公募投信の未上場株規制緩和が変える日本の成長資金循環の今後
はじめに
個人マネーをスタートアップ育成につなぐ仕組みとして、国内公募投信の制度変更が再び注目されています。2024年に資産運用業協会は、投資信託財産に未上場株を原則15%まで組み入れられる枠組みを整えました。さらに2026年2月には、その比率を一時的に超えた場合の対応整備に関するパブリックコメントを公表し、実務面の柔軟化へ踏み込みました。
この動きが重要なのは、未上場企業への資金供給を増やすだけでなく、上場前後をまたいで成長企業を支える「クロスオーバー投資」を日本でも個人向け商品として広げる土台になるからです。本記事では、制度改正の中身、運用会社の商品開発、そして個人投資家が理解すべきリスクを整理します。
制度緩和の中身
2024年改正で始まった15%解禁
制度の起点は2023年12月に公表された資産運用業協会の規則改正です。公表資料では、未上場株を投資信託財産に組み入れる場合、純資産総額の15%を原則上限とすること、流動性が著しく低いことに伴うリスク開示を厚くすること、未上場株の審査や評価の枠組みを整えることが示されました。狙いは、スタートアップなど非上場企業への円滑な資金供給と、投資家への多様な投資機会の提供です。
ここで重要なのは、単純な規制緩和ではなく「上限設定と情報開示のセット」で制度が設計された点です。未上場株は価格形成が見えにくく、売買相手も限られます。そのため、協会は投資機会を広げる一方で、評価方法や開示ルールを明確にし、一般の公募投信に持ち込む際の最低限の安全装置を整えました。日本の制度は、いきなり自由化するのではなく、流動性リスクを前提に段階的に解放する設計だといえます。
2026年改正案の焦点
2026年2月に公表された改正案のテーマは、「未上場株式等の組入比率の制限を超えた場合の対応に関する整備」です。これは、15%ルールそのものをなくす話ではなく、一時的な超過が起きた際の扱いを整理するものです。クロスオーバー型ファンドでは、未上場株の評価替えや上場直前後の価格変動、解約や設定に伴う純資産総額の変化で、比率が意図せず動く場面があります。そうした場面で、機械的に売却を迫ると、かえって投資家に不利な処分売りを招くおそれがあります。
野村アセットマネジメントの公募ファンド資料でも、未上場株やLPS持分は流動性が著しく乏しく、比率調整ができない場合があること、必要に応じて購入や換金の受付を中止する可能性があること、評価価格より低い価格で売却すれば基準価額に大きな影響が出ることが明記されています。今回の整備は、こうした現実の運用実務に制度側が追いつく意味合いが強いとみられます。
商品開発の広がり
国内公募投信の立ち上がり
制度変更を受けて、運用会社の動きは一気に具体化しました。野村アセットマネジメントは2024年8月、未上場株投資を含む国内初の日本株公募投資信託として「野村日本新鋭成長株ファンド」を提供すると公表しました。リリースでは、上場後10年未満の日本企業を中心に据えつつ、ジャフコが運用する未上場株投資のLPS持分を一部組み入れる設計を示しています。単なるIPO前投資ではなく、上場後も継続保有しながら企業価値向上を狙う戦略が特徴です。
野村アセットの特設ページでも、2024年のルール変更によって投資信託に最大15%まで未上場株を組み入れられるようになり、個人投資家にプライベート・アセットへの投資機会を広げたと説明しています。政府が掲げる「資産運用立国実現プラン」と、民間の新商品開発がきちんと接続した格好です。金融庁も同プランの一環として、資産運用業への新規参入や競争促進を進める方針を示しており、制度改正は単発ではなく政策全体の流れの中にあります。
外国籍ファンドと30%枠の示唆
一方で、国内籍公募投信の15%上限は、なお慎重な枠組みです。そのため、より高い未上場株比率を狙う運用会社は外国籍スキームも活用しています。時事通信の報道によれば、アセットマネジメントOneは2024年9月、日本の未上場株と上場株に投資する新ファンドを設定し、外国籍スキームを使うことで未上場株に上限30%まで投資できるようにしました。これは、日本国内の個人マネー需要に対し、制度の器をどう設計するかで投資可能性が大きく変わることを示しています。
裏を返せば、国内公募投信の枠組みが実務的に使いやすくならなければ、商品開発は海外籍に流れやすいということです。今回の「一時超過」容認は、国内籍ファンドを不利にしないための地味だが重要な補修工事といえます。投資家保護を維持しつつ、日本籍の商品で成長企業に資金を回せるかどうかが、今後の勝負どころになります。
注意点・展望
まず誤解しやすいのは、15%ルール緩和が未上場株投資を安全な商品に変えるわけではない点です。未上場株は情報開示が限定的で、日々の時価形成も乏しく、換金には時間がかかります。野村アセットの資料でも、未上場株の評価額は日次で更新されないことがあり、重要事象を基準価額に完全に反映できない可能性があると示されています。個人投資家は、上場株ファンドと同じ感覚で値動きや流動性を考えないことが重要です。
もう一つの論点は、制度が広がっても投資先の目利きが追いつくとは限らないことです。クロスオーバー投資では、上場企業分析に加えて、未上場企業のガバナンス、資本政策、上場後の需給まで見なければなりません。規則が整っても、運用会社に十分な調査体制がなければ、商品だけ先行する危うさが残ります。
それでも方向感は明確です。日本の公募投信市場が、預金代替や上場株運用だけでなく、成長企業への長期資金供給を担う段階へ少しずつ移り始めています。今後は、今回の改正案が正式化されるか、実際のファンドで購入停止や換金制限がどの程度発生するか、そして国内籍ファンドの新規設定がどこまで続くかが注目点になります。
まとめ
公募投信の未上場株ルール見直しは、単なる運用規制の緩和ではありません。日本の個人金融資産を、上場前後の成長企業へどうつなぐかという資本市場改革の一部です。2024年の15%解禁で制度の扉が開き、2026年の一時超過対応整備で、ようやく実務に耐える形へ近づいてきました。
読者が見るべきポイントは3つです。第一に、制度は広がっても流動性リスクは消えないこと。第二に、国内籍ファンドの競争力は実務ルール次第で大きく変わること。第三に、スタートアップ支援を本当に機能させるには、運用会社の目利きと情報開示の質が決定的だということです。商品名ではなく、組入れ方法、換金条件、評価ルールまで確認する姿勢が、これからの公募投信選びでは欠かせません。
参考資料:
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