野村アセット初の外部社長に大越昇一氏が就任へ
はじめに
野村ホールディングス(HD)が、傘下の資産運用会社である野村アセットマネジメントの社長に、JPモルガン・アセット・マネジメント元社長の大越昇一氏(54)を起用する方針を固めました。2026年4月1日付での就任が予定されています。野村アセットマネジメントの社長にグループ外の人材を充てるのは、同社の歴史で初めてのことです。
国内最大級の資産運用会社のトップに外資系出身者が就くことは、日本の資産運用業界にとっても大きな転換点となります。本記事では、この人事の詳細と背景、そして資産運用業界全体への影響について解説します。
大越昇一氏の経歴とJPモルガンでの実績
金融のプロフェッショナルとしてのキャリア
大越昇一氏は早稲田大学政治経済学部を卒業後、1994年にJPモルガン証券株式会社に入社しました。入社後は株式・金利・為替のデリバティブ商品の開発に携わり、金融商品の専門家として頭角を現しました。
その後、ストラクチャード商品の開発部門、債券および株式の営業責任者を歴任し、同社債券統括本部長兼株式統括本部長、さらにはJPモルガン・チェース銀行東京支店の為替資金統括本部長を兼任するなど、グローバル金融機関の要職を歩んできました。
JPモルガン・アセット・マネジメント社長としての10年
2015年9月、大越氏はJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社の代表取締役社長に就任しました。それ以降、約10年にわたって同社のトップとして経営を担いました。JPモルガン・アセット・マネジメントは世界最大級の資産運用グループの日本法人であり、グローバルな運用知見を日本市場に展開する重要な役割を果たしています。
大越氏は社長在任中、業界団体でも活躍しています。2019年6月には一般社団法人日本投資顧問業協会の理事に就任し、2020年6月からは同協会の副会長を務めるなど、日本の資産運用業界全体の発展にも貢献してきました。
2025年3月には、JPモルガン・アセット・マネジメントの社長職を後任の小松薫夜氏に引き継ぎ、自身は代表取締役会長に就任していました。
野村アセットマネジメントと外部登用の意味
国内最大級の資産運用会社
野村アセットマネジメントは、野村ホールディングスの完全子会社として、国内最大級の資産運用会社の地位を確立しています。運用資産残高は約88兆円から99兆円規模に達し、上場投資信託(ETF)ブランド「NEXT FUNDS」は国内シェア約43%、売買代金では約66%と圧倒的な首位を誇ります。
これまで同社の社長は、野村グループ内部からの登用が慣例でした。現社長の小池広靖氏(58)も野村グループ出身であり、グループの論理に沿った経営が行われてきました。小池氏は大越氏の就任に伴い、野村HDで運用・ファンド事業を統括するポストに異動する見通しです。
初の外部登用が持つ意味
今回の人事は、野村グループの主要子会社のトップにグループ外の人材を起用する初めてのケースです。この決断の背景には、複数の要因があります。
第一に、米国をはじめとするグローバルな資産運用のベストプラクティスを取り入れる狙いがあります。大越氏はJPモルガンというグローバル金融機関で長年にわたりキャリアを積み上げてきており、国際標準のガバナンスや商品開発の知見を持っています。
第二に、野村HD全体の経営戦略との整合性があります。奥田健太郎グループCEOは「2030年に向けた経営ビジョン」のもと、パブリック領域に加えてプライベートアセット(未公開資産)の拡大・強化を推進しています。海外での資産運用ビジネスの深化を加速するうえで、グローバルな人脈とノウハウを持つ大越氏の起用は戦略的な判断です。
第三に、日本政府が掲げる「資産運用立国」の実現に向けた業界全体の変革があります。金融庁は資産運用会社に対してガバナンス・経営体制の強化や運用力の向上を求めており、外部人材の登用はこうした改革の象徴的な一歩です。
注意点・展望
資産運用業界の構造変化
金融庁は「資産運用業高度化プログレスレポート」を通じて、日本の資産運用会社に対し、運用力の強化やビジネス慣行の是正を継続的に求めています。専門性の高い人材の確保は競争力の源泉とされており、成果連動型の報酬体系の導入や他社に負けない報酬水準の設定が期待されています。
大越氏の就任は、こうした業界全体の流れの中で理解する必要があります。今後、他の大手運用会社でも外部人材の登用が進む可能性があり、日本の資産運用業界全体のプロフェッショナル化が加速することが期待されます。
課題と成功の鍵
一方で、外部からのトップ起用には課題もあります。グループ内の組織文化との融合、既存の運用チームとの連携、そして野村グループ特有の営業ネットワークの活用が求められます。外資系での経験が豊富な大越氏が、国内最大級の資産運用会社のカルチャーにどのように適応し、変革を進めるかが注目されます。
また、野村アセットマネジメントがグローバル市場でさらなる存在感を示すためには、アクティブ運用やオルタナティブ投資など、付加価値の高い運用商品の開発・拡充が不可欠です。大越氏のJPモルガンでの経験が、こうした領域でどのように活かされるかが成功の鍵を握ります。
まとめ
野村アセットマネジメントの社長に、JPモルガン・アセット・マネジメント元社長の大越昇一氏が就任するという今回の人事は、国内資産運用業界にとって画期的な出来事です。グループ外からの初のトップ起用は、野村HDが資産運用ビジネスのグローバル化と高度化に本気で取り組む姿勢の表れです。
日本の「資産運用立国」実現に向けた改革が進む中で、今回の人事は業界全体にとっての先行事例となります。大越氏の手腕に注目しつつ、日本の資産運用業界が国際競争力を高めていく過程を見守る価値があります。個人投資家にとっても、運用会社の経営改革は将来のファンドの品質や選択肢に直結する重要なテーマです。
参考資料:
関連記事
りそな銀行社長に千田氏昇格、グループ経営の行方
りそなホールディングスがグループ3行の社長交代人事を発表。りそな銀行は千田一弘氏が新社長に。人事の背景、グループの経営戦略、金利上昇環境での課題を解説します。
りそなHD傘下3行トップ刷新、50代で世代交代へ
りそなホールディングスが傘下のりそな銀行・埼玉りそな銀行・関西みらい銀行の社長を2026年4月1日付で一斉交代。50代の新体制で「リテールNo.1」戦略の加速を目指す背景と展望を解説します。
日銀審議委員にリフレ派2人起用へ 金融政策への影響を解説
政府が日銀審議委員候補に浅田統一郎氏と佐藤綾野氏を提示。リフレ派2人の起用が今後の金融政策に与える影響を詳しく解説します。
東証新社長に横山隆介氏就任へ、デジタル化加速の狙い
日本取引所グループ(JPX)が東京証券取引所の新社長に大阪取引所の横山隆介社長を起用。IT畑一筋のプロパー社員が取引所DXを加速させる人事の背景と展望を解説します。
東証新社長に横山隆介氏就任へ――JPX人事の狙いを読む
日本取引所グループが東京証券取引所の新社長に大阪取引所の横山隆介社長を起用する人事を発表。IT畑出身のプロパー人材がトップに就く背景と、取引所デジタル化の今後を解説します。
最新ニュース
中国全人代を前に習近平の軍粛清が止まらない理由
3月の全人代開催を控え、習近平政権による軍高官の粛清が加速しています。張又侠の失脚、100人超の将校排除の背景と、人民解放軍への深刻な影響を解説します。
「ECの死」到来か、AIショッピングエージェントの破壊力
「SaaSの死」に続き「ECの死」が叫ばれています。AIショッピングエージェントがECビジネスをどう変えるのか、AmazonとWalmartの異なる戦略から読み解きます。
ハイアット東京を1260億円で取得、REIT最大規模
ジャパン・ホテル・リートがハイアットリージェンシー東京を国内REIT史上最大の1260億円で取得。好調なインバウンド需要を背景に、ホテル投資市場が過去最高を更新する中での大型案件を解説します。
メキシコが週40時間労働へ憲法改正、残業超過で3倍賃金の衝撃
メキシコが週40時間労働への憲法改正を承認。残業超過で3倍賃金の義務化が日本企業の製造拠点に与える影響と対応策を、段階的スケジュールとともに解説します。
楽天グループが金融3社統合へ、10月めど再編の全容
楽天グループが楽天銀行・楽天カード・楽天証券の金融3社を2026年10月をめどに統合する再編計画を発表。金利上昇時代の競争激化を背景に、エコシステム強化とコスト削減を狙う大型再編の詳細と課題を解説します。