推し活市場3.8兆円へ急拡大、中高年が消費をけん引
はじめに
「推し活」と呼ばれる、特定の人物やキャラクターを応援する消費活動が2020年代に入って急速に拡大しています。野村総合研究所(NRI)の調査によると、15〜69歳の推し活人口は約2,600万人に達し、国民の3人に1人が何らかの「推し」を持つ時代になりました。関連消費の市場規模は約3.8兆円にまで膨らんでいます。
注目すべきは、かつて10〜20代が中心だった推し活の担い手が、中高年層にまで広がっている点です。物価高が続くなかでも推し活への支出は堅調で、可処分所得の高い中高年の参入が市場拡大の大きな原動力となっています。本記事では、推し活市場の最新動向と中高年消費の実態を多角的に解説します。
推し活市場の現在地:3人に1人が「推し」を持つ時代
2,600万人の推し活人口
NRIが2025年3月に公表した調査結果では、推し活を実施している人は約2,600万人に上ります。また、インテージが2025年1月に実施した調査でも、推しを持つ人は全体の35.1%と報告されており、3人に1人が推し活に参加しているという傾向は複数の調査で裏付けられています。
推し活の対象ジャンルは多岐にわたります。インテージの調査によると「ミュージシャン・バンド」が10.9%で最多、次いで「国内のアイドル」が10.2%、「俳優・女優・モデル・タレント」が8.8%、「アニメ」が8.6%、「スポーツ選手」が7.2%と続きます。音楽やアイドルだけでなく、スポーツやアニメなど裾野が広がっていることが市場拡大の背景にあります。
ジャンル別の市場規模
市場規模をジャンル別にみると、「国内のアイドル」が約4,709億円で最大です。「ミュージシャン・バンド」が約3,548億円、「スポーツ選手」が約1,565億円と続きます。これらを合算し、周辺消費も含めた総市場規模が約3.8兆円に達するとされています。
CDG(推し活総研)が2025年1月に実施した調査でも、推し活市場は約3.5兆円規模と推定されており、前年の約3兆円から大幅に拡大しています。調査機関によって推計の幅はあるものの、3.5兆〜4兆円規模というのが現在の共通認識です。
中高年層の参入が市場を押し上げる構造
40代以上で約1,200万人が推し活を実践
推し活の主力は依然として若年層ですが、近年は中高年層の存在感が増しています。NRIの推計によると、40代以上で推し活を実施している人は約1,200万人に達しています。これは推し活人口全体の約半数近くを占める規模です。
ハルメクホールディングスが2025年6月に50〜88歳の女性529名を対象に実施した調査では、50代以上の女性の46.3%が「推し」を持つと回答しています。年代別にみると50代が48.5%、60代が46.2%、70代が45.1%と、年代間の差が小さいことも特徴的です。
年間支出は平均11万円超、前年から1万円以上増加
中高年の推し活が市場に与える影響は、金額面で顕著です。ハルメクの同調査によると、50代以上女性の推し活への年間支出額は平均114,039円で、前年より1万円以上増加しました。
支出の内訳では「チケット代」「映像・音楽の購入費」「応援グッズ」が前年より増加しています。一方で「遠征費」「聖地巡礼費」は減少傾向にあり、体力面の制約から地元や近場での消費にシフトしつつも、グッズやコンテンツへの投資は積極的に行われている姿が浮かびます。平均推し歴は約14年と長く、長期にわたって安定的に消費を続ける「古参ファン」の存在が市場の底堅さを支えています。
物価高でも揺るがない「推しパワー」
5割超が「物価高の影響を受けない」と回答
推し活市場の成長を語るうえで見逃せないのが、物価高への耐性の強さです。インテージの調査では、物価高・円安が推し活に「全く影響しない」と回答した人が54%に達しています。特に高齢層ほどこの傾向が顕著で、60代では73.0%、70代では66.3%が影響を受けていないと回答しました。
また、BCN(BCN+R)の報道によると、物価高を理由に推し活の支出を「減らしていない」とする回答は48.1%に上り、減らさなかった理由としては「推し活がもたらす精神的な満足感や幸福度を維持したかったから」が38.8%で最多でした。
食費は削っても推し活費は守る消費行動
インテージの調査では、食材などの生活費を「予算を減らした」と答えた人が約7割に上る一方、推し活費は堅持されるという興味深い消費パターンが確認されています。これは推し活が単なる娯楽ではなく、精神的な充足感や幸福度に直結する「必要経費」として位置づけられていることを示しています。
野村證券の分析でも、推し活への支出は「エンタメ消費」という新しいカテゴリーとして確立され、物価高や円安の影響を受けにくい支出領域になったと指摘されています。ニッセイ基礎研究所の2025年の消費動向レポートでは、賃金上昇率が物価上昇率を安定的に上回る見通しのなかで、推し活をはじめとする「こだわり消費」がさらに定着していくと予測されています。
高単価グッズとサービスの多様化が市場を拡張
カスタマイズ可能なグッズがトレンドに
推し活市場の拡大を支えるもう一つの要因が、グッズやサービスの高度化・多様化です。プラスワンインターナショナルの調査によると、2025年に人気の推し活グッズとして「アクリルスタンド」が43.8%、「キーチェーン」が40.2%、「ぬいぐるみ」が39.6%が挙げられています。
特に注目されるのが「カスタマイズ可能なグッズ」のトレンドです。デジタル印刷技術の進化により、アクリル、布、金属など多様な素材で、小ロット・多品種の高品質グッズが制作可能になりました。推し活総研は2025年の推し活3原則として「低価格×豊富なアイテム×カスタマイズ自由」を挙げており、消費者の個別ニーズに応える商品展開が市場全体の単価を押し上げています。
グッズからサービスへの拡張
推し活の消費対象はグッズにとどまりません。2025年1月に開催された「推し活GOODS EXPO」には約60社が出展し、推しの音声ガイダンスや推し自販機など、体験型の新サービスが多数披露されました。従来の物販中心から、体験・サービス消費へと推し活の経済圏が拡張していることがわかります。
注意点・今後の展望
市場拡大の持続性に関する課題
推し活市場は急成長を続けていますが、いくつかの注意点もあります。まず、推し活支出は個人の可処分所得に依存するため、景気後退が長期化した場合には影響を受ける可能性があります。現時点では「物価高でも削らない」という傾向が見られますが、これは実質賃金の改善が前提です。
また、チケット代の高騰やインバウンド需要による会場の逼迫が、ファンのアクセスを制限する要因になりつつあります。ハルメクの調査でも「遠征費」の減少が見られ、参加コストの上昇が一部の消費行動を抑制している兆候があります。
中高年市場のさらなる開拓余地
一方で、中高年層の推し活市場にはまだ大きな成長余地が残されています。40代以上の約1,200万人という推し活人口は、同年代の総人口に対する比率ではまだ低い水準です。可処分所得が高く、時間的な余裕もある中高年層に向けた商品・サービスの開発が進めば、市場はさらに拡大する可能性があります。
NRIのコンサルタントも、推し活市場のポテンシャルとビジネスの可能性を高く評価しており、企業にとって中高年の推し活層は今後の重要なターゲットになると分析しています。
まとめ
推し活市場は約3.8兆円規模に達し、国民の3人に1人が何らかの推しを持つ一大消費文化に成長しました。特に中高年層の参入が目立ち、40代以上で約1,200万人が推し活を実践しています。50代以上の年間支出は平均11万円を超え、物価高のなかでも推し活費を削らない消費者が過半数に上ります。
この背景には、推し活が単なる趣味を超え、精神的な幸福度を支える「必要な消費」として定着したことがあります。高単価グッズや体験型サービスの多様化も市場の成長を後押ししています。今後は可処分所得の高い中高年層をターゲットとした商品・サービス開発がさらに進み、推し活経済圏の拡張が続くと見込まれます。
参考資料:
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