動車メーカーやロボットメーカーとの提携を強化しており、ソフトバンクグループもロボティクス分野への投資を拡大しています。

従来、日本の産業用ロボット業界は、ファナックや安川電機が主導してきました。しかし、フィジカルAIの台頭により、ソフトウェアとAI技術の重要性が増しています。ハードウェアだけでなく、Mujinのようなソフトウェア企業の存在感が高まっているのです。

2025年の市場動向と課題

資金調達環境の変化

2025年上半期、日本のスタートアップの資金調達総額は3399億円(デット除く)で、前年同時期から4%増とほぼ横ばいの水準を維持しました。調達額上位20社の半数で、プレシリーズやエクステンション(延長)といったラウンドが見られ、資金調達の長期化と複雑化が進んでいます。

これは、投資家がより慎重になっており、企業のビジネスモデルと収益性を厳しく評価していることを示唆しています。AI分野への投資熱は高いものの、実際に収益化できるかどうかが重視されています。

実用化への課題

フィジカルAIが本格的に普及するには、いくつかの課題があります。第一に、安全性の確保です。自律的に動くロボットや自動車が、予期しない状況でどう振る舞うかは完全には予測できません。メルセデス・ベンツCLAは2026年第1四半期に、AI推論(Alpamayo)と古典的な自動運転システム(ルールベースの安全機能)の両方を同時に実行するデュアルスタックアーキテクチャで発売されました。これは、AI単独では安全性を保証できないという現実を示しています。

第二に、規制の整備です。完全自動運転車やヒューマノイドロボットが公共空間で活動するには、法整備が必要です。責任の所在、プライバシー保護、倫理的な問題など、解決すべき課題は多岐にわたります。

第三に、コストの問題です。フィジカルAI技術は高度で、開発と導入に多額の費用がかかります。中小企業が導入できる価格帯まで下がるには、さらなる技術革新と量産効果が必要です。

「5年先」からの脱却

これまで「5年先」と言われ続けてきたフィジカルAIですが、2026年にようやくその時代が終わったと評されています。自動運転車、ロボティクス、物流、農業、ホームオートメーションなど、さまざまな分野でフィジカルAIが実用段階に入りました。

しかし、実用化初期段階では試行錯誤が続きます。多くの企業がパイロットプロジェクトを実施していますが、本格的なスケールアップに成功している例はまだ限定的です。MIT調査が示したように、AI投資の95%が収益化に失敗している現実を考えると、フィジカルAI分野でも同様の淘汰が起こる可能性があります。

投資家と企業が注目すべきポイント

「製造者」と「マネタイザー」の分化

2026年のAI市場は、「製造者(Manufacturers)」と「マネタイザー(Monetizers)」に分化すると予測されています。製造者はAIインフラやハードウェアを提供する企業(NVIDIA、Armなど)で、マネタイザーはAI技術を使って実際に収益を上げる企業(Mujin、Turingなど)です。

投資家は、どちらのカテゴリーの企業に投資するかを明確にする必要があります。製造者は安定した需要が見込めますが、競争も激しいです。マネタイザーは成長ポテンシャルが高い一方、ビジネスモデルの実証が求められます。

技術力とビジネスモデルの両立

フィジカルAI分野で成功するには、高度な技術力だけでなく、明確なビジネスモデルが必要です。Mujinが成功している理由は、製造業と物流という明確なターゲット市場を持ち、顧客の具体的な課題(人手不足、生産性向上)を解決しているからです。

一方、技術は優れていても、市場ニーズとのミスマッチや収益化の難しさから失敗するスタートアップも少なくありません。投資判断においては、技術の新規性だけでなく、市場規模、競合状況、収益モデルの持続可能性を総合的に評価することが重要です。

グローバル競争への対応

フィジカルAI分野は、米国(NVIDIA、テスラ)、中国(BYD、Xiaomi)、韓国(現代自動車)など、世界中の企業が覇権を争っています。日本企業が優位性を維持するには、ハードウェアとソフトウェアの融合、迅速な意思決定、グローバル市場への展開が求められます。

Mujinがカタール投資庁やNTTグループから資金を調達したことは、グローバル展開への布石です。日本国内市場だけでは成長に限界があるため、米国、欧州、アジアへの進出が不可欠です。

まとめ

2025年の日本スタートアップ資金調達ランキングで、Mujinが首位、Turingが上位に入ったことは、フィジカルAI分野への期待の高まりを象徴しています。11兆円規模の市場成長が予測され、ヒューマノイドロボットや完全自動運転車の実用化が進む中、日本企業は製造業やロボティクスでの技術優位性を活かせる好機を迎えています。

一方で、AI投資の95%が収益化に失敗しているというMIT調査の結果は、技術力だけでは不十分であることを示しています。安全性の確保、規制整備、コスト削減、そして明確なビジネスモデルの構築が、実用化への鍵となります。2026年は「推論変曲点」を迎え、AI投資が実際の価値創出につながるかが問われる年となるでしょう。投資家と企業は、短期的な熱狂に惑わされず、長期的な視点で真の勝者を見極める必要があります。

参考資料:

関連記事

最新ニュース