商業施設で進む推し活化 ゲームセンターと中古ホビーの構造変化
はじめに
ショッピングセンターの役割は、服や日用品を買う場所から、好きな作品やキャラクターを追いかける「滞在型の遊び場」へと広がっています。クレーンゲーム、アニメ公式ストア、中古ホビー、カプセルトイ、コラボ催事が同じフロアに並ぶ光景は、もはや一部の大型施設だけの話ではありません。商業施設にとって重要なのは、単価の高い一回の買い物だけでなく、何度も来てもらえる理由をどう作るかに移っているからです。
この変化を支えるのが「推し活」消費です。CDGとOshicocoの2025年調査では、推し活人口は約1384万人、年間支出は1人あたり平均25万5035円、市場規模は約3兆5千億円と試算されました。推し活はチケットや遠征だけでなく、公式グッズ、景品、交換、再販、中古購入まで含む幅広い消費行動です。本記事では、なぜ商業施設でゲームセンターやリユース店が伸びるのか、その背景と持続性を読み解きます。
推し活需要がSCのテナント構成を変える背景
物販より回遊と再訪を生む推し活消費
推し活の強みは、単発の高額消費だけではありません。新作グッズの発売、コラボ企画、景品入れ替え、ライブ前後の買い足し、交換需要など、来店理由が継続的に発生する点にあります。商業施設から見れば、これは非常に扱いやすい需要です。セール日や大型連休だけに頼らず、平日や短時間でも来店を促せるからです。
さらに、推し活は「買う」と「探す」と「見せる」が一体化しています。クレーンゲームで景品を取る、専門店で公式グッズを買う、リユース店で欲しかった過去商品を探す、友人と写真を撮る。この一連の行動は、従来のアパレル買い回りより滞在時間が長く、複数店舗をまたぎやすい特徴があります。施設側にとっては、物販単体の売上だけでなく、フードコートやカフェ、周辺雑貨店への波及も期待しやすい構造です。
日本ショッピングセンター協会の2024年年間調査では、既存SC売上高は前年比5.8%増、全SCベースの年間売上高推計は32兆1254億円でした。需要回復の流れは続いていますが、施設間競争はむしろ激しくなっています。売上が戻ったからこそ、「どの施設に行くか」を決める目的性の差が問われやすくなっています。
ゲームセンターが再評価される理由
この文脈で見直されているのが、クレーンゲーム中心のアミューズメントです。JAIAの2025年公表資料によると、2023年度のアミューズメント産業界の市場規模は7200億円、そのうちオペレーション売上高は5384億円でした。コロナ禍からの回復に加え、商業施設のにぎわい回復やインバウンド復調も追い風になっています。
クレーンゲームが強いのは、単価が比較的低く、挑戦回数を増やしやすい一方で、景品がキャラクターや限定品と結びつきやすいからです。消費者にとっては「買う」よりゲーム性があり、施設側にとっては景品入れ替えで鮮度を保ちやすい業態です。GENDA GiGO Entertainmentは2025年7月、商業施設「ベアーズモール清武」にクレーンゲーム専門店を開き、148台のクレーンゲームと64面のカプセルトイ自販機を導入しました。ファミリーや初心者も長時間滞在できる設計を前面に打ち出しており、単なるゲームコーナーではなく「滞在型の目的店舗」として位置づけていることが分かります。
ゲーセンとリユースが相性のよい理由
公式グッズと中古ホビーが循環する売場構成
推し活消費では、新品だけで需要は完結しません。過去に買い逃した商品、すでに終売した景品、ランダム商材の交換需要などがあるため、中古ホビーやリユースの役割が大きくなります。ここに商業施設が注目する理由があります。新品の公式ストアと中古ホビー店が同じ施設内にあると、消費行動が一方向で終わらず、回遊が生まれるためです。
実際に、商業施設のリニューアルでもこの流れは鮮明です。ダイバーシティ東京 プラザは2025年3月、5階西側エリアに世界最大規模の「ゴジラ・ストアDaiba」や「クレヨンしんちゃん シネマパレードツアー」、エリア初出店の「らしんばん」など計8店舗を導入しました。アニメ公式ストアと中古ホビーを同じ区画に集積することで、観光客、コアファン、ファミリーまで取り込む設計です。
ブックオフグループも、2025年時点の出店方針として、200坪から300坪クラスの出店強化とともに、複合型や商業施設内上層階での出店を明示しています。実際に「BOOKOFF SUPER BAZAAR イトーヨーカドー八王子店」など商業施設内の新規出店を進めています。ゲオグループも2025年3月に新規17店舗を開き、そのうち9店舗が「セカンドストリート」でした。リユースは以前のような郊外単独店だけでなく、商業施設の集客装置として再配置されつつあります。
施設側の採算と運営の現実
商業施設がこれらの業態を歓迎する理由は、売上以外にもあります。第一に、イベントとの連動がしやすいことです。新景品投入、限定販促、館内回遊キャンペーン、撮影スポット設置など、施設全体の販促に組み込みやすい強みがあります。第二に、ファンコミュニティの自発的な情報発信を呼び込みやすいことです。SNS投稿は施設の広告費を代替する面があります。第三に、上層階や奥まった区画でも目的来店を起こしやすいことです。
特に上層階との相性は重要です。映画館、フードコート、アミューズメント、ホビー売場は、計画的に足を運ぶ人が多く、路面の視認性に依存しにくいからです。ブックオフが商業施設内上層階での出店を明示しているのも、この導線特性を見込んでいるためでしょう。推し活関連の売場は、必ずしも一等地でなくても成立しやすいのです。
注意点・展望
もっとも、推し活テナントなら何でも伸びるわけではありません。最大のリスクは鮮度管理です。景品もグッズも話題の入れ替わりが速く、在庫やIP選定を誤るとすぐに陳腐化します。地域特性とのズレも無視できません。都市型施設ではコアファン向けの専門性が効きやすい一方、郊外SCではファミリー対応や低単価の遊びやすさがより重要になります。
もう一つの注意点は、推し活を「若者向けの一過性ブーム」と見誤ることです。先の調査では30代前半女性の伸びが目立ち、推し活はより広い世代へ浸透しています。だからこそ、施設側にはアニメ専門フロアだけでなく、休憩場所、撮影しやすい空間、買い回りしやすい導線設計まで含めた発想が求められます。
今後の商業施設は、モノを売る場とコミュニティの接点を重ねる方向へ進みそうです。ゲームセンター、キャラクター物販、リユースは、その中核になりやすい組み合わせです。推し活の強さは、欲しいものを買う行為だけでなく、探す、遊ぶ、交換する、共有する行為が施設内で連鎖する点にあります。SCの「推し活化」は、テナントの流行ではなく、商業施設そのものの役割が変わっているサインと見るべきです。
まとめ
商業施設でゲームセンターやリユース店が伸びるのは、単に空き区画を埋めやすいからではありません。推し活消費が、回遊、再訪、滞在時間、情報発信を同時に生む需要だからです。クレーンゲームは景品更新で鮮度を保ちやすく、中古ホビーは新品売場と相互送客を起こしやすいという強みがあります。
施設運営の視点で見れば、推し活は「物販不振の代替」ではなく、来店目的を作る新しい核です。今後の勝ち筋は、単発のポップアップを並べることではなく、遊ぶ、探す、買う、共有する体験を一つのフロアや導線でつなげられるかどうかにあります。
参考資料:
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